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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第03章 猫舌ロイヤルミルクティー
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第31話 振り方

誤字修正しました ご報告感謝です

2012.07.06 猫

 セバスさんの指示の元、秘書らしき女性がテーブルの上に何やらいろいろ陳列していく。

「スロット拡張薬のグレード1が6セット、グレード2が20セット、グレード3が……」

 コタローが口をぽかーんとあけてそれらを見ている。どうやらすごく貴重なものらしい。マリーさんや他のみんなは無表情でそれを見守っている。僕もポーカーフェースを保った方がいいだろう。とはいえ僕にはあまり価値がわからないので、コタローに比べれば楽である。

 コタローの驚き具合を品物の価値判断指標に使わせてもらおうとそっと視線を移すと、やや放心状態のコタローが目に入った。やや遅れてコタローも僕の方を向き、何か言いたげに口をぱくぱくとさせている。どうやらとてつもなく高級な品物が並んでいるようだ。僕はにこっとコタローに微笑んでから、視線をテーブルの上に戻した。

 それにしてもこれに見合う対価をどうやってマリーさんは支払うのだろう。先ほど仕入れてきたきた荷物だろうか。しかしあれはコタローに持って買えるように指示していたから違う。むしろあれを何と交換してきたのか。お金でないとすれば宝石だろうか。もしくはそれに類するものだ。

 いろいろと考えをめぐらせていると、なぜか無関係と思える断片的な情報がよみがえってきた。

 タミーさんが猫村で重要な人物であること。マリーさんがここで重要な人物であること。需要のなさそうな猫村に冒険者ギルドがあること。

 違う、それらは無関係ではない。結びついて一つの答えになりそうだ。

 セバスさんがやたら気前良くカードをくれたこと。この旅を通じてタミーさんの秘密がわかるということ。タミーさんがカードの中身をやたら確認したがること。用途不明のウサギの耳のカードをタミーさんが集めていたこと。

 そうか、なるほど。僕はようやくひとつの仮説を導き出した。それが答えが正しいならマリーさんは『あれ』で支払いをするはずだ。その考えがまとまるとほぼ同時に、ギルド側の提示は終わった。

「……再カード化パックのカッパー用が30セット、シルバー用が10セット、ゴールド用が5セット、以上でございます」


 こちら側の番のようだ。マリーさんが立ち上がり、テーブルの上に見慣れたそれを一枚ずつ並べていく。仮説は正しかった。百枚以上あるそれをコタローが信じられないといった様子で見ている。次に色違いのそれを数十枚、また別の色を十枚ほど、そして特別だと言って僕にくれた光り輝くあの色のものを二枚。


「それでは確認の時間とさせていただきます」

 秘書の女性とマリーさんが場所を入れ替わる。マリーさんは、早速並べられた品物を調べはじめた。セバスさんがマリーさんの検品の様子を見ている。秘書はまだはじめていない。そうか、これは僕の仕事だ。僕は秘書の方に身体を向けて意識を集中させ、軽くうなずいて合図を送る。その意味を分かってくれたらしく、彼女は僕に一礼して仕事をはじめた。それの上に手をかざし、数秒ごとに切り替えるように次のそれに移っていく。おそらく鑑定とか識別とかそういったスキルなのだろう。手をかざしただけでその道具の詳細な情報を調べられる。そんなところだ。

 ちなみにコタローはまったく使い物にならない。こういうときはどれだけ注意をしても、運送上のトラブルやら何やらで不良品が紛れ込むことがある。だから不毛な誤解を避けるためにも、検品作業を確認しないといけないのだ。

 その作業が終わったのだろう、マリーさんの声が耳に入った。

「確認しました。破損品などありません」

「お疲れさまでした」続いてセバスさんの声が聞こえた。

 秘書の女性も確認が終わり、一礼してその旨を告げる。ご苦労、とセバスさんがねぎらう。


「あれで足りるかしら」

「おそれいります。むしろやや多いようです。いかがいたしましょうか、他に何かお付けいたしましょうか」

「今回はいろいろお願いをきいてもらったので、その御礼ということでそのまま納めてください。それに毎回突然来ているのにもかかわらず、いつも笑顔で応対してもらっている分も含めてです。本当に感謝しています」

「いえいえ、こちらこそ助かっております。マールさまがスキルカードを安定して供給してくださっているおかげで当ギルドは平穏無事に運営できている次第でございます」

「それではできるだけ近いうちにまた来るわね。とは言ってもおそらく冬が明けてしばらくしてからになると思うけれど」

「またのご来訪を心よりお待ちしております」

 これではっきりした。タミーさんはスキルカード作成能力者だ。その材料は、おそらくモンスターの残したカードだろう。やたら重かったあの箱に詰まっていたに違いない。スキルカードが猫村の特産品で、それを定期的にスロット拡張薬やら何やらと交換しにこの街を訪れているのだろう。スキルカードは持ち運びに便利だから、ひょっとしたら紙幣代わりに使われているのかもしれない。そうやってマリーさんがあれだけの荷物を仕入れたのだとすればいろいろ納得できる。

 取引が一段落して、それまで沈黙を耐えていたコタローが待ちきれないように話し出す。

「すっごいっす! 兄貴たちにはびっくりすることばかりですね!」

「コタロー、今見たことは秘密にしておいてね」

「はい姐さん、わかりやした!」

 興奮したコタローをなだめながら、交換した品物を片付け、僕らはギルドを後にした。本当は僕もちょっとだけ興奮していた。タミーさんがカード作成能力者なら、おねだりすればカードをもらえるかもしれない。いや、それは甘い考えか、反省しよう。


 街を出て落ち着いたころ、コタローが僕の分まで荷物を持つと言い出した。まだ大丈夫と断っても譲らない。それをあきれたように見ていたマリーさんが、わたしの分も持ってと言ってもにこにこ顔で承諾したのは驚いた。けれども本当に大切な貴重品は、これまで同様マリーさんが運ぶらしい。兎にも角にもコタローのおかげで、帰りもかなり楽な旅路になったのだった。

 やたら上機嫌なコタローといろいろ話しながら、帰り道も中程まできたころ、マリーさんが立ち止まった。

「あの大岩の向こうで待ち構えているみたい」

 数百メートル先に確かに岩が見えた。それのことだろうか。探知の範囲外らしく、レーダーに反応はない。

「危ない相手だったら、二人ともこのまま街に引き返して。ギルドに事情を話して保護してもらって」

「いったい、なんなんでやんすか?」

「朝から後をつけられていたのよ。多分その連中ね。ここは、街からは離れているし、他に人の気配もないし、襲うにはうってつけの場所よ。そういうところで隠れて待ち伏せしているような相手だから、あまり友好的な歓迎は期待できないわね。二人とも覚悟はしておいてね。とりあえず逃げやすいようにスキルカードを調整しておいてもらえるかしら」

 調整する必要はないのだが、コタローの手前もあるし、なんとなくそれっぽく振舞っておいた。緊迫した状況を前にして間の抜けた行為である。それよりコタローだ。おそらく移動速度上昇のカードに付け替えたのだろう。そうでなくとも荷物が負担になるかもしれない。

 コタローの荷物を少し持とうとしたが、逃げるときには最悪それをおとりにして捨てていっていいとマリーさんが言う。ここであまりどたばたやっても逆にあぶないかもしれないということで、そのまま持っていてもらうことにした。スキルが有効になるまでの時間をかせぎながら、僕らはゆっくりとその場所に近づく。マリーさんの予告どおり、レーダーに二人分の反応があらわれる。

 やがて間合いに入ったのだろう。僕らに少し下がるように身振りで指示し、マリーさんが叫んだ。

「そこに居るのは分かっているわ。わたしたちに何か用かしら、二人とも出てきなさい」

 レーダーで探知されていることに気が付いたのだろう。二人組みが茂みの陰から現れた。今朝から僕たちの後をつけていたという連中に違いない。そのうちの一人が大きな剣を振りかざしながら叫んだ。


「気付かれていたなら仕方ない。手短に話そう。コタローを放せ。首輪を解除しろ。彼は僕らの仲間だ」

「お、お前ら、無事だったんだな……」

「ああ、コタローのおかげで助かった。だからコタローには恩義がある。この命に代えてもコタローを助けてやるぞ! お前ら、そんなコタローにばかり荷物を持たせてこきつかいやがって! 何の罪があるというのだ! コタローを置いて立ち去れ!」

「あんなこと言ってるわよ、どうする?」とマリーさんが尋ねる。

 コタローは少しうつむいたまま何か考えていたようだが、やがて意を決したように前に出て、彼らに告げた。

「えーと、二人ともありがとう、気持ちは嬉しいよ。でもいいんだ。わたしはこのまま兄貴たちについていくことに決めたんだ。兄貴は優しい人だ。わたしをワニから救ってくれた。恩がどうこう言うなら、まずわたしがその恩を返さないといけないんだ」

「コタロー、お前はだまされてるんだよ! 本当に優しさから助けたのなら、下僕になんかしたりしないはずだろ! それとも首輪の能力で無理矢理そんなことを言わされているのか!?」

「……違う。下僕にはわたしが望んでなったんだ。それに二人とも分かるだろう。わたしたち三人が束になってかかったのに手も足も出なかったワニがいたじゃないか。あれを兄貴たちは瞬殺しちゃったんだよ。かないっこないよ」

 その言葉に二人とも少しひるんだものの、それを隠すようになおも食い下がる。

「それはきっと弱点を突いただけなんだ。だからそう見えたんだよ。僕らはワニじゃない!」

「いや、そうじゃないんだ。なんというか、姐さんも兄貴もいろいろな意味で僕らとは次元が違うんだ。それは強さだけじゃないんだ。人間としての器が違うんだ。わたしが恩を返そうとしているのに、逆に親切にしてもらって、もう返しきれないくらいなんだよ。だからこの荷物持ちだって、わたしが無理にお願いしてやらせてもらっているくらいなんだ」

「く……、それも下僕の首輪で言わされているんだな! そんな歯の浮くような白々しいこと、信じられるわけがないだろ!」

「本当だよ、わたしが弱いのをみかねて、惜しげもなくシルバーカードを譲ってくれたりしたんだよ。ほら、これがその証拠だ」

 そういって先刻のシルバーカードを二人にかざしてみせる。銀色に輝くそれを見て、さすがにコタローが本当のことを言っているようだと気がついたらしい。何やら小声で相談をしはじめた。

 そんな連中を傍目にして、マリーさんは僕を指先でぷにぷにとつつきはじめた。

「へー、コタローがやたら機嫌よかったのってそんなことがあったからなんだ。へー」

 やめてください。すごい恥ずかしいです! とてももったいなかったんですよ!

「これで分かったとおり、姐さんも兄貴もシルバーカードなんか眼中にないんだ。多分ゴールド以上のカードでスキルを構成しているんだと思う。わたしも一枚ゴールドカードを見せてもらったんだ。だからそれは間違いない。ほとんどカッパーのわたしらじゃ、天と地がひっくり返っても相手にならないよ」

「へー、さすがにゴールドカードをいっぱい持っている人は気前がいいわね、へー」

 いや全然そんなことはないですよ! 一枚はマリーさんのだし、もう一枚は借金返済用にしようと考えてるし! 僕だってシルバーもらえるなら何でもしますよ!

「それにわたしの旅の目的、兄貴はそれを絶対にかなえてくれるって約束もしてくれた。だからわたしは兄貴を本当に慕っているし、一生ついていこうって決めたんだ」

「へー、なつかれてるわねー、いいなーうらやましいなー、へー」

 ううう、とっさの事とはいえ、変な約束しちゃってごめんよコタロー。もういじめないでくださいよマリーさん……。

「二人には悪いけれど、わたしをパーティーから抜けさせてもらいたい。勝手なお願いだというのは分かっている。でも、もし、みんなを助けたという貸しがまだ残っているのなら、それを認めることで帳消しにしてくれないか。もちろんこうして命をかけて助けに来てくれたことも、わたしはすごく感謝している」

 マリーさんのつっつきは止まらない。さすがに僕も耐え切れなくなってきたので、無言でつつき返すことにした。

「へー、逆切れしちゃうんだ、へー」

 だってしょうがないじゃないですか。あの時はああするしかなかったんですよ! 僕だってつらかったんですよ! 察してくださいよ!

 誤解がとけたようで、コタローの仲間だった二人は剣を収めはじめた。良かった。これで無事に帰れる。彼らは敵意のないことを示して僕らに数歩近づき、声をやわらげ僕らに申し訳なさそうに尋ねてきた。

「あの-、本当にコタローをかわいがってくださっているんでしょうか」

 僕とマリーさんは、つっつきあったまま、無言でうなずく。それを見た二人は、再び相談をはじめたが、すぐにそれを終えてこう言った。

「あ、あのー。先ほどは大変失礼なことをしてしまい申し訳ございませんでした。それで、こんなことを申し上げるのもあつかましい事だとは重々承知しておりますが、僕たちも旅のお供に加えていただけないでしょうか。荷物持ちならおまかせください。料理、洗濯、何でもお申し付けください。あまり戦闘は得意ではありませんが、それ以外のことでしたらたいていのことは喜んで引き受けさせてもらいます」

 う、うん……、どう見てもコタローのシルバーカードに目が眩んだようです。僕らについてくればスキルカードがもらえると踏んだようです。二人ともやけにへりくだった様子で手をすりすりしながら作り笑いを浮かべている。僕とマリーさんはその変わり身の早さにあきれて、つつきあった姿勢のまましばらく固まってしまった。

 二人のセールストークは続いていたが、マリーさんはそれを聞き流しながらコタローの荷袋をがさごそとあさっている。やがて何かを取り出し、それを背後にかくしながら、マリーさんは笑顔で返事をする。

「そうねー。考えてもいいわよ。でも、コタローと同じく下僕の首輪を付けてもらうけど、それでもいいかしら」

 そう言ってマリーさんは首輪を両手に一つずつ取り出し、二人に見えるようにちらつかせた。それを見た二人の顔色が見る間に変わっていく。

「あ、いえ、その、すいませんでした。コタローをどうぞよろしくお願いいたします。それではごきげんよう」

 二人は両手を広げてそれらを拒絶した。その姿勢のまま僕らを大きく迂回するように街の方へと回り込むと、一目散に逃げていく。僕らが進む方向を避けて逆に向かったということだろう。本当に変わり身が早い。

「姐さん、そんなものいつも持ち歩いてるんですか……」

「とんでもない! さっき街で仕入れてきたばかりよ。コタローに使っちゃったからしばらく持ってなかったの。それを反省して予備を入れて二つ買っておいてよかったわ。でももし今回使う羽目になっていたら、また手持ちがなくなっていたわね。三つ買っておいたほうが良かったかしら」

「姐さん……」

 そんな僕らを横目に見ながら、走り去る二人がコタローに別れを告げる。

「じゃあな、コタロー! 元気でなー」


 コタローはそんな二人に、大きくゆっくりと手を振った。




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