グルメ編
第2部だったのですが、4部に変更させていただきました。
様々な偉人達の中で、なんと言っても一番多いのは食通だ。
どうしてこんなにいるのだろうと思うほど、食べ物にこだわっている人達がいる。
「鯖は関鯖にかぎるね。ラーメンは、あの店のスープにあっちの店の麺を入れたら最高だね。
あっ、その大根おろしの汁、そこがおいしいんだよね、知ってた? ねえ、その焼き鳥、カリカリになるまで焼いてね。 大将、焼き方最高だね、こうばしくっておいしいよ」
真っ黒に焼けた肉の上に、雪のように降り積もった塩。
皿一面を真っ赤な花畑に変えた唐辛子。
皿から溢れそうになる醤油の池。
食通の味覚はものすごい。
常人のぼく……いや、ただの鳥のぼくにはは、とうていついていけない味覚である。
また、こんな食通もいる。
「あそこの焼鳥屋はおいしいよ」
「そうですか」
「塩は何使っているの?」
「いやあ〜、お客さん、企業秘密ですよ」
人間都合が悪くなると企業秘密だとかなんとか言って、ごまかそうとする。
「海水で作る塩なんかも、取れる場所によって違うよね。 ピンク岩塩なんか最高だよねぇ」
「そうですね」
「焼鳥屋によっては、自家製の辛味噌置いてあるところがあるよね。 あれいいよね。 ここでも出せば」
「辛味噌、おいしいですよね」
「焼き鳥はやっぱり炭に限るね、備長炭がいい。 炭の香りがつくんだよね。 ここ、なにで焼いているの?」
「すみません、ガスなんですよ」
「ガスかぁ、炭に変えたらいいと思うよ」
「そうですね」
「お宅も炭にすればいいのに、紹介してあげようか。 知り合いに炭を卸している人がいるから」
と、色々焼き鳥のえらーい講釈をするのだが、この客、いつ来てもここの焼き鳥は一本もたのまない。
う〜ん、味見もせずに味がわかるのだから偉い。
まあ、この客に限らず、焼き鳥に対する能書きを言う客に限って焼き鳥をあまり食べなかったりする。
さて、今宵はいったいどんな偉人がこの店の暖簾をくぐるのだろう。
この店に集う多くの偉人達に乾杯。
そして、毎日、偉人達の会話に相槌を打ち続ける旦那さんにぼくは脱帽する。