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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第2×2章 猫耳シンクロニシティー
37/39

第37話 黒○

『付き合っていることになっているのに、あんなことされてはわたしの面子が立たないのよ』

 トラネコさん曰く、それが怒っている理由だそうだ。

『絶対変な誤解してると思うけど、嫉妬とかやきもちとかじゃないんだよ!』


 俺は夕飯を食べながら、トラネコさんとの会話を思い返していた。膝の上で黒猫が丸くなり、そんな俺を見つめている。今日は少し涼しいのか、風呂上りの俺の体が温かいらしい。

 そうか『やきもち』か。今思えばあの日俺が感じたのもそうだったんだろうな。ゲーム開始初日、トラネコさんが昔の仲間たちと楽しそうに話しているのを見ていた時、胸が苦しくなったのを覚えている。そんな想いをさせてしまったという罪悪感があるが、それとは逆にさっきのことを思い返すたび、どういうわけか口元がにやける。試合に負けて勝負に勝つとはこういうことを言うのだろうか。

 俺は黒猫をかかえ上げ抱き寄せる。黒猫は「にゃー」と甘えるようになくと、耳元でゴロゴロ喉をならしはじめた。そのまま背中をさすってやると、満足そうに大きくフーと息を吐いた。


 腹ごなしに黒猫としばらく遊んだ後、俺は再びゲームに戻った。

 待ち合わせ場所ではトラネコさんが先に来ていて、何か本を読んでいる。

 俺が来たことは分かっているはずだが、トラネコさんは本から目を離さない。

「お待たせ」

 声をかけると、ちらりとこちらを見てからまた本に視線を戻しコクンとうなずく。

 俺はその横に座る。

 トラネコさんは本に夢中のご様子だ。お邪魔にならないよう俺も何かしようかと考えていると、トラネコさんがぽつりとつぶやいた。

「ばーか」

 その声に反応して顔を向けると、トラネコさんの不満げな視線と目が合った。彼女はすぐに眼差しをそらし、俺に背を向けて座りなおす。

 さっきのことで少し照れているのだろうか。その背中は俺を拒絶しつつも、信頼してくれているように見えた。

 辺りに風鈴の音が響きわたる。こちらの世界では季節は既に夏である。


 程なくしてシロネコ先生がやってきた。トラネコさんは待ちわびていたようにすぐさま立ち上がり、招きよせるように手を振る。先生は嬉しそうに駆け寄ってくる。

「おねえさまこんばんはです。お待たせしましたー」

「こんばんは。チビ子は偉いわね。ねえ聞いて聞いて、クロネコくんは挨拶もできないのよ」

 トラネコさんはチビネコ先生の頭を撫でる。先生は撫でられながら俺を見て得意げに言う。

「えへへ、ほめられちゃった。ヘンタイさんはダメな子ですねー」

 いやいや挨拶しましたよ、一声掛けましたよ。そうツッコミをいれたかったが、敢えて我慢して先生をマネすることにした。

「オネエサマコンバンワデス、オマタセシマシタ」

 トラネコさんはぷいと顔を背け、わざと嫌がる素振りをして見せた。そうですか、俺の頭は撫でてくれませんか。

「ヘンタイさん! マネッコはだめです!」

「そっかー、ごめんよー」

 俺が謝ると、トラネコさんは先ほどよりは少し明るめにつぶやいた。

「ばーか」

 シロネコ先生はそれを聞きつけて、当然のようにトラネコさんの味方をする。

「ばーかばーか」

 俺はうなだれて降参の意志を示す。もういいです。好きなだけ罵ってください。

 トラネコさんはそれを見て溜飲を下げたらしい。そっと俺の手を取ってようやく笑いかけてきてくれた。視線をあわせると、彼女はやさしくつぶやく。

「さあ行きましょう」

 その何気ないやり取りが、俺自分を安心させたことに気が付いた。スネているトラネコさんもかわいいが、やはり普段どおりが一番である。

 シロネコさんが今日見かけた猫たちの柄とかそんな益体もない話をしている。トラネコさんは楽しそうに相槌を打っている。

 勝ち負けとかもうどうでもいい。いつものトラネコさんがいてくれると俺は嬉しい。

 猫の毛並みの話に花を咲かせる二人を見守りながら、俺はそんなことを考えていた。


 さて今夜は後回しにしていたクエストを片付けることになっていた。

 ランクFの『一人前の冒険者:カード操作を覚えよう』である。

 その報酬はメイン大陸に渡るための乗船証だ。さらにおまけとして、ロックされているフリースロット一枠が解除され、自由に使えるようになる。実はこのおまけの方が重要で、大きな戦力アップが見込めるのだ。

 本当のことを言えば、既に俺たちはこのクエストにチャレンジしていた。ちなみにクエストとは名ばかりで内容は実技試験だ。全部で十問の課題が出た。

 初回の挑戦は残念ながら全員失敗に終わっている。コントロールの難しさや制限時間の短さなどがその原因だが、ひとえに準備不足とも言える。テストには何度でも挑めるものの、再度受ける場合は少し時間を置かねばならず、その日の再挑戦は見送った。そういうわけで各々暇な時にトレーニングしておくことになっていた。

 噂では初日に成功した人は数えるほどしかいなかったそうだ。合格するのはかなり難しいとの噂だったが、それでも日を置くにつれ少しずつ達成者は増えているらしい。

 俺は待ち合わせのときなどに練習していたので少し自信があった。予想では十問中九問は成功させられるはずだ。合格のラインが全問成功ということはあるまい。


 世間話やらなにやらが終わり、話題はそのクエストのことに移った。するとシロネコ先生は立ち止まり、荷物をごそごそとかき回して一枚の紙切れを抜き出す。何だろうと思って見ていると、それを俺に差し出してきた。

「クエストが難しいと評判なので、ちょっと下調べをしてきました。操作のコツとか参考になると思いますので、一度目を通しておいてください。特にヘンタイさん、一人だけ不合格だとさびしいですから、今からでもよく読んでおくように!」

「う、うん、ありがとう、シロネコ先生。これどうしたの?」

 俺だけピンポイントで心配されたのがなんとなく気にかかるが、ここは下手に出ておこう。後で華麗に全問クリアして格好いいところをみせてやるからな。

「ギルドで安く売ってたから買ったんですよ。もう読んじゃったからそれは差し上げます。まったく不出来な弟子を持つと面倒をみるのがたいへんです」

 俺は苦笑いしつつも目を通そうとしたが、トラネコさんもメモの内容が気になるらしい。ちょうど道沿いに手ごろなベンチが見えたので、みんなで座って読むことにした。

 

 シロネコ先生から渡されたメモには、クエストの詳細な情報が記載されていた。

 クエスト概要、試験問題の構成、合格ライン、再挑戦が可能となるまでの時間、カード操作のコツ、失敗を減らすためのノウハウ、パーフェクト成功後のボーナスステージの存在、そしてその追加報酬の詳細。

「なるほど、一時間経過で再チャレンジ可能になり、十題中八回成功でクリアか。思っていたよりも厳しいな」

「そこは多分なんとかなるです。それよりもここが気になるです」

 俺の右隣からシロネコ先生が手を伸ばし、ボーナスステージの項目を指差してそう言った。

「ふーん、条件はパーフェクトかー。スキルカードがもらえるならちょっと頑張ろうかしら」

 俺の左隣からトラネコさんがメモを覗き込んでそう言った。

 メモの情報によれば、ボーナスステージをクリアするとスキルカード引換券がもらえるそうだ。スキルカードそのものが渡されない理由は、再挑戦を可能にするための措置だろうというのがトラネコさんの推測だ。ボーナスステージはサドンデス形式で、クリアするたびさらなる難易度のものが出題される。より難しいランクに合格するたび賞品のスキルカードのランクも上がっていく。

「やる気でますよね」

「うん、楽しみ。上達すればご褒美もらえるってのはいいよね。目標は最高難度のクリアかな」

「ヘンタイさんはとりあえず気楽にチャレンジするといいですよ」

「は、はい、がんばります」

「あ、なんか余裕そう!」

「クロネコくん自信たっぷりっぽい!」


 トラネコさんたちが楽しげに話しているので俺は少し不安になり、こっそり『カード操作のコツ』の欄に目を通した。

『スロットとスキルカードの脳内イメージ方法については、カードという形にこだわらず別の形を思い猫いた方がうまくいく。冒険者たちの間で最も好評だったやり方を以下で紹介しよう。

 地面に小さなくぼみが空いている。そのくぼみにビー球がはまっている。ビー球がスキルカードで、くぼみがスキルスロットだ。

 くぼみの深さは三種類。効果の高いスロットほど深く、効果の低いスロットは浅い。

 保存スロットのくぼみの深さはほんのわずかで、横から力を加えればすぐにビー球は外れる。

 フリースロットのくぼみは少し深くなる。ビー球の半径と同じくらいだ。横から力を加えただけでは外せない。少し持ち上げるように動かすのがコツだ。

 成長スロットはもっと深く、ビー球がほぼ全て埋まってしまう。もはや普通に動かそうとしても取り出せない。指先でそっと触れ、静電気か何かの力で指に張り付いてくるのを想像する。そこで静かにゆっくり指を引くと、ビー球を引っ張り上げることができる』

 メモを読みながら書いてあるやり方で動かしてみる。確かにイメージしやすい。難しかった二枚同時操作も楽にこなせる。今まで練習してきた成果もあるのだろうが、これなら俺もパーフェクトを狙えるはずだ。


「よし、じゃあ競争ですね、負けたら罰ゲームですよ」

「いいわよ」

「ビリの人がやるんですよ、何をしてもらいましょうか」

「そうね、勝った人に決めてもらいましょか」

 知らぬ間にトラネコさんとシロネコ先生が不穏な相談をはじめていた。しかもその競争に俺もエントリーされているらしい。

 二人が『クロネコくんは逃げないよね?』という挑戦的な目つきで俺を見る。


 しかし勝敗を捨てた俺には、もはや付け入られる隙はなかったのだった。




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