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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第01章 猫舌カモミールティー
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第09話 約束

 探知情報のレーダーにはまだ反応がない。ひょっとして『分裂者』だろうか。僕は少し不安になった。


「相手はおそらくビッグペッパーウルフにゃ。ちょっと厄介にゃ」

 分裂者ではないと分かり、少し安心する。しかしこちらも強敵らしい。

 いつの間にか、マリーさんはまた猫耳になっていた。別の戦闘系のカードに付け替えたのだろう。おそらくそれだけ余裕がないということだ。

「カードの構成を何枚か変えたにゃ。しばらく相手もこちらの様子を伺って襲ってこにゃいと思うけど、カードが有効になるまでの5分は、こちらからも刺激しないようにするにゃ」

 僕は黙ってうなずく。

「村に逃げ戻る手も考えたけど、厳しいにゃ。奴等は足が速いにゃ。逃げてもおそらく追いつかれるにゃ。それよりもここで、みんなの救援を待った方がまだましにゃ。壁があるここで戦えば、完全に囲まれることはないにゃ」

 レーダーに反応が現れた。いつの間にか半円を描くように包囲されている。レーダーの探知可能範囲を多めにみて半径200メートルとしても、全力で走れば数十秒で到達できる距離だ。そう考えると思ったよりも近い。


「これから村に襲撃報告と救援要請の信号を送るにゃ」

 マリーさんは片手を伸ばし、魔法でエネルギーの球体を三つ作り出した。

「信号を送れば、敵にも気付かれるにゃ。そうしたら敵はおそらく、援軍が来る前にどうにかしようと襲ってくるはずにゃ」

 この世界での魔法の仕組みは、体内に宿る『気』のようなものを、カードに対応した属性に変化させるというものだ。当然変換した分だけ自分の気力を消費する。多用はできない。そして魔法はスロット単体では効果が薄いという。戦闘で使用するには、スロット二つ以上の組み合わせが望ましい。たとえば『爆』と『熱』を組み合わせて『爆熱』の属性とすることで、相乗効果が働き威力が増すのだという。消費する気のエネルギー効率などの面から見ても、魔法スロットが一つしかないのなら、武器で殴ったほうが早いそうだ。

 夜食前の会話から推測すると、マリーさんの魔法カードはおそらく『爆』だろう。あまり魔法は得意でないというようなことを言っていたので、多分スロットは一つ。

「ハルトさんは、壁を背にして自分を守ることだけ考えるにゃ。私はここで敵をひきつけるにゃ。もし私に何かあっても、飛び出してきちゃだめにゃ。──────ではそろそろ時間にゃ。覚悟をきめるにゃ」

 空に向け、マリーさんは魔法の弾を放つ。『爆』のカードで変換された魔法力が解き放たれる。暗い夜空でそれは爆ぜた。一拍空けて、さらに二回の爆発音が響く。


 レーダーを見る。モンスターはその音に驚き、一時動きを止めたが、それが何かを確認したのか急に動きが早くなった。

 マリーさんは弓を構えていた。

「最初の攻撃で何体か倒せればいいのだけどにゃ」

 昼間の狩りとは違い、今は夜。僕にはよく見えないが、猫科のマリーさんには見えているようだ。反応のひとつに向け、続けざまに矢を放つ。しかし反応は消えない。その攻撃を認めて、物陰に隠れるように反応が動く。

 気がつけばレーダー上に光の点は十数個現れている。それらは一斉に飛びかかる準備をするかのように、ほぼ等距離でこちらを取り囲んでいる。そして迅速に、しかし確実に包囲を狭めてくる。僕にも何か影のようなものが動くのが見えてきた。マリーさんは立て続けに矢を放っている。数体の反応が消えたようだが、敵はそれに怯まず着実に擦り寄ってくる。

 矢が切れたのか、弓と矢筒を投げ捨てる。両手に二本の剣を構え、襲撃に備えている。あれならおそらく同時攻撃を防げるかもしれない。しかし、それでもせいぜい二、三体が限度に思えた。同時にそれ以上の攻撃を受けたら、おそらく防ぎ切れないのではないだろうか。

 矢の攻撃がもうないと判断したのか、奴等は姿をあらわした。もう僕にも見える距離だ。既に敵の間合いに入ってしまっているようだ。側面から一体ずつが歩み寄り、マリーさんに襲い掛かる。マリーさんはしなやかにそれをかわし、鞭のようにしならせた二本の剣をかろやかにふるう。一体は倒れ、カードへと変わった。しかし一体は討ちもらした。それを見て、二体では無理と判断したのか、四体がにじり寄る。


 僕の方へもそれらはやってきた。もうマリーさんの方へ意識を向け続けるのは危険なようだ。自分の周りに注意力を集中させる。ひとまず二体で襲ってくるようだ。左側にタワーシールド、右側に小型の盾を構える。壁のお陰で背後まで注意を払わなくていいのはありがたいが、左右同時に気を払うだけで僕には精一杯だ。そして奴等は両側から襲ってきた。

 タワーシールドで身を隠すように左からの一撃を受ける。右の攻撃にはカウンターを合わせるように盾で殴りつける。インパクトの瞬間、体を開くようにして両側の敵を弾き飛ばす。両手にそれぞれ敵の衝撃が伝わってきた。カードの能力のおかげか、あるいは守りに集中していたからなのか、運良くそれらは当たり、一撃目は凌いだ。しかし所詮盾だ。致命傷を与えられるものではない。

 敵はその反撃に少し怯んだものの、致命的な威力はないと判断したのか、じわじわと間合いを詰めてくる。今の僕は、多数の敵にゆっくりと近付かれて同時に攻撃されるのが一番困るのだ。敵は恐ろしく狡猾だ。


 そんな僕の状況を理解したのか、マリーさんが援護に来てくれた。取り囲んでいた一群を追い払い、僕の傍らに駆け寄る。ありがたい、なんとか助かった。

 マリーさんは息が荒い。それに少し怪我をしているようだ。あの状況でよくぞその程度ですんだものだと思う。僕なら10秒ともたずにやられてしまうだろう。

「大丈夫かにゃ?」

「ええ、なんとか」

「きっともうすぐみんなが助けにきてくれるにゃ。だから、がんばるにゃ」

 マリーさんは先ほどより少し大きな衝撃球を作り出した。

 おそらくカードレベルが高いのだろう、それは牽制に使うには充分な威力だった。マリーさんが放ったその魔法球は、大地に当たり轟音を撒き散らす。衝撃に巻き込まれた一体が倒れた。カード化されるそれを見て、敵は少しだけ間合いを広く取る。

 それで少しだけ時間が稼げたものの、連射はできないと判断したのだろう。すぐにまたやつらは襲ってきた。

 マリーさんが僕の背後と側面を守ってくれるおかげで、だいぶ戦いが楽になった。タワーシールドを両手で構え、殴りつけるようにして攻撃を防ぐ。倒すまでは行かなくともだいぶ弱らせることができた。

 しかし、マリーさんにはこれまでの負担が大きかったらしい。呼吸音がますます激しくなっていく。


 やがて、『それ』が現れた。


 おそらくこの一団のボスなのだろう、巨大なその体躯はほかの固体と比べて数倍にも大きく見えた。レーダー上でもかなりの大きさだ。今までどこに隠れていたのか。他の固体は獲物を譲るように後ろへ下がった。これ以上の群の被害を抑えるためか、あるいはボスとしての威厳をみせつけるためだろうか。『それ』は一体で僕達を相手にするらしい。

 マリーさんが僕をかばうように正対する。『それ』は値踏みをするかのように僕達を見下ろしている。

「……やばそうなのが出てきましたね」

 少し不安そうにつぶやく僕を元気付けるためか、まるで冗談で言うようにマリーさんは言った。


「大丈夫にゃ。家に戻ったら、猫耳をさわってもいいにゃ。だからがんばるにゃ」



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