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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第03章 猫舌ロイヤルミルクティー
26/39

第26話 問い方

「準備できました。目を閉じてください」

 マリーさんが手で目を覆うのを確認すると、僕は両手を掲げ頭上で魔法の球を発動させた。球として蓄積された魔法力が即座に光に変換される。フラッシュがたかれたかのように、あたり一面をまばゆい光が包む。昼間ではあったが、今の光ならおそらく気が付いてくれただろう。僕は薄く閉じていた目を開くと、少年の方向を向いて叫ぶ。

「聞こえるか! こっちだ! 逃げてこい!」

 少年はそれに気が付いたらしい。ワニの注意がそれた隙をつき、こちらへと走り出した。それにワンテンポ遅れたものの、すぐさまワニも凄まじい勢いで迫り来る。

「ありがとうハルトさん。後はわたしに任せて下がっていてもらえるかしら。念のため荷物は置いて身軽にしておいてね」

 下がってと言われて引き下がるのもあまり格好いいとは思えないけれど、何か策があるのだろう。僕はそう考えて邪魔にならないように後退し、不要な装備を置いて槍を持って身構えた。ふと、マリーさんに猫耳が出ていないことに気が付く。それが見れないのは残念だけど、見えないからこその安心感があった。きっと大丈夫だ。そこまで切羽詰まった状況ではないということだ。僕はマリーさんの向こうへと視線を移す。


 少年が駆け寄る。マリーさんは罠の手前で待ち構えている。僕は手を上げてこちらに来るように合図する。少年がマリーさんをすり抜け、追跡者が新たな獲物に襲い掛かろうとしたとき、続けて二度、爆音が響き渡った。

 それはくぐもったような音だったが、それにあわせてその巨体は一瞬宙に浮き、それまでの惰性で前のめりに地面をすべり行く。しばらく進んだ後、やがてそれはカードへと姿を変えていった。

 どうやらマリーさんの爆の魔法だったらしい。周囲を塞いで爆発で生じた圧力を集約させ、威力を何倍にも増強させたようだ。その理屈は鉄砲やら大砲やらと同じものだろう。その力で比較的やわらかい腹部を狙うことにより、なんとか倒すことができたようだ。ワニの生命力は凄いらしいと昔何かで読んでいたので、そのあっけない終わり方に少し拍子抜けをした。

 マリーさんは使われなかった罠を発動させた。地雷とも言うべきそれから轟音が鳴り響いた。雲の入り混じる青空を、罠を覆っていた蓋のようなものが放物線を猫き飛んでいく。おそらくあれが、弾丸のような役割を果たしていたのだろう。

 僕の背後からぜいぜいとした息遣いが聞こえてくる。少年は僕の後ろに隠れるように逃げ込み、剣を杖にして、かろうじて立っている。それまでの戦いで体力を使い果たしていたようで、安全を確認すると仰向けに倒れこんだ。


 その様子に大丈夫かと覗き込むと、ちらりとこちらを見てその息を無理やりに整える。とりあえずの挨拶を口に出した。

「こんな姿勢で失礼します。ありがとうございました」

「いいわ、疲れているでしょうから、そのまま少し寝転がっていてちょうだい」

「申し訳ありません、ちょっとだけ休ませてください」

 そのやり取りが終わると、少年は再び音を立てて呼吸をし始めた。よっぽど疲れているのだろう。全身で息をしているようだった。

 

「さて、時間が惜しいわ。とりあえずここに荷物を集めてもらえるかしら」

 僕は置いてきた荷袋やらカードやらを集める。ワニ肉のカードがやたらと重い。マリーさんは地面に突き刺さった杖を抜こうとしているが、衝撃で深くめりこんでしまったようで手こずっていた。どうやら杖の部分はあきらめ、カップの部分だけ外してなんとか回収できたようだ。

 戦いの後始末を終えたころ、少年はいつの間にか呼吸を整え、ちんまりと座り込んでいた。その様子では大きな怪我などはなさそうだ。ひとまず安心する。

「次はこちらを片付けましょうか」

 カップについた汚れを取り除きながら、マリーさんが少年に歩み寄る。少年はそれに気が付いて立ち上がると、大げさにへりくだった態度を見せて感謝の言葉を述べはじめた。

「ありがとうございました。おかげで助かりました」

 少年はまだ何か言いたそうだったが、マリーさんは仕草でそれを制して少年を再び座らせると、たんたんと事務的に尋問を開始した。

「あなた名前は?」

「コタローコタローと申します。コタローとお呼びください」

 マリーさんは名乗り返すこともせず、話を続ける。

「ではコタロー、まず起こった事態を確認するわ。あなたはワニに襲われていた。到底かなう相手ではなかった。それをわたしたちが助けた。この認識で間違いないかしら」

「はい、おっしゃるとおりです。本当にありとうございました」

「疑うわけではないのだけれど、冒険者カードを見せてもらえるかしら」

「はい、こちらです」

 コタローは首にかけていた紐をはずして、それについていた冒険者カードを取り出す。それをどうやって見せるか一瞬迷った様子だったが、マリーさんが手を差し出したので渡した。そのカードを横から覗かせてもらうと、そこにはコタローの名前とランクDの文字が書かれていた。

「ランクDね、ここに来るのはまだ早いわね」

「いえランクDと言いましても限りなくCに近いDでして、あの……その……」

 コタローは言い訳しようとしたが、マリーさんの眼光におびえ、次第に声が小さくなっていく。コタローが口ごもると、カードを取り上げたまま、マリーさんは続けた。

「それじゃ悪いけど、次はスキル構成を見せてもらえるかしら」

「えっ、そ、それは……」

「こんな場所でなければ、あなたがあそこで戦っていた理由やら何やらを一つ一つ聞いていってもいいのだけれど、あいにくとそれを聞いて裏を取る時間がもったいないわ。今はひとまずあなたの主観の入り混じった供述よりも、客観的な情報だけが欲しいの。それとも見せられない理由でもあるのかしら」

 その言葉に無言で抵抗していたコタローだったが、マリーさんの威嚇の前に観念したようにスキルウインドウを開いた。僕たちは座ったままのコタローの背後に回り込み、それを覗き込む。

 他人のスキル構成を見るのは初めてだ。いろいろと便利そうなカードが目を引く。


スロット

 成長スロット

  基礎  空き:0/2

   2 『基礎:回復力上昇  レベル 06/22』

   1 『基礎:敏捷性上昇  レベル 05/22』

  脚力  空き:0/2

   3 『脚力:移動速度上昇 レベル 10/21 成長+10%』

   1 『脚力:移動速度上昇 レベル 07/20』

  武術  空き:0/1

   2 『武術:格闘術    レベル 09/20』

  魔法  空き:0/1

   1 『魔法:硬      レベル 02/20』

  補助  空き:0/2

   1 『補助:クリティカル レベル 05/20』

   2 『補助:両利き    レベル 07/20』

  感知  空き:0/1

   2 『感知:地形探知   レベル 08/22 探知範囲+10%』

  製作  空き:0/1

   2 『製作:石工     レベル 08/22 成長+5%』


 フリースロット 空き:0/4

   1 『感知:自己感知   レベル 10/20』

   1 『補助:消音     レベル 05/20』

   1 『基礎:腕力上昇   レベル 03/20』

   1 『基礎:体力上昇   レベル 05/20』


 保存スロット  空き:2/6

   1 『製作:料理     レベル 05/23』

   1 『基礎:熱耐性    レベル 01/20』

   1 『脚力:運搬力上昇  レベル 05/20』

   1 『脚力:体力減少軽減 レベル 06/20』


 最初は見せるのを渋っていたコタローだったが、いざウインドウを出すととたんに自分から解説をし始めた。

「いやーこの前やっと魔法カードが出ましてね、ようやく成長スロットコンプリートしたところなんですよ。六種類集まった後、最後がなかなか埋まらないと聞いていたんですが、わたしの場合は特にひどかったですねー。引けども引けども魔法スキルが出てこなくて、先にシルバーカードが出ちゃった時にはひょっとしてもう出ないんじゃないかと思っちゃいましたよ。ああ、シルバーってこの移動速度上昇のカードなんですけどね。ちょっと自慢なんです。なんせ脚力スロットが二つあるじゃないですか。まさにわたしのために出てきたカードみたいなものじゃないかって」

 各カードの前に見慣れぬ数字があったのが気になっていたが、コタローの話から察するにどうやらカードのランクを表しているらしい。脚力のカードにだけ3となっているものがあるから、おそらくこれがシルバーカードなのだろう。おそらく2がカッパーレアで、1がコモンカードだ。これは推測だけれども、自己感知スキルのレベルを上げれば、僕の表示もこうなるに違いない。

 コタローは延々と話していたが、それをさえぎるようにマリーさんが次の命令をくだす。

「次はその帽子を取ってもらえるかしら」

「いや……、その……、ちょっと見せたくない傷跡がありまして……」

「かまわないから、早く取って」


 コタローはしぶしぶと諦めるように帽子を脱いだ。その頭には申し訳なさそうに倒れ込んだ猫耳がついていた。



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