第38話 ○耳
やっつけバージョンで申し訳ありませんニャー
ネコ柳から映画のチケットをもらった。
クラスのみんながカンパしてくれたらしい。
「クラスのみんなと俺からの謝罪だと思って受け取って欲しい。
ちゃんとマタタビさんの趣味にあわせて選んであるから安心してくれ」
付き合い始めのデートの誘いにはぴったりだろう、というネコ柳の言葉をもっともだと思い、ありがたくいただく。
「この件も言いだしっぺは城鐘なんだけどな。
あいつ腹黒だから気をつけたほうがいいぞ」
不意にネコ柳が、城鐘さんについて否定的な意見を述べた。
流そうかと思ったけど、俺はなんとなく話を拾ってしまう。
「この件『も』? 何のことだ?」
「ああ、えーと、お前から話を聞くように俺を差し向けたのはアイツなんだよ。
そして今回のこの件も、アイツが黒幕ってことだよ。
この前城鐘と一緒に歩いてたみたいだけど、気をつけろよ。
気を抜くと骨抜きにされるぞ」
「そのことか。城鐘さん本人から話は聞いたよ。
だけど、腹黒ってのは信じられないな。
そこまでひどくはないだろ、どちらかというと子悪魔系? もしくは子猫系?」
「そんなかわいいもんじゃないよ。
悪の大魔王、ラスボスだってば。
忠告はしたからな! 気を抜くなよ」
それが心からの忠告だというのは、なんとなくわかった。
特に他意もないだろう。
ネコ柳は単に本気で城鐘さんを嫌っているらしい。
さてネコ柳は思っていたよりも話しやすい相手だ。
その上俺を友達と呼んでくれた。
俺からも距離を縮めてみよう。
そのためには相手に興味を持って、いろいろなことを知ることが大切だ。
あたりさわりのなさそうな質問でもしてみるか。
「それよりさ、今さらだけどなんでお前ネコ柳なんて呼ばれてるんだ?」
「え? お前知らないの? んー、そっか。
言っておくが、そんな面白い話でもないよ?」
彼の話は少しばかり長かった。
要点をまとめると次のとおりだ。
ネコ柳は試験成績が良かったため、女の子たちから注目されたという。
そして一度誰かが『あの人かっこいい』と言うと、噂は加速するものなのだ。
勉強が出来るやつがいる。誰かが惚れている。
その噂自体がネコ柳の株を上げる。
そんなある日、ついに告白されたらしい。
だけど付き合う気のなかった彼は『猫耳をつけてくれるなら考える』と断った。
その断り方がまた噂になり、ネコ柳と呼ばれるようになった。
ネコ柳というあだ名の説明は以上だ。
「だってあいつらは、俺に惚れたんじゃなくて、噂話に惚れたんだよ」
その説明に何かひっかかるものを感じた俺は、もう少し話を聞いてみたかった。
けれどもそれを尋ねていいものだろうか。
ネコ柳との関係が打ち解けてきたとはいえ、まだどこまで踏み込んでいいのか分からないのだ。
恋愛の話は特にそうだ。
もし逆に俺が聞かれた時、本当のことを話せるのか。
ネコ柳にばかり話させて俺自身が黙っているのは、少しずるいような気もした。
言い訳になってしまうけどそれも仕方ない。
委員長との今の関係を説明するのは、難しすぎるのだ。
迷った末、俺は直球ではなく変化球の質問を投げてみることにした。
もしネコ柳自身が話したいと思うなら、多分話してくれるだろう。
「ネコ柳って、なんでそんなに猫耳が好きなの?」
「お前も猫耳好きだよな?」
「う、うんまあ」
「猫耳が好きなヤツに悪人はいない」
「そう、だね……」
「だよな……」
ネコ柳は黙り込んでしばらく何か考えていたが、やがてまっすぐに俺を見て話し始めた。
「……どうせ色々しゃべっちゃったんだ。
よし、お前のことを友達だと思ってるから秘密を話すぞ。
誰にも言うなよ」
「あ、ああ」
「小学生の時、八峰さんという女の子がいたんだ。
ある日、その子の誕生日パーティに呼ばれたんだけど、その時その子が猫耳をつけていたんだ。
俺は一目で恋に落ちた。
初恋は叶わなかったけど、あれほど猫耳の似合う女の子はいなかった」
「その女の子とはどうなったの?」
「急にその子の転校が決まったんだ。
さよなら会のとき、もう一度猫耳をつけてくれって頼んだんだけど、どうしてもいやだって断られた。
それでもしつこく頼んだら、丸坊主にしてきたら考えるって言われた。
俺は当然すぐに丸坊主にしてきた。
だけど、それを見たら彼女は口をきいてくれなくなった。
数日後、彼女は転校していって、それっきりだ」
そこでネコ柳は大きな溜め息をついた。
そして俺の目をちらりと見てから話を続ける。
「ここまで言えば分かるだろう?
本当はその時からネコ柳って呼ばれているんだ。
幸いにして、中学に入ってからは呼ばれなくなった。
そのことを知ってるやつが居なかったからね。
だけどこの高校には、その事件を知ってるやつがいるみたいなんだ。
入学後しばらくしたら、また『ネコ柳』って呼ばれ始めた。
さっき言った理由は、お前みたいに『なんでネコ柳』なの?って聞くやつを欺くために計画的にやったことさ」
「本当かー? 本当に計画的かー?」
「半分は本気だったけどね。
本当に猫耳をつけてくれて、それが似合っていたら交際を考えた。
でもあの猫耳姿に匹敵するような子とは多分出会えないだろうな」
ネコ柳はそう笑って言った。
このことを秘密にしたい理由は、丸坊主になったことでしばらくの間とてもみじめな思いをしたかららしい。
「もちろん丸坊主になったことではなく、振られたショックの方が大きかったんだけどな」
遠くの景色を見ながらそうつぶやいたネコ柳が、突然ニャッと笑って俺のわき腹をくすぐった。
俺も負けじとネコ柳をくすぐる。
そうやってじゃれあう日常は、俺が夢に猫いていた高校生活そのものだった。
俺は前よりもネコ柳と親しくなれた気がした。
それとともに、ネコ柳に隠している秘密のことで少し心を痛めた。
いつか俺と委員長の本当の話を詳しく聞いてほしい。
別の日、体育の授業の後、ネコ柳から忠告される。
忠告の好きなやつだ。
「今のお前の学力だと、この先マタタビさんとの交際はうまくいかなくなるよ。
テストの順位だけでなく、進路とか、クラス分けとか、そういったものが少しずつ何かを溜めていくだろう。
一年のこの時期から頑張れば、それを減らせるはずだ」
その言葉を素直に受け入れ、俺は勉強に励む。
マタタビさんとの勉強会の効果もあり、少しずつ成績は上向いてる気がする。
だがその成長が緩やか過ぎて、俺はもどかしさを感じる。
※ここからしばらくゲームの話です
興味のない方は何十行か下の『現実世界の話に戻る』のところまで飛ばして読んでください。
ゲームの方も今までどおり続けている。
オープンベータだか何だかが終わり、近々正式サービスを開始するらしい。
その正式サービス開始に伴い、サーバーを七つ増設するという。
各サーバーにはほぼ同じ世界が構築され、新規ユーザーをそれぞれに割り振り、ゲーム全体として受け入れ人数を増やすそうだ。
だけど、ただ同じ世界を作るだけではもったいない。
各サーバーでは、運営ポリシーやルールなどを独自に設定して差別化を行うという。
具体的には、プレイヤーキルができるかどうか、個人主義か協力主義かなど。
また、定期的にサーバー同士で『戦争』なるものが行われ、その結果によってサーバー内施設の充実度が変わってくるという。
それから各サーバーにはゲームマスターなる管理者が置かれるそうだ。
原則としてそのゲームマスターに認められた者のみが、サーバーに滞在を許される。
ちなみにゲームマスター不在のサーバも別途置かれるらしいが、そこはBAN対象者の受け皿になる予定だそうだ。
そうなるとゲームマスターの売り手市場になるかと思ったが、案外そうでもないらしい。
受け入れ人数やアンケート調査等が、彼らの給料査定に響くようだ。
そのためゲームマスターはみんな売り込みに必死だ。
俺のメールボックスにも、個人宛のお誘いメールが届いている。
それにはご丁寧に『隠しイベントを発見した有望なあなたへ』と題されていた。
マタタビさんとサーバー選別説明会に行く。
マタタビさんは昔のゲーム仲間とやや距離を取りたいらしい。
俺はそれを考慮に入れてサーバーを選ぶ。
俺たちが選んだサーバーのマスターは、気さくなおじさんだ。
これからの実装予定だとか運営の裏事情だとかを気さくに語ってくれる。
「ゲームに慣れてカード枠も順調に増やしたあたりで、各プレイヤーには大きな目標が二つ与えられる。
ゲーム攻略至上主義のサーバーでは、既にその情報を公開し、それらへ向けて準備を進めている。
同じように今のうちから準備しておきたいっていうやつもいるだろう。
だからネタバレになるけど話す。
聞きたいやつは聞いておけ、聞きたくないやつは耳を閉じろ。
……その二つの目標は、家や農場などの不動産購入と、成長する生きた武器の入手だ。
不動産を購入すると、ゲーム内でやれることが格段に増える。
各種生産活動、倉庫としての利用、カード成長率向上のほか、ここでは言えないことを含めてたくさんの恩恵を得られるだろう。
レンタルで済ませる手もあるが、そちらでは制限が厳しい。
また、生きた武器を手に入れると、その武器にさらにスキルカードをセットできるようになる。
要するに、段違いに強くなれるってことだ。
では具体的にどんな準備をすればいいのかを話そう。
それは不動産購入に向けてゲーム内通貨を貯めておく事と、生きた武器にセットするカードを用意する事だ」
ここで誰かが生きた武器について質問し、それにゲームマスターが答えた。
「生きた武器は金属生命体とかいう設定だ。
この世界では、ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンがそれに相当する。
生き物だからカードが指せると言う設定だ。
ああいや、設定というと怒られるんだった。失礼。
さて金属生命体には、感覚器官や発声器官がない。
これは外界との接点を何も持っていないということだ。
そこで言語カードと探知系カードが重要になってくる。
生きた武器は、言語カードで我々と会話できるようになり、探知系カードでこの世界の情報を得られる。
もし『情報共有』カードを手に入れたら、無駄にせず残しておいた方がいい。
持ち主の感覚情報をそのまま生きた武器に伝えることができ、連携がとりやすくなる。
このカードはパーティメンバーとの距離に応じて効果が変わる。
つまりほぼ生きた武器専用のカードだと考えてよい。
それから重要なのが魔法カードだな」
「質問! 言語カードってどんな効果があるんですか?」
「プレイヤーキャラが言語カードを使うと、辞書と翻訳機能を使用可能になる。
リアルタイムで脳内変換してくれるため、非常に便利だ。
このゲームには、英語やドイツ語、フランス語などでしか話が通じない村人がいる。
いくつかのクエストでは、彼らとコミュニケーションをとることが必要になる。
その時、彼らの言語に対応したカードがあれば、すんなりと話を進められる。
なお、日本語を除き三ヶ国語分話せれば、理論上全てのクエストを達成できる。
そしてパーティ内で誰かがその言語カードを所持していれば良い。
だから、仲間と分担を話し合っておくのを勧める。
そして、もし君がその語学力を試してみたい、あるいは学びたいと思うのなら、カード無しでチャレンジしてみるのもいい。
ゲームの進行状況やクエストのレベルに応じて、必要とされる語学力は段々と高くなるよう調節してある。
例えば言語関連の一番最初のクエストは、開拓村に住み着いた住人たちの様子を探ってくることだ。
彼らに敵意があるかどうか、調べて来いと言われるのだ。
その開拓村へ行くこと自体はやや大変だが、着いてしまえば挨拶だけで終わる。
英語なら、ハローと、ナイストゥーミーチュー、グッドバイが言えれば十分だ。
そこから少しずつステップアップしていく。
贈り物を届けたり、開拓村周辺地理の聞き込みをしたり、友好条約文書の翻訳をまかされたりする。
言葉を実際に使う場面があると、言語力は飛躍的に向上する。
その気がなるなら非常に良い教材になるだろう」
「では英語の学力を向上させたかったら、英語カードは買わないほうが良いですか?」
「ああ、すまん、それについて補足しておこう。
学びたいという強い意志とやる気があるのなら、その場合は合ったほうがいい。
強力な辞書と翻訳ツールがあれば、その場で答えあわせができる。
翻訳ツールに頼りきりになる危険性もあると警告しておく。
どれだけ優れた教材が提供されても、それを身につけられるかどうかは本人次第だ。
自分のスタイルに合わせて決めて欲しい」
「言語カードは生きた武器にはどんな効果がありますか?」
「言語カードを生きた武器に使うと、使用インターフェースが選んだ言語に変わるだけだけだ。
言語カードは各種言語とりそろえてあるから趣味で選ぶと良い。
俺的にはドイツ語で話せる雷属性の魔法剣がかっこいいと思ってるけど、みんな好きに考えてくれ」
引き続き、各言語カードの説明を受ける。
トリニティの世界観にあわせて、名称を少し変えてあるらしい。
例えばニボシ語のカードは日本語、ブリ語のカードはブリティッシュで英語だそうだ。
「言語カードは店で売ってるから後でゆっくり選べばいい。
カードについては最後にもう一つだけアドバイスしておく。
高ランクカードを全部プレイヤーキャラにつぎ込むのはやめておいたほうがいい。
一応将来、シルバーカードまではリアルマネーで買えるようになるが、ゴールド以上は入手方法が限られており、供給も少ない。
だから生きた武器用に少し残しておくのを勧める」
その日の説明会はそれで終わった。
『次の説明会でこのゲームのラスボスについて語る』と予告して、おっちゃんは去っていった。
俺と委員長……もといマタタビさんは、このおっちゃんのサーバーを希望することでだいたい同意しているが、次も顔を出してみようと話し合った。
マタタビさんと言語カードを見にカードショップへ行って見る。
値段などを確かめるためだ。
俺は実益もかねて英語にしようかと考えている。
ニボシ語、ブリ語、タイ語……。
ゲームマスターから教えてもらった言語カードがずらりと並んでいる。
しかしそれ以外にも、謎の言語カードがあるのに気が付いた。
マンチカン語だ。
それが何語なのか結局分からなかったが、マタタビさんは謎のマンチカン語に興味があるようだった。
※念のため補足、マンチカン語は「僕」の世界の公用語の一つとして登場
現実世界の話に戻る。
ネコ柳からもらった映画は、続きものの二作目らしい。
俺はその前作をみていないが、それでも楽しめる作品らしい。
だけどマタタビさんから、前作を見ておくことを強く勧められた。
何か思い入れがあるようだ。
レンタルショップをまわってみたが、貸し出し中だったりなかったりでみつからない。
ネコ柳に一作目心当たりがないかきいてみたが、難しいかもねと言われてしまった。
マイナーな映画のようだ。
「ところでさ、城鐘から呼び出し食らっちまった。
面白いから屋上に来て隠れて見ててくれないか。
腹黒モードの城鐘を拝めるぞ」
「まだそんなこといってるのかよ」
話を聞いていたマタタビさんが立ち上がり、めったに表情を出さないその顔が笑ったように見えた。
小さな素振りで屋上をそっと指差してから、教室を出て行く。
「マタタビさんはその気みたいだぞ」
仕方ない、俺も行くか。
屋上には誰もいなかった。
マタタビさんとこっそり隠れていると、ネコ柳がやってきた。
俺たちの位置を確認し、それに合わせて城鐘さんを待つ場所を決めたようだ。
しばらくすると本当に城鐘さんがやってきた。
城鐘さんは俺たちに気付いておらず、こちらに背中を向けてネコ柳と話し始める。
「それで、話って何だよ」
「まずはお礼を言わせてもらうわ、ありがとう。
私達の教室からカップルができたね」
「それで、次は何をしろって?
どうせ断ったら秘密をばらすって言うんだろ。
まったくどうしてお前があんなこと知ってるんだよ……」
なるほど、そういうことだったのか。
ネコ柳が城鐘さんを嫌っているわけが分かった気がした。
「うん。実はもう一組カップルを作って欲しいの。
協力してくれるかな
二組目のカップルだから、もうみんなそんなに騒がないと思うの」
「次は誰と誰をくっつけろって?」
「えーとね、ネコ柳くんとね、わたし」
「は?」
「ネコ耳つけろって言うならつけるよ?」
そう言うなり、城鐘さんは猫耳ヘアバンドを取り出して自分の頭にとりつけた。
それまで仏頂面だったネコ柳の顔が、デレデレとしたものに変わった。
「わたしのこと、思い出せない?」
「……ひょっとして八峰さん、ですか?」
「わたしが小学生の時に転校した理由を知ってる?
父が親戚の跡をつぐことになって、家族ごと養子に入ったのよ。
その時姓が城鐘に変わったのよ」
「なるほど。そうか、それで謎が解けました。
だから俺の秘密をご存知だったのですね」
ネコ柳の口調も、とても丁寧でやさしいものに変わった。
「うん」
「でもどうしてこんな面倒なことをされたのですか……」
八峰もとい城鐘さんはその質問に答えず、ネコ柳に近付いていく。
「じつはわたし、坊主頭フェチなの。
ネコ柳君の坊主頭が忘れられなくてね。
あんな綺麗な丸い頭はネコ柳くん意外見たことないの」
そして彼女はそう言いながら、ネコ柳の頭を撫で始めた。
ネコ柳は幸せそうな顔を浮かべて、されるがままになっている。
完全に骨抜きでメロメロになっている。
俺に『骨抜きにされるな』とか偉そうに言ってたのは何だったんだ。
「あ、ああ、はい。こんな頭でよければ気が済むまでどうぞ」
「高校に入ってやっと会えたと思ったのに、ネコ柳くん私のこと分からなかったでしょ?
それで私のこと思い出させようと色々やってたんだけど、ことごとく失敗したのよね。
そうこうしているうちに他の女子どもがネコ柳くんに目をつけたから焦ったわ。
色々ネコ柳くんのダメな噂を流したり、裏工作が大変だったのよ。
まあ振ってくれて助かったけど」
「お、おお。それは何よりでございます」
もうだめだ。
ヤツはもう色気に惑わされて、正常な思考活動ができなくなりつつある。
「でもそれで、わたしのシナリオに狂いが出ちゃったのよね。
ここで私が名乗り出て、あなたと交際しますってことになると色々都合が悪いのよ。
評判が地に落ちちゃったネコ柳くんとわたしとじゃ、釣り合いがとれないってみんな思うでしょ?
でも安心して! 対策はばっちりよ!
まずね、クラスでこう叫んで欲しいの。
『君のことがずっと好きでした! どうか俺と付き合ってください』
そうしたらわたしがこう答えるわ。
『お気持ちは嬉しいけれど、ネコ柳くんのことは友人としてしか見れませんわ』
『そんな! 俺はあなたのためになら、何だってできます!』
『みなさんそうおっしゃいますわ。
では本当にそんな勇気があるのかどうかためさせてください。
明日、丸坊主にしてきてください。
もちろん、あなたが本当に頭を丸めてきたとしても、それはあなたの勇気を知ることができたというだけです。
交際させていただくということではありません。
むしろそんな非常識な行動をとる方は、わたし、軽蔑いたしますわ』
そして次の日、五分刈りにした頭でこう言うの。
『俺はこれから一生、ずっと坊主頭で居続けるよ!』
最初はみんな驚くだろうけど、しばらくすれば同情して応援してくれるようになると思うわ。
みんなドラマチックな展開に飢えてるのよ。
そこでわたしがしぶしぶ折れる感じで、『それじゃお友達からはじめましょう』みたいな感じで交際を承諾すればハッピーエンドよ。
どうかしら、これでネコ柳くんは違和感無く坊主頭になれるよね。
完璧でしょ?」
その無茶苦茶な筋書きに、さすがのネコ柳も冷静さを少し取り戻したようだ。
「いやいやいやいやいや!
なんかめちゃくちゃ無理があるようにしか思えないんですけど!
俺にも人間としての尊厳とかそういうものがあるんですよ!」
「そうかしら、でも無理なく丸坊主になるにはこれしか方法が……」
「それから俺、お前と付き合うとも何ともまだ言ってないんだけど!」
「え? でもネコ柳くんの顔には、たとえ土下座をしてでもわたしとお付き合いしたいって書いてあるよ?」
城鐘さんはネコ柳の顔を下から仰ぐように見つめると、招き猫のようなポーズをしてみせる。
多分上目遣いとか可愛く見える角度とか、そういうものを研究してあったのだろう。
ネコ柳の顔が再びデレはじめた。
ちょろすぎるぞネコ柳!
「は、はい。もういいです! わかりました!
付き合ってください、お願いします! 土下座でもなんでもいたします!
でも、もうちょっとマシなシナリオを考えさせてください」
「うん、ネコ柳くんがそうしたいなら、それでもいいよ」
「あ、ところでどうしてクロネコとマタタビをくっつけさせたんだ。
その話をきいておきたい」
「あー、そのこと?
だってわたしたちだけそんなセンセーショナルに付き合ったら、噂をコントロールしきれないでしょ?
言うなれば避雷針みたいなものよ。
それにあの女からは、中学時代色々辛酸を舐めさせられてきたのよね。
その仕返しだとまでは言わないわ。
むしろ感謝して欲しいものね。
だって二人ともお互い気がある……」
そこで突然、マタタビさんがわざとらしく咳払いをした。
その音が耳に入ると、城鐘さんはストップボタンを押されたかように動きを止めた。
マタタビさんはわざと足音を立てながら、ゆっくりと屋上入り口のドアめがけて歩き出す。
その姿は、尻尾をピーンと立てて歩くネコを思い浮かばせた。
って、マタタビさん! ちょっと待ってよ!
この場に一人置いてけぼりにされたら、いくらなんでも居心地が悪すぎるよ!
だからと言って、ここで姿を見せるのも勇気がいるな……。
迷った末、俺も一緒にこの場を去ることにして静かに歩き出す。
マタタビさんは城鐘さんたちの真横をゆっくりと通り過ぎる。
俺にそんな度胸はないので、少し遠回りにマタタビさんの後を追う。
屋上のドアを閉めると、マタタビさんが小さく笑った。
俺もそれにつられて吹き出した。
ドアの向こうから、何か叫び声が聞こえた気がした。
お気付きの方もいるかと思いますが、奇数章と偶数章は微妙にシンクロしてます
第01章と第02章は約束がテーマでした
第03章と本章の共通のテーマは最後まで読んでいただければ分かるようにしたつもりです
(前の話なんか忘れている方がほとんどかもしれませんが……)
第02章から仕込んであったネタなのですがなんとか回収できそうです
次の章(とその次の章)ではこの『何が共通しているか』という事項が物語の根幹にかかわる構成になる予定ですが、そこまで書ききれないかも




