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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第03章 猫舌ロイヤルミルクティー
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第22話 増やし方

 タミーさんは今度も渋ったが、結局は許してくれた。街に出るのに難所となるのは森と湿地帯だが、いずれもマリーさんの能力があれば安全に抜けられるという。むしろ街での取引後の方が危ないくらいだそうだ。

 街に出て買い物をするためには、まず言葉を喋れることが必須条件だ。次に人間の姿を取れることが望ましいという。猫族の姿ではただでさえトラブルに巻き込まれやすいのに、高価な取引をして目立ってしまうと襲われる可能性がとても高い。特徴が猫耳だけの人もできれば外したいのだそうだ。

 今までその条件に合致するのは、マリーさん、ソラさん、オルさん、レオさんの4人だけであった。そこに僕がカードを引き当てたことにより、5人になったわけである。しかしどうやら僕が選ばれた理由は、そのメンバーの中で、僕ならしばらく抜けても差し支えないからということらしい。素直に喜べないのが悲しい。

 そういった次第で急遽小旅行の予定が組まれた。体調の回復を待ち、早ければ明後日にでも出るそうだ。狩り以外で村を出るのはこれが初めてだから、ちょっとだけ楽しみである。


「お茶の葉がきれそうなのよね」

「マリーさんは本当にお茶が好きだにゃー。お茶菓子もたくさん買ってくるといいにゃ」

 二人でわいわいと欲しい物リストを作成しているのを横で聞いていると、ふとタミーさんが思い出したように言った。

「そうにゃ! ついでにハルトしゃんのスロット保存枠を増やしてくるといいにゃ」

「そうね、まだ増やさなくてもいいと思うけれど、次に街に行けるのはいつになるか分からないものね。ついでに秘薬の確保もしてきましょう」

「そういえばそんな話もありましたね。でも詳しいことを知らないので、良かったら教えてもらえませんか」

「いいわよ。じゃあスキルスロットの増やし方からね」


 カードスロットを増やし方についてマリーさんが解説してくれた。それをまとめると次のようなる。

 スロットを増やす方法として一般に知られているものは次の二つだ。一つは前に聞いた秘薬を飲む方法。そしてもう一つが、特別なカードを引き当てることだ。ミスリルランク以上のカードの中には、そのカードと引き換えにしてスキル枠を増やせるものがあるという。もちろんそんなカードを手に入れるためには、かなりの運が必要だろう。

 秘薬による手段は、材料さえ揃えればほぼ確実にスロットを増やせるのが利点だ。そのため通常はこの方法に頼ることになる。とは言え、秘薬の材料には希少なものが多い。また需要も高いため、入手が困難だ。購入するにしてもかなりの代価が必要らしい。また、材料を入手したとしても、秘薬の調合が次の課題となる。

 秘薬の調合には、特別なカードが必要となる。それは『製作:カードスロット』だ。他の一般的な製作カードと違い、このカードは知識や経験以外の何かを所有者にもたらすのだという。調合の過程でその何かが必要であるため、カードの所有者のみが秘薬を作れるのだ。それ故、それを持つ者に富を独占させてきたカードである。そしてそれと同時に、その所有者を危険にさらしてもきたのだ。


 マリーさんの話から手間がかかりそうな一件に思えたが、今回の僕の拡張は片手間にできるくらい簡単な話らしい。

「材料は旅の途中で採っていけばいいにゃ。それを街で調合してもらえばいいにゃ」

「旅の途中って、そんなありふれたものなのですか?」

「どこにでもあるというわけでもないにゃ。湿地帯にしか生えない薬草があるにゃ。それを採ってくるのにゃ」

「ネコマネキ草のことかしら?」

「そうそう、それだにゃ! 多めに採っていくといいにゃ」

「なるほど、余った分買い取ってもらえればその分調合代が安く済むってことね」

「マリーさんは話が早くて助かるにゃ。そんな感じでおねがいするにゃ」

 今回の秘薬は、一番ランクが低いから材料の入手はそれなりに楽なのだという。需要もほとんどないので取りつくされている心配もないという。もちろん僕一人で採取するのは難しいけれど、マリーさんと一緒なら楽に集められるそうだ。

 調合代金は今回の報酬から差し引いてもらうことになった。旅程は三日、その分を抜いても十分な報酬を出してくれるという。


 タミーさんは今日も泊まっていくらしい。まだ本調子ではないマリーさんの代わりにいろいろ働いてくれたので助かったようだった。

 結局僕はこの日を寝たまま過ごした。娯楽の少ないこちらの世界ではどうしても退屈になる。そこで寝ながら行えるマタータービ語とカード操作の練習をした。マンチカン語も覚えたほうがいいのだろうが、今は猫語に専念することにした。

 マリーさんも裁縫をしながら僕の練習に付き合ってくれた。おかげでだいぶ猫語の理解が進んだ。声の強弱と音程に大きな意味があると分かり、挨拶ぐらいならなんとか言えるようになった。しかし子猫のアイちゃんにはまだまだ追いつけない。子猫の成長は早い。体も一回り大きくなったようだ。


 翌朝。予想していた通り、タミーさんとアイちゃんにうにゃうにゃ言われて起こされる。タミーさんの追加の魔法のおかげか、ほとんど元通りに体が動くようになっていた。自己感知のスキルで確認したところ、最大値の九割ほどであった。これなら明日には全快しているだろうということで、明朝出発するということになった。

 出発の準備はマリーさんとタミーさんがやってくれるという。準備といっても、持ち出す商品の選出がメインになるので、僕が手伝える余地はなさそうである。二人におまかせすることにした。

 僕は洗濯やら何やら軽い運動で体をほぐした後、ギルドで残りの片付けをすることになった。門番など他の仕事の方が村のためになるのではと聞いてみたのだが、この仕事でも十分に役に立っているのだそうだ。


 夕方になり片付けも終わった。タミーさんに報告すると、スキルカードを一枚報酬として出してくれた。

「このくらいの仕事でカードもらっちゃっていいんですか?」

 アイちゃんを撫でながら、気になっていたことを聞いてみた。

「にゃ。たしかに報酬としてはちょっと多めだけど、明日からの旅の前払いみたいなものにゃ。それに……約束おぼえてるかにゃ?」

「約束? ですか」

「カードを見せてくれるって約束にゃ」

 そう言ってタミーさんは猫耳と尻尾を使い、早く見せろとアピールをする。

「ああ、そうでした」

 しまった。ここまで食いつきがいいのなら、カード一枚見せるごとに猫耳をさわらせてもらう、とかそういう約束にすればよかった。失敗に悔やみつつ、その場でタミーさんにカードをお披露目することになった。楽しげに待ち構えるみんなの前でカードを確認する。


 それは念願の魔法カードであった。



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