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03 『殲滅セヨ』


(:ウィード村を囲む森林内)


 俺は虚飾の神アリアスに授けられた<隠密>のスキルを使っていた。故に、樹上にいる俺に、奴らは気付いておらず、大声で話をしていた。



「で、これから襲う村は金になるのか?」

「まあ稼ぎにゃなるだろう。襲って、物は奪って売っぱらって、人は首輪嵌めて奴隷にして売っぱらえばいいんだからな」

「人は首輪嵌めて、なんて言ってるけどよォ。コイツ等が全部殺しちまうじゃねえかよ、いっつも」

「仕方ねえだろう? 数が増えて、言うこと聞きやがらねえんだ。まあ、ここはフォレスティアの領土だ。次襲う村にゃあエルフも沢山居るだろうよ、エルフは高く売れるから、気をつけねえとなあ」


 男三人が会話している。どちらも下卑た面を引っさげており、その服装は山賊のそれだ。そして、片方の男がいった”コイツ等”は口から唾液を滴らせ、手に持った棍棒を地面に叩き付けながら歩いていた。

 ―—ゴブリン。

 緑色の肌、毛一本生えていない体、尖った鼻と耳に黄色の目。大きさは九十センチほどだが、ゴブリンが持つ力は大の男を二、三人まとめて吹っ飛ばしてしまう。殺戮を好む。彼らは襤褸を身にまとっており、そしてみな一様に、黒光りする首輪を嵌めていた。<鑑定>。


<ゴブリンの首輪>(ゴブリンを使役する者が用いる首輪。自身の魔力を込めた首輪をするゴブリンたちに命令を出す事ができる。数が多い程、ゴブリンは命令を無視し、<ゴブリン使役>のスキルレベルが高い程、ゴブリンは命令に従順になり、より高度な命令を出す事ができる。魔力を300消費する事で、首輪の所有権を奪う事が可能)

 

 ほう、魔力300消費するだけで、あのゴブリンたちを奪う事ができるのか。

 続いて、男たちを<鑑定>する。


[ゴレムス] <<山賊>>

level 12 age 32

体力 28/28

魔力 0/0

スキル

<<短刀適性/威力+2>>(短刀の適性がある。短刀を用いた時に威力が上がる)

!神罰 (神々に背く行為を繰り返した。死んだ際に救済が行われず、地獄に堕ちる。このステータス異常は鑑定のスキルレベルが20を超える者のみに表示される)


[ジャバラ]<<山賊>>

level 11 age 29

体力 27/27

魔力 0/0

スキル

<<短刀適性/威力+2>>(短刀の適性がある。短刀を用いた時に威力が上がる)

!神罰 (神々に背く行為を繰り返した。死んだ際に救済が行われず、地獄に堕ちる。このステータス異常は鑑定のスキルレベルが20を超える者のみに表示される)

 

[ビーリカ]<<山賊>>

level 15 age 33

体力 32/32

魔力 12/22

スキル

<<短刀適性/威力+2>>(短刀の適性がある。短刀を用いた時に威力が上がる)

<<ゴブリン使役+1>>(ゴブリンの首輪を用いる事で、ゴブリンを使役する事ができる。スキルレベルが上昇すると、ゴブリン達は命令に従順になり、高度な命令を理解するようになる)

!神罰 (神々に背く行為を繰り返した。死んだ際に救済が行われず、地獄に堕ちる。このステータス異常は鑑定のスキルレベルが20を超える者のみに表示される)



 レムリアが持っていた<神罰>の効果は、ステータス異常扱いで、その効果は地獄に堕ちることらしい。但し、本人達にはそのステータス異常は見えていないようだ。そっちの方が幸せか。

 しかし、会話に問題があった。どうやら彼らは山賊で、村を襲って物を奪い人々を奴隷にするらしい。怒りによって頭が熱くなる一方で、シーラが村に着くまではまだもう少し時間が有る、などと考えていた。


 ようやく手に入れた平穏を、このような下衆どもに奪われることがあってはならない。ようやく手に入れた平穏を、俺は守らなければならない。俺が、守らなければならない。

 俺は、<隠密>を解除した。木を踏みしめる。ざ、と音がして、山賊達とゴブリンが一斉にこちらを振り向く。


「うお! なんだ、ガキ? ずっとそこに居やがったのかァ?」

 

 [ゴレムス]がそう言って、口の角を歪める。[ジャバラ]が短剣を手に取るのを、俺は視界の端で捉えていた。


「ガキ、この先の村に住んでんのか? ちょっと俺たちをその村まで案内してくんねえかなあ? てめえを人質に取りゃあ、簡単に事が運ぶだろうよ。命までは取りゃしねえからよ」


 [ビーリカ]がそう言って、手招きする。ゴブリンたちはこれから自分たちが行うであろう殺戮に歓喜しているのか、各々がぎゃあぎゃあと醜い鳴き声をあげていた。

 俺は木から飛び降りる。男たちとゴブリンに対峙する。


「ガキ、手を挙げたまま、こっち来い。テメエら、うるせえから下がってろ!」


 [ビーリカ]がそう言って、ゴブリンたちを自分の後ろに移動させる。俺はビーリカの言う通り、手を挙げたまま、男達に歩み寄る。


「キヒヒヒヒッ!」

「あ、てめえッ!」


 その時、ゴブリンのうちの一匹が[ビーリカ]の命令に背いて、彼の背後から棍棒を握ってこちらに飛び出してきた。その顔には醜い笑みが浮かんでいる。ゴブリンが棍棒を振りかぶる。

 

 轟!

 俺は超初級魔法、<炎>を無詠唱で発動する。ゴブリンの身を無慈悲に抱く炎、数秒後の断末魔。山賊達の顔が驚愕に歪み、燃えるゴブリンに視線が注がれる。


「てめェ、ガキ!」


 山賊達が俺が居た所に視線を移すときには、もう既にそこに俺の姿は無い。

 ―—<隠密>。俺は近くの茂みに姿を隠し、完全に気配を殺す。それから、ゴブリンたちに視線を移した。黒光りする首輪。


「クソが、どこ行きやがった!? 探せ、クソっ!」

「お、おい……あのガキ、魔法の詠唱してなくねェか?」

「ビーリカ、アイツ、とんでもねえ魔法使いなんじゃ……」

「どうせしょうもねえ小細工だろうが! ガキ一人にびびりやがって! さっさと探せ!」


 [ビーリカ]がそう叫ぶと、[ゴレムス]と[ジャバラ]がびくりとして、それから辺りを見回す。ゴブリンたちは動かない。俺は一匹一匹に狙いをしっかりと定め、魔力を飛ばして、少々の細工をする。―—準備はできた。俺は<隠密>を解除し、茂みから出た。

 山賊達の視線が集まる。


「クソガキ……テメェは今、ここで殺してやる!」

「今までゴブリンの力を頼って村を襲ってきたのか?」

「あァ!?」

「お前達のようなザコはこのような醜悪な小鬼を使役でもしなければ、山賊を続けていけないんだろうな」

「コケにしやがって……! てめえ等、やれ!」


 [ビーリカ]がゴブリンに号令をかける。号令をかけられたゴブリンたちが一斉に飛び出して……

 ……来ない。


「お、おいビーリカ、どうなってる」

「なんで、なんでコイツ等動かねェんだよ」

「う、うるせえよバカ! 黙ってろ! おい、ゴブリンたち! あいつを、あいつを殺せ!」

「無駄だ。俺はその首輪に流れる魔力を<書き換えた>」

「ど、どういうことだ……!?」

「お前が小さく、虫けらのようにその首輪に流していた魔力を、俺の魔力で塗りつぶしてやったんだ。<ゴブリン使役>のスキルは持ってないが……案外、魔力の量だけで、上手くできるな。ゴブリン達、整列しろ」


 俺がそう命じると、列などなにも作っていなかったゴブリン達が練度の高い兵隊のように一斉に整列した。

棍棒をしっかり立て、まるで騎士のようだ。


「ど、どうなってやがる……魔力の書き換えだと……? どんだけ魔力流せばここに居るゴブリン全部の首輪に流れる魔力の書き換えなんかできるんだよ……!?」

「300×20だから、6000だな」

「パチこいてんじゃねえぞガキ! 魔力6000なんざ、帝国の魔導騎士団長レベルだろうが!」

「ぎゃあぎゃあと騒ぐなよ」


 俺はぱちん、と指を鳴らす。ゴブリンが一斉に動き、山賊達を囲む。慌てて彼らは武器を構えた。


「お、おい! ビーリカ! なんとかしろよ! ゴブリン使いだろ!」

「うるせえよてめえ一人じゃなんにもできねえくせに!」

「な、なあ! 降参する! 俺一人だけでもいいから助けてくれ!」

「てめえジャバラ!」

 

 山賊達がゴブリンの輪の中でごちゃごちゃとやっているが、知ったことではない。


「ゴブリン達よ、命令する。―—『殲滅セヨ』」


 ぱちん、と指を鳴らし、俺は惨状を見ないように彼らに背を向ける。ゴブリンの鳴き声と、男達の悲鳴が聞こえた。棍棒が頭蓋を割る音が聞こえた。




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