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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第01章 猫舌カモミールティー
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第06話 ハント

 食事をすませ、準備をしてから僕達は出かけた。途中、ギルドによりアイちゃんを預ける。よっぽどアイちゃんがかわいいのか、タミーさんは快く引き受けてくれた。

「いつでもまかせるにゃー」

 ついでに食料調達目的のこの狩りも、クエストとしてやることになった。狩りの対象はウッサーラビットといって、畑を荒らす害獣だ。もちろん狩るのはマリーさんで、僕はその補助、単なる荷物持ちということになる。カードをもらえそうな雰囲気なので聞いてみた。

「10体ごとにカード一枚の報酬を出すにゃ」

 その名前からしてウサギなんだろうから、数え方は羽の方がいいんじゃないかと一瞬思った。しかし、そもそも猫語で会話しているのだし、気にしないことにした。それにひょっとしたらウサギじゃないのかもしれない。

「じゃあ20体目標ね。そうすれば一枚ずつカードが引けるわ」

「マリーさんならいけそうにゃ。がんばるにゃー」

 軽々しくそんなことを言う。20体って大変じゃないのか?


 手続きを済ませ、ギルドを出て大通りを歩く。そういえばまだ村の中をよく把握していなかった。いろいろ店が並んでいる。いくつか食料品店が続き、その合間に武器の並んだ鍛冶屋、こまごまとしたものが並ぶ雑貨屋、色とりどりの服が並ぶ服屋らしき店などが連なる。それにしてもやけに猫っぽい人が多い。猫耳だけの人もいれば、タミーさん並みにかなり猫らしい人までいろいろだ。

 しかし小さな村なのか、すぐに商店街は途切れ、門の前に出た。そこには門番らしき二人の男が立っていた。彼らは普通の人だった。

「こんにちはオルさん、ソラさん」

「やあマリーさん、狩りかい? そっちの坊主は見ない顔だな」

「はじめまして、ハルトと言います。これが冒険者カードです。今日はマリーさんの荷物持ちということで付いて来ました」

「ふむ、Fランクか。保護者だと……、まるで子供だな。まあいいだろう。無理するなよ」

 やっぱり保護者付きというのは子供扱いされるのか。微笑みかけられたと思うのだが、笑われたようにも思える。こちらも笑顔を返し、カードを返してもらう。一礼して門を抜ける。

 門を出ると、周りには畑が広がっている。麦か何か金色の穂がひしめいていた。村は高台の上にあるようで、景色が一望できた。村から続く街道は、金色の平原を一直線に割り、さらに野原を抜け、その先の森の中へと吸い込まれるように伸びている。


「まずはパーティを組みましょう。手順はさっき教えたとおりね」

 マリーさんが両手を広げている。僕も両手を出すと、その手をぎゅっと握られた。

「じゃあ、『パーティ結成』ね」

「『結成承認』します」

 マリーさんがキーワードを言い、僕もそれに続く。これでパーティを組めたはずだ。

 すると突然頭の中に何かの情報が飛び込んできた。大きな球体の真ん中に緑の点、そのそばにもう一つ緑の点。そしてグレーの点が、球体の中にまばらに点在していた。

「私のスキルカードの能力で敵と味方の位置が分かるようになったと思うわ。私の『敵+味方位置探知』のカードと、『探知情報共有』のカードの能力ね」

 まるでレーダーだ。緑が味方で、グレーが中立の存在だという。敵対状態になると赤くなるそうだ。パーティメンバー以外の存在は、ひとまずグレーで表示される。そのためその正体が敵なのか味方なのかは、実際には出会ってみないと分からないらしい。

 また、点の大きさで対象の大きさがある程度わかるという。確かによく見ると光の大きさが違っている。範囲内ならば虫や何かの小動物もすべてまとめて感知してしまうが、感度を調節したりすることで気にならないようにできるという。多分それは高度なテクニックなのだろう。

 ちなみに村には探知妨害の仕組みが施されているそうだ。そう言われよく見ると村全体が白い幕のようなものに覆われ見えなくなっている。プライバシー保護や防犯のためらしい。振り返り、門までの距離を確認する。十メートルくらいだろうか。探知レーダー上の見えなくなっているところとの距離から推測すると、探知できる範囲は軽く百メートルを超えるだろう。かなり広い。

「じゃあ狩りの前に注意事項ね。私の側を離れないこと。戦おうとしなくていいわ。ひとまず見てるだけで大丈夫。基本一体ずつを弓で狙って倒していくから、襲われることはないわ。万一撃ちもらして近付かれたとしても、私が剣で倒します。そのときは私の少し後ろに隠れていてね。ここまでいいかな?」

 僕はうなずく。

「それから、もし巨大なグレーの反応が出たらすぐに教えてね。私の索敵範囲ならそんなに急がなくても逃げれば大丈夫なはずよ」

 などとちょっと怖そうなことを言われた。大きなグレーってどんな生き物なのだろう。念のため、探知情報でそのような反応がないか確認する。大丈夫だ、少なくとも僕らより大きそうなものは見当たらない。

「とりあえずあっちの方から行ってみましょう」

 僕らはマリーさんの指し示したほうへと歩いていった。


 最初の獲物を見つけた。指差された方角にはかなり大きな目標が見えた。ウサギと言われ想像していたものと違い、まるで猪だ。どのくらい俊敏なのか分からないが、あの大きさで体当たりでもくらったらかなり危なそうだ。僕は少し恐怖を感じた。

 気が付くと、マリーさんは射撃の構えに入っていた。足場を固め、背筋を伸ばし、矢をつがえ、引き絞り、狙いを定めると、そっと矢を放った。それは静かに、流れるように終わった。マリーさんの集中力が伝わってくるかのようだった。気が付くと、マリーさんは二射目を構えている。そして、それを放った。

 探知情報から反応が消えた。無事倒したらしい。無言のまま、僕達は反応があった場所に歩み寄る。そこには矢と大きなカードが残っていた。カードには『ウッサーラビットの肉』と『ウッサーラビットの耳』と書かれていた。肉のカードが二枚、耳が一枚だ。ドロップアイテムはカードになるらしい。仕組みは分からないが、僕は少しほっとした。

 カードを僕の背負い袋に入れる。カード化されていてもかなり重い。一枚数キロはあるだろう。二人だから半分ずつ持つとしても、割り当ての10体分を持てるかどうか心配になった。

 矢は回収するが、後で廃棄するらしい。ぱっと見使えそうでも、歪みが入っていたり曲がっていたりすることがあるそうで、精確さに欠けるそうだ。


 狩りは思っていたよりもスムーズに進んだ。探知のカードがあるお陰で効率よく獲物を狩れるのが大きかった。

「位置探知のカード便利ですね」

「そうね。狩りをするなら、ほぼ必須とも言えるわ。それにそれ以外でも役に立つことが多いから、他に育てたいカードがあっても、一枚はキープしてレベルを上げておいたほうがいいわよ」

 ちなみに『情報共有』のカードのランクは、ゴールドレアだそうだ。それで他の仲間のスロットが少なくとも一枠空くのだから、その価値は十分あるだろう。

 一時間ほど狩り、一度戻ってオルさんたちに獲物を預ける。そして今度は道の反対側へ向かう。


 ウッサーラビットが二体いるところを見つけた。さてどうするのかと思っていると、そちらの方へ近付いていく。やがて射程距離に入る。マリーさんは立ち止まる。これまで一体二射ずつで確実に仕留めてきた。二体同時にやるのだろうかと思って見ていると、マリーさんはつぶやいた。

「そう言えば、猫耳に興味があるんだってね?」

 射撃の体制に入っているマリーさん、邪魔してはいけないから黙っている。なんだか、少しばかり怖い。

「あんまり女の子に変なことをしちゃだめよ」

 続けざまに二本放たれた。一体は倒したが、もう一体がすごい勢いで駆け寄ってくる。腰に履いた剣を抜き、しなやかに構える。迫り来るウッサーラビットも怖いが、マリーさんも同じくらい怖い。

「おイタしてるとこうなっちゃうからね」

 地響きを上げ襲い掛かってくるそれに、振り上げた剣を降ろす。風を切る音と、何か鈍い音が聞こえ、ウッサーラビットが大地に沈む振動が伝わってきた。僕はいつの間にかそこにへたり込んでいた。

 土煙が舞う中、マリーさんは微笑みながら言った。

「返事は?」

 ごめんなさい。もうしません。許してください。


 数時間たっただろうか。だいぶ日も傾きかけてきたころ、狩りは無事に終わった。

 マリーさんは僕の倍くらいの荷物を持って軽々と歩いている。カードで強化しているのか、それとも素の力なのか、どちらにしろすごい。そしてちょっと怖い。これまでマリーさんのことを、ちょっと素敵なお姉さんのように思っていたが、狩りに出てそれはだいぶ変わった。頼れる姉御、怖い女ボス、そんな感じにランクアップだ。これからは態度を改めようと思う。もう二度と逆らいません。


 ギルドに戻るとアイちゃんが腕の中に飛び込んできた。そのまま抱っこしてなでる。アイちゃんはゴロゴロと喉をならして幸せそうだ。

 タミーさんに『ウッサーラビットの耳』のカードを渡す。枚数を確認してもらい、スキルカードを二枚渡される。


 そのうちの一枚をマリーさんに渡し、僕はもう一枚を早速胸に差し込んだ。



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