01 状況確認
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(:”東の農村”ウィード村)
暴力的な眠気が体を包んでいる。
目が開かない。辺りの様子が分からない。俺は体を起き上がらせようとして、漸く自分の体が赤子のものであることを思い出す。
(そうか……転生したのか)
赤子の体はひどく不自由であり、寝返りをうつ事すらできなかった。ひどく眠いが、手を開いたり閉じたり、足をばたばたと動かしてみたりして、自分の体の感覚を確かめる。この一生を共にする体である。四肢の欠損は無く、痛みなども感じなかった。
目が開かないのは眠気が凄まじいからだろう、と俺は推測する。聴覚は、と感覚を研ぎ澄ませると、鳥の鳴き声が微かに聞こえていた。ああ、いい気持ちだ、とそう思っていると、別の物音ーー人の足音が耳に入ってきた。
「ああ、起きた! お腹空いてない?」
この声は、と思う。眠気に抗って、瞼を開ける。
目に入る光。それから、レムリア。その顔に微笑みを湛えている。
(何故レムリアがここに?)
そう思うと同時、睡魔が体を襲う。闇に意識が溶ける。
◇◇◇
(:”ライフ・ストリーム”輪廻の輪の中)
「いま、全能神さまに許可を取ってきました!」
おんおんと大声を立てて泣いていたレムリアがその涙を拭い、「少し待っていて下さい」とその姿を消してから数十秒後、彼女はそう言って、右の手に『許可証』とだけ書かれた紙を持ってきた。
(全能神さま?)
「全能神さまはあたしたちを造りたもうた神で、まあ簡単に言えば、神様の神様です。その全能神さまから、条件付きではありますが、あなたが記憶を有したまま転生する許可を得ました! 拍手っ!」
拍手しようにも俺には肉体が無い。しかしそんなことには目もくれず、レムリアはぱちぱちと滑稽な拍手をしている。
(条件って、なんだ)
「あなたの監視です。現世であなたが為す事を記録し、十年に一度報告せよとのことです」
(それだけか?)
「それだけです。あなたが再び魔王として悪逆を尽くそうが、慈善家になって金をばらまこうが、全能神さまは干渉しないそうですよ!」
(悪逆を尽くしたことなんか、ない。それで、監視って、具体的には?)
「あたしが現世に行きます」
(……レムリアが? 仮にも神様だろう?)
「有給休暇、貰っちゃいましたあ! えへへ」
神様の給料とはどんなものだろう、と俺は考えたけれども、面白いアイデアが出てこなかったので、すぐに思考を停止した。
「あたしは現世に降臨して、あなたの動向を観察します。まあ降臨と言っても、あちらに肉体を用意して、そこにあたしの魂を少し加えるだけなんですけど」
(……難しい話はよく分からない)
「あ、そうだ、あたし、あなたのお母さんになれと、全能神さまに申し付けられました」
(はあ?)
「あなたは家族を知らないでしょう。全能神さまは哀れみになって、あたしに母になれと申し付けられました。なので、あたしはこれから、あなたの母です。これからは敬語も、やめるね! ママって呼んでね!」
話の飛躍についていけなくなった俺は、頭の中でこれまでの話を整理しようとしたが、駄目だった。兎にも角にも、俺は転生できる、という事実だけは確認できた。
「これから転生する時代、場所については転生先で教えるね。先に決めなきゃなのは、あなたの転生先での名前。名前は祝福の魔術として作動する、重要な要素だから。今、決めちゃおうよ。魔王としてのあなたの名前だった名前でもいいんだけど、どうする?」
俺の名。
忌み名として、その名に呪いの魔法がかかっているとして、一度も口にされなかったその名。
(……魔王としての名は、捨てる。ぜひ、レムリアに、名前を決めてもらいたい)
「あたしが?」
レムリアが目をぱちくりとさせる。
(俺の母親になるんだろう。ぜひ、決めてもらいたい)
「んー……そうだなあ。それだったら、あなたの名前は、ルシウス。ルシウスがいいよ」
(ルシウス……)
「あたしはレムリア=トランシス。あなたはルシウス=トランシス。仲良くやっていきましょ?」
レムリアが俺に手をかざす。その手に莫大な魔力が集まっていく。
体が光に包まれる。意識が飛ぶ。何も見えなくなる。そして、重さを感じる。
:(”東の農村”ウィード村)
どのくらいの間寝ていたのかは分からないが、鳥の鳴き声は聞こえなくなっており、外からの光は入ってこなくなっていた。もう陽は落ちたのか。
「この時代は前世のあなたが生きた時代の約二百年後の世界。ここはエルフの森国フォレスティアと神聖ユーロ帝国の狭間の村、ウィード村。発達した都市もいいんだけどお、あたしがこういうゆったりした田舎で暮らしたいなあって思って、この村に転生しました! えへへ。いいでしょう、この家? ……って言っても、ベッドから降りられないから、全然分かんないよね」
状況確認、とレムリアが色々教えてくれた。確かに全然分からないが、ベッドの上の居心地は非常に良かった。前世では特定の住まいも構えていなかったので、見つけた洞窟で雑魚寝していたのだ。
「う”う”〜ベッドにすら感動してるよ”〜可哀想だよう”〜! いっぱい寝かせてあげるからね〜!」
レムリアの涙がぼだぼだと俺の顔にかかる。まだ上手く体が動かせないので、その顔を拭う事ができない。少し不快だ。ていうか、この世界でも思考が読めるのか。ありがたい。まだこの体では、声帯やら舌が発達しておらず、言葉を話すことができないのだ。
「読めるよー。あたし、神様だから、<神性>持ってるしね」
読めるといいつつも、俺の顔を拭おうとしないのは、何故だろう。というより、<神性>? ってなんだ?
「<神性>はねえ、全能神さまが造りたもうた神に賦与されたスキルの一種だよ。説明が面倒だなあ。あたしのステータスプレートのプロテクト解除したげるから、読んでごらん?」
ステータスプレートってなんだ。
「え……いや……ステータスプレートだよ。この世界の常識でしょう? <鑑定>持ちでもない限り、あんまり他人のステータスプレートを読む事はないかもしれないけどさ……。え、もしかしてルシウス、知らない?」
……前世では”常識”を教えてくれるような他人が居なかった。すまない。ステータスプレートについて教えてくれないか。
「う”え”え”〜〜〜ステータスプレート教えてくれる人が居なかったなんて可哀想だよ”〜〜〜う”え”え”〜〜〜」
またレムリアの涙が俺の顔にぼたぼたと垂れる。寝返りでも打てればシーツでその顔を拭えるのだが、それもできない。頼むから拭いてくれないかレムリア。
「ステータスプレートっていうのはね、簡単にいえば、この世界におけるその人の能力を数値とかで示してるものなの。で、基本的にはプロテクトされてて、<鑑定>っていうスキルでも持ってない限りは、他人のステータスプレートは視れないわね。でも、いまあたしは、自分のステータスプレートのプロテクトを解除してるから、あなたでも読めるわ。”あたしのステータスプレートを読みたい”って、念じてみてごらん? 簡単だよ」
”ステータスプレート”という概念を知らない以上、難しいことなのではないかと思ったのだが、レムリアが言うなら簡単なのだろう。俺は言われた通りやってみる。すると、頭の中に情報が流れ込んできた。
[レムリア=トランシス]<<輪廻神>> <<賢母レムリア>>
Level -(神性)
体力 980000/980000
魔力 12329000/12329000
スキル
<神性>(全能神に与えられた神としての力。不死、身体再生、全言語理解、最高級魔法特性、思考読取、思考干渉、身体操作、身体変化、スキル賦与、スキル奪取、祝福、神罰)
<輪廻を司る者>(輪廻神として死者を救済し転生させることが可能)
<全能神の祝福+5>(全能神の祝福を受けている。戦闘時、体力と魔力が5000倍)
他人のステータスプレートを視た事がないので、比較することができず、あくまで推測に過ぎないのだが、彼女はその美しい容姿と茶目っ気が溢れた性格に見合わぬ圧倒的な力を持っているのではないだろうか。神様だから力を持っているのは当たり前なのだろうか。
「あたしは神の中だと、あんまり強くない方だよ〜? 他の神様……例えば軍神アレルさまなんかは、あたしが五万人居ても敵わないと思うし」
俺の思考を読んだのか、レムリアが答えて、ようやく柔らかな布で俺の顔を拭ってくれる。顔が近づく。ピンク色の髪が俺の顔に触れた。美しい髪だ。
「ん。綺麗になったね。んじゃあ、ルシウスのステータスプレートもあたしに見せてごらん? ”自分のステータスプレートのプロテクトを解除する”みたいなことを頭の中で念じれば、すぐにプロテクトは解除できるからさ」
言われたようにやってみる。「うん、解除できたね」とレムリアが言う。案外簡単にできるものらしい。具体的なイメージがなくても、ステータスプレートに関しては大丈夫みたいだ。
「じゃあ、読ませてね」
レムリアがそう言うと、俺の瞳を覗き込む。なんだか俺の全てを見透かされている気分だ、と思っていると、レムリアの表情が曇る。
なんだ。怖い。
「……ルシウス、大変な事になってるよう……どうしよう……」
初めて会った時に「あなた面倒くさいんですう」と言い放った時のような顔をレムリアはしている。俺はなにがなんだか分からなかったが、「自分のステータスプレート、視てみな……」とレムリアが言うので、自分のステータスプレートを読んでみる。
[ルシウス=トランシス] <<魔王の生まれ変わり>>
Level 逕溘@縺セ縺吶
体力 ∪u控l「z?r?娃{拳}魚y往y往z薗u翁}/∪u控l「z?r?娃{拳}魚y往y往z薗u翁}
魔力 縛穀・椛ュ?・#ャ喧」⊥。?ャ賜ャ∑\ア Ⅴ概Ρ ィ/縛穀・椛ュ?・#ャ喧」⊥。?ャ賜ャ∑\ア Ⅴ概Ρ ィ
スキル
<全属性魔法適正/全属性魔法ブースト+256>(全属性の魔法の最上級の適性を有する。全属性魔法威力を強化)
<全種類武器適正+256>(全種類の武器に最上級の適性を有する)
<索敵+256>(敵意を持って近づく人間に気付く能力。常時五感が研ぎ澄まされる)
<忌み子>(0.001秒につき1、体力と魔力を回復する。また、身体に重大な欠損があった場合はオートマチックに魔力を消費し、その欠損を回復する。また、魔法を無詠唱で発動できる)
<概念干渉>(その莫大な魔力によってあらゆる概念に干渉する事が可能)
<輪廻神の寵愛>(輪廻神の寵愛を受けている。戦闘時、体力と魔力を20倍。魔法を使用する際の消費魔力を二分の一に)
<全能神の祝福>(全能神の祝福を受けている。戦闘時、体力と魔力を1000倍)
<神々の注目>(三体以上の神々の注目を受けている。◇軍神アレス(スキル<大力>を獲得)◇法神マズリダ(スキル<審判>を獲得)◇太陽神アポルシス(スキル<火属性魔法+1>を獲得))◇虚飾の神アリアス(スキル<隠蔽>を獲得◇知恵の神メネシス(スキル<鑑定>を獲得))
「……文字化けしちゃってるんだよう……こんなのはじめてだよう……」