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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第03章 猫舌ロイヤルミルクティー
23/39

第23話 使い方

 スキルウインドウには次のように記されていた。


『カッパーコモン

  魔法:光 レベル 01/20』


「なかなか便利なカードが出たにゃ」

「そうなんですか」

「明かりには持ってこいにゃ。熱くないから夏場は特に重宝するにゃ」

「ふむふむ、ところでタミー先生、魔法の使い方をちょっと教えてもらえませんか」

「うむ、まかせるにゃ」

 先生と呼ばれて機嫌の良くなったタミーさんから魔法の使い方の手ほどきを受け、早速使ってみる。まず小さなエネルギーの球体を作り出す。そしてそれに『発動』をイメージすると、球体がはじけてまばゆい光が部屋を包んだ。

「そんな感じにゃ。一度でできるにゃんて才能があるにゃ」

「先生の教え方が上手だからですよ」

 僕がそう褒め返したのに、タミーさんは肩を落とし、いたたまれなさそうにつぶやく。

「うにゃ、魔法の使い方は問題にゃいのに、スロット数が残念なことになっていて不憫すぎるにゃ」

「余計なお世話です。嘘泣きはやめてください」

「にゃんだ、ばれてたかにゃ」

「芝居が臭すぎます。そんなことよりもうちょっと教えて下さい」

「演技と分かってるならつきあってくれてもいいのににゃー、うにゃうにゃ」

 どうしろというのだ、まったく。


 明かりとして使う方法も教えてもらった。一気に全てを発動させず、じわじわと減少するようにイメージすればいいらしい。実際にやってみるが全く難しい。

「うまくできないですね。コツとかあったら教えてもらえませんか」

「うーん、そこは慣れもあるにゃ。きっとそのうち自然にコントロールできるようになるにゃ」

 いろいろ試してみたが、今のままでは明かりに使うのは難しそうだ。激しく疲れる上に発動の調節がうまくできない。カードのレベルが上がればエネルギーの変換効率と効き目が次第に良くなるという。タミーさんの言うように自然に上達するのを待とう。


 覚えたての魔法を使うのに飽きてきたころ、タミーさんは言った。

「そうそう、忘れるところだったにゃ。冒険者カードを出すにゃ」

 僕は冒険者カードを出しながら、理由を聞いてみる。

「どうぞ、でも何故ですか?」

「念のためランクを書き換えておくにゃ。Fランクのままじゃいろいろとまずいにゃ」

 タミーさんはカードを持って奥の部屋に消えていった。僕はアイちゃんと遊びながらそれを待つ。しばらくするとうやうやしくカードを持ちながらタミーさんが帰ってきた。

「終わったにゃ」

 そう言っておごそかに冒険者カードを手渡された。そこにはBの文字が輝いていた。僕がそれに見とれていると、それまでのムードをぶち壊すようにタミーさんはまくし立てた。

「本当はFランクなのにBランクなんてかっこいいにゃ! Sランクなのに面倒だからBにしてるみたいだにゃ!」

「パパかっこいいにゃ!」

 状況をよく分かっていないアイちゃんも褒めてくれるが、違うんだ。かっこいいんじゃないんだ。

「う……、また馬鹿にしてませんか?」

「そ、そんなことないにゃ。にゃはは。ほ、本当はFなのにB、にゃはははは」

 どうにもタミーさんの笑いのツボにはまったらしく、にゃはははと笑い続けている。アイちゃんもつられて笑っているので僕も苦笑いするしかなく、収集が付かなくなった。好きなだけ笑ってくれていいんです。だけど今日のことを覚えていてください、タミーさん。僕は忘れません。

 でもこれで相手に舐められることはなくなっただろう。一応心遣いに感謝はしておこう。それに一時的にせよ、ランクが上がったのは嬉しい。『保護者』の注記がなくなったのもありがたい。できるならずっとこのままにしてほしい。旅から帰ってきてもこのままタミーさんが忘れてくれることを祈ろう。いや忘れたら仕返しがやりにくいか。困った。

 相反する二つの願いを考えながらタミーさんの笑い声を聞いていると、笑われるのもいいじゃないかという気持ちになってきた。ランクFだけどB。なんだか自分でもおかしくなってきて、みんなと一緒に笑ってしまった。余計な力が抜けた気がした。


 ひとしきり笑った後、タミーさんがようやく落ち着いたので少し話を聞いてみた。

「Bランクってどれくらいの強さってことになるんですか?」

「そうだにゃー、冒険者としてだいたい一人前になったらBランクになるかにゃ」

「ふむふむ、一人前の基準とか目安みたいなものはあるんですか?」

「そんなのないにゃ」

「……じゃあどうやってランク昇格とか決めてるんですか?」

「にゃー、まあその人を見れば分かるにゃ。長年の勘にゃー」

 ずいぶんと大雑把である。最初の説明では試験がどうこう言っていた気がするが、あれは何だったのだ。僕がFランクだというのもタミーさんの気分で決められたようなものか。それならこのままBランクのままでも問題ないような気がしてきた。

「それじゃ、面白いのでしばらくこのままBランクのままにしておきませんか?」

「にゃるほど、それもいいにゃ。うにゃうにゃ、ハルトしゃんもようやくお笑いというものが分かってきたようにゃ。先生は嬉しいにゃ。出オチ担当を命ずるにゃ」

 どうせ僕が受ける仕事もタミーさんがチェックするのだし、それで大丈夫らしい。勢いに任せて言ってしまったが、すんなり話が通ってしまって驚いた。言ってみるものだ。出オチ担当はどうかと思うが、それでBランクになれるなら安いものだ。

「みててくださいよ。そのうち本当に『ランクS相当なのにランクB』とやらになってみせますから」

 僕がそう言って微笑むと、タミーさんは珍しく真面目な顔をしている。

「いい笑顔ができるようになったにゃ。安心したにゃ」

 ひょっとしたらタミーさんは僕が思っているより立派な人なのかもしれない。神妙な顔つきでこんなことを言われると、そんな誤解をしたくなる。

「タミーさんの笑顔にはまだまだ及びませんけどね」

 タミーさんはそれには何も答えずに、いつも見せてくれている本当に楽しそうな笑顔だけを返してくれた。


 そんなこんなで用事も終わったので、念のためタミーさんに聞いてみる。

「今日もマリーさん宅に泊まるんですか?」

 そう尋ねると「もちろんそうだにゃ」と元気の良い答えが返ってきた。想定どおりの答えだったので、ギルドの戸締りを手伝い一緒に帰る。アイちゃんを頭の上に乗せて、タミーさんはご機嫌である。


 戻ると夕食が準備されていた。それをみんなで囲みながら、早速マリーさんにも覚えたばかりの魔法を披露する。

「こんな感じです。用途は明かりと目くらましくらいなのかな」

「わたしもそのくらいしか思い浮かばないわ。でも魔法は使い方次第でいろいろ面白いことができるみたいよ」

「そういえば前に見た大道芸人しゃんは、爆の魔法で音楽を奏でてたにゃ。あれはすごかったにゃ」

「そんなことできるの? 今度やってみようかしら」

「あれだけのために爆の魔法を覚える価値はあると思うにゃ。ただ制御がすごく難しそうだったにゃ」

 話はそのまま『魔法でできる面白いこと』の方に進んでいった。それを聞きながら光の魔法のほかの使い方を考えていたが、これといったものは思い浮かばかなった。二人の話では、魔法に慣れてくれば自然にいろいろとひらめいたりするそうだ。しばらく練習して、明かりとして使えるようになってから考えることにしよう。


 明日は早いので、今日は早めの就寝となった。起きたらいよいよ出発である。



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