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07 「その名は」

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(:上空 精神体レムリア)


 レムリアは馬の肉体から精神だけを取り出し、シリウスの闘いを上空から眺めていた。今は馬の姿ではなく、人の姿である。シリウスは帝国騎士団の兵士たち、そして部隊長と大班長合わせて三十七人を殺し、そして今、残り十人の兵士たちと対峙している。

 その顔に狂気の笑顔を湛えて。


 前世のシリウスーーxxxはユーロ帝国建国史中で語られるような残虐な魔王では決してなかった。むしろ人との繋がりを求める孤独な魔王であった。―—そして、絆を求めるが故に、xxxはその心の奥深くに狂気を宿すようになる。


(孤独の中で、いつしか闘いだけがxxxの他人との唯一の繋がりになったということ?)


 レムリアは推測する。

 xxxを魔王と認めない魔族達、魔王を討伐しようとxxxに闘いを挑む者たち。そういった闘いの中で唯一xxxは他人と語り合い、拳で分かち合い、痛みを与える事で自らの存在を誇示する事ができた。

 そうやってxxxは内に秘めた狂気を殺しで爆発させ、そして転生した後もその性質はシリウスに受け継がれている。


(子育て、間違えたかな)

 

 精神体であるレムリアだが、上空で少し落ち込んだ。


 

 ◎


 

 筋だらけの肉に穢れきった魂八つばかりで魔界からわざわざ召喚されてやった妾に、敬意を払わず命令を下す不届きもの二人をぶった斬った後、改めて辺りを見回す。血の臭いがする。遮蔽物のない、見通しのいい平原に数十もの死体が転がっている。盲いた妾にはその光景は見えないが、しかし妾はその惨状を<視ている>。

 妾の目ーー<邪眼>は長い年月をかけてその呪いを深めていき、そしてやがて妾の光を奪った。しかし妾は周囲に自らの魔力を飛ばすことで障害物や他人の存在を認識し、その細部まで<視る>ことができる。

 そしてこの悪趣味な光景を作り出したであろう元凶も感じることができた。その容姿がありありと脳内に浮かび上がる。

 年は十を数えるほどであろうか。目元までの黒髪、瞳は茶色。顔はよく整っており、あと数年もすれば妾好みのいい男になろう。しかし、背丈が小さいのがキズじゃな。それから、その表情も気に入らん。剣の柄に手をかける。


「どう見たって狂人のそれじゃな、餓鬼」


 血の海の中、嗤う少年が一人。

 殺さずとも帰れる。少年は嗤うばかりで動こうとしていないし、妾はまた死体たちの影を繋いで<門>を起動すれば、すぐに魔界に還れるのだから。

 しかし、この餓鬼は―—


「気に入らんわッ! <哭け邪剣>!」


 シッ

 妾は邪剣を一振りして空刃を飛ばす。邪剣はすぐに鞘に戻す。あまり鞘の外に出しておくと、……妾の正気が保てなくなる。鞘から出している間は邪剣に魔力を与え続けなければならん。五分以上外に出しておくと、邪剣が持つ魔力が妾の体に逆流し、意識を失ってしまう。

 ―—放った空刃は精確に餓鬼の方へ向かう。そしてその刃によって餓鬼の体が切り裂かれ鮮血が―—

 

「……!?」


 空刃が消滅している。餓鬼の右手が振り払われている。餓鬼の視線が妾を捉えた。 妾は<視た>。凍てつくような、その奥の奥に闇が蹲っているような瞳。

 

(なんじゃ……!? 何故……何故妾が……!?)


 妾の膝が震える。口が開く。体の奥の奥が冷たくなるが、額から汗が噴き出る。剣の鞘が震えでかたかたと音を立てる。


(何故妾が恐怖している!?)


 妾は今にもへたりそうな足腰をなんとか気力で支えた。額から汗が垂れる。


「な……何者じゃ貴様……! 名を、名を名乗れ!」

「―—"xxx"」

「ッ!?」


 キィン! と甲高い金属音が鳴った。火花。餓鬼がいつの間にか剣を手にし、そして妾に切り掛かってきた。妾はなんとかその攻撃に反応し、<邪剣>を鞘から抜き、その攻撃を防ぐ。


「貴様……今なんと名乗った……!」

「"xxx"」

「その名は……その名はァッ!」


 怒りで……頭が沸騰しそうじゃ!

 妾は邪剣で前方を薙ぐ。しかし餓鬼はバックステップでそれを躱す。

 追撃の好機!


「<焔災>!」


 妾は邪剣に魔力を流す。邪剣が妾の魔力を食い、歓喜し、キィィと哭く。やかましい!

 邪剣が食った魔力を火属性の魔術に変えて吐き出す。妾がそれを再び薙ぐと、炎が四方に広がった。これを食らって生きてはいまい!


「どうじゃッ!」

「―—悪くない」

「ッ!?」


 どういうことじゃ!? 妾はそのまま前へ跳ね、炎の海の中に沈む。自身が放った炎は自らの身を灼かない。妾は攻撃をしながら、今、防御をしている。


「どうなっておる……!?」

「中々、れるな? 素晴らしい攻撃だった。さぁ、次は? 次はどうする?」

「どういうことだ!? しかし……これは……まるで”あの方”の……何故……何故……!」

「お前が生んだ炎の中でいつまでも蹲っていても面白くないだろう? さぁ、さぁ、さぁ、早く、早く、早く、早く!」


 嗚呼……! これではまるで! ほんとうに!

 この餓鬼の体にあの妾のものであるあの美しい魂、暴力的な強さ、歪んだ狂気が宿ってしまったとでもいうのか!?


「何故……何故貴様は前代魔王の、―—妾の恋人の名を名乗る!」









「……はあ?」







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