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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第01章 猫舌カモミールティー
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第02話 カードスロット

 僕が異世界に紛れ込んだのではないかと最初に推測したのはマリーさんだ。この世界にはそうやって訪れるものがわりと多いらしく、いろいろな世界から迷い込む人がいるという。そうやって来たものは『漂流者』と呼ばれているそうだ。

 時として悪意あるものが漂流者としてやって来ることもあるという。それは人でないときもあり、モンスターとして居ついたりするらしい。しかしいずれにせよ冒険者ギルドにより討伐クエストが発令され、遅かれ早かれそういったものたちは排除されるそうだ。

 異世界に来てしまったこと、戻れない可能性が高いことに僕は戸惑った。元の世界でやり残したこと、やりたかったことがたくさんあるように思えた。それよりもこれから先、この世界でどうやって生きていけばいいのかということに、主眼を移して考えねばならないのだろうけど、気持ちの整理がつかない。

 僕が不安定な心情を汲み取ってくれたのか、マリーさんが話を振ってきてくれた。

「ハルトさんもしばらくこの家で暮らしてくれていいわ。もちろん何か働いてもらうけどね」

 どうやって働くのかなど、僕のこの後の生活についてマリーさんと話をした結果、僕は冒険者になることになった。冒険者になるのにもいろいろ費用がかかるみたいだが、彼女が立て替えてくれるという。そのかわり、僕の着ている服を預けてほしいとのこと。裁縫を嗜むそうで、この世界では珍しいこの服に興味があるようだ。しきりに観察される。どちらにしろその格好では目立つからと、彼女手作りの服を渡されたので着替えた。

「すごいわこの縫い目! この生地も! …………お金払えなさそうだったら、代わりにこれを頂戴ね」

 マリーさんは上機嫌である。それをしまいこむ動作の端々から喜びのオーラがにじみ出ているようだ。

「さて一緒にギルドに行ってもいいけど、子猫ちゃんが心配だしちょっと留守番しててもらえるかしら。係の人を呼んでくるわね。10分ほどで戻ると思うから、よろしく頼んだわよ」

 そう言って鼻歌交じりのマリーさんは、冒険者ギルドに向けて出て行った。さて僕はどうするか。仕方ない、子猫でも見守って時間をつぶそう。いまだに少し不安な僕を尻目に、子猫は安心しきった表情で寝ている。…………子猫の名前でも考えるか。


 しばらくしてマリーさんは猫耳をつけた女の人と戻ってきた。タミーさんと言うらしい。よく見れば猫耳だけでなく全体的に猫っぽい。仮にマリーさんを黒猫とすれば、タミーさんは虎猫だ。金色に輝く毛並に触れたい誘惑に駆られる。それを抑えつつ、一通り挨拶をすませ、子猫も紹介してから、僕はタミーさんと冒険者ギルドに向かった。…………タミーさんは子猫にご執心だったが、寝ていて起きないのであきらめたようだった。

「あの、タミーさんは、……猫、なのですか?」

「そうだにゃ。由緒正しきネコビト族の末裔だにゃ。それよりも子猫かわいかったにゃー。もう名前は決めたのかにゃ?」

 感情表現の豊かな猫耳を見つめつつ、猫耳をさわりたいとか、モフモフさせてほしいとか、いろいろ欲求がつのったが思いとどまる。

 その後も街の中の目印やら何やらを解説してもらいながら歩く。ほとんど一本道だったので迷うことはなさそうだがありがたい。やがてギルドに着いた。小さな看板のついた趣のある古い建物だ。中に入るとあちこちの壁が暖かそうな絨毯で飾られていた。


「じゃあ準備をするから、そこで座って待っててほしいにゃ」

 示された椅子に座り、彼女を待っていると、やがて何かを小脇にかかえて戻ってきた。

「ではまずこの二枚のカードを入れるにゃ」

 二枚のカードには、『感知:自己感知 レベル01/20』と『補助:カード操作 特殊』と書かれていた。言われるままそれを自分に差し込む。

「自己感知のカードで自分のことが詳しく分かるようになるのにゃ。ついでにカード操作のカードで自分にインストールされているカードを操作できるようになるにゃ」

 スキルカードを体の中に入れ、5分ほどすると定着してその効果が使えるようになるそうだ。それまでの間、いろいろ話を聞いた。

 まずカードの種類。基礎、脚力、武術、魔法、補助、感知、製作の七種類が基本らしい。そして人間にはそれぞれに対応した『スロット』があり、種類の違うカードは入れられないそうだ。スロットの数は人によってまちまちで、魔法のスロットが多い人、製作が多い人などといろいろあるそうだ。そのスロット数の多寡によって、職業の適性を量るらしい。

「スロットにはほかに『フリー』のスロットもあるにゃ」

 フリーのスロットには、ほとんどのカードを入れられるが、その代わり、『カードが成長しない』のだという。

「カードが成長? どういうことですか?」

「んー。カードが成長すると、効果が大きくなるにゃ。上位の魔法が使えるようになったり、体力強化のカードならさらに上昇量が増したりするにゃ。大雑把に言うと、より強く、より早く、より精確になっていくにゃ」

「なるほど」

「さっき言った基本の7種類がその成長枠にゃ。成長スロットとも言うにゃ。それから今言ったフリー枠、そして最後に保存枠ってのがあるにゃ。これはカードを保存しておくためだけのもので、カードを入れても効果は出ないのにゃ」

 やがて唐突に、目の前にウインドウのようなものが開いた。そこにはこう書かれている。


スロット

 成長スロット

  基礎  空き:1/1

  脚力  空き:1/1

  武術  空き:1/1

  魔法  空き:1/1

  補助  空き:1/1

  感知  空き:1/1

  製作  空き:1/1


 フリースロット 空き:0/3

   『補助:マタータービ語 特殊』

   『補助:カード操作 特殊』

   『感知:自己感知 レベル 01/20』


 保存スロット  空き:3/3


「それがハルトしゃんのカードスロットの現状にゃ。『カード操作』か『自己感知』で見えるようになるのだにゃ。さて、スロットの空きがどうなっているのか教えてほしいにゃ」

「成長枠が1ずつで、フリーだけ0ですね。今三枚ささってるから3枠ってことでいいのかな。それから保存枠が3枠です」

「にゃ! オール1に3プラス3とにゃ?!」

「はい」

 これは多分すごいことなのだろう。武術も使え、魔法も使え、さらに製作までこなす。これはひょっとしたら伝説の勇者とかに匹敵するかもしれない。

「どうでしょう? この場合何の素質があることになりますか」と控えめに聞いてみる。

「素質ゼロにゃ……。最低レベルにゃ……。ここまで適性のない人ははじめて見たにゃ!で……、でも、あきらめたらそこで終わりにゃ。地道に努力すれば人並みくらいにはなれる? ……と思うにゃ」

 散々な言われようである。

「そんなにひどいんですか……」と落胆していると、タミーさんは説明を続けた。

「んー。まず成長枠は、たいていの人はどれかが2枠あるのにゃ。その2枠がどれかで適性をみるにゃ。たまにどれかが3枠あったりするけど、そういう人はエリートまっしぐらにゃ。フリー枠も保存枠も3枠は最低にゃ」

 ここまで言うと、すこしばかり何かを考えるように間を置き、少しばかり口調を変え、僕を量りにかけるかのように聞いてきた。


「どうしてハルトしゃんは、冒険者になりたいのにゃ?」



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