望々羽
僕はずっと考えていた。彼女のことを思い出していた。自分の気持ちに素直になって他の人と違う人生を送るか、人と同じ道に収まって安心を得るか。どっちを選ぶのが正解なんだろう。と、言っても僕には高校を辞める勇気などないのだけれど。
あの日、制服デートした日僕は彼女にこう言われた。
「秋丈ともう会えないかもしれない」
「は?」
突然のことだったので僕は驚いた。
「なんで?」
僕は彼女に問うた。でも望々羽はいつものように笑うばかりだった。
朝がきて、学校に行っても授業なんか頭に入る訳もなくぼーっとしていた。
「今日の授業、上の空だったけど。どうかしたの?」
テストが全然できない僕は、授業だけは真面目に受ける様にしていた。そのせいだろう。 担任の女の先生に声を掛けられた。
「あの西野望々羽って知ってます?」
「知ってるわ」
先生があっさりと答えたので僕は驚いた。ダメ元と言うか、もうただ話を聞いて欲しかっただけなのに。
「私、去年まで中学校の先生だったの。西野さんは、なんて言うのかしら、少し個性的でね。学校がイヤらしくて、毎時間泣いていたわ」
先生の話によると、彼女が泣かない日はなかったという。なんでも、人と話すことが怖いとか。彼女に言わせると、「言葉に意味なんてない。みんな音にそれぞれの意味を勝手に押しつけてるんだわ。私は、それを理解できるほど賢くない」らしい。
僕はいかにも望々羽らしいなと思ったけれど、周りの人たちにとったらとっても迷惑だろう。
帰りのホームルームが終わった後、僕は友達を待たずに墓地へと向かう。
「もう会えないかもしれない」
あの言葉に意味がないことを願って。