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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第02章 雨音ハーモニー
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第18話 雷雨

「ひ、ひぎゃくしゅみ?」

「そうなの。さっき分かったんだけどね、あの人マゾみたいなの。ヘンタイよ、ヘンタイなのよ」

「えー! 本当?! こわーい!」

 このまま放っておいたら何を言われるか分からない。俺は口を挟むことにした。

「あの、ちょっといいですか?」

「ヘンタイさんは黙っていてもらえますか!」

「は、はい……」

 その剣幕に思わず引き下がってしまった。ちょっと自分が情けない。

「さっき二体に囲まれたとき、普通なら逃げ出す状況だったでしょう?」

「うんうん! なんで逃げないのかなーって不思議に思ってた」

「あれはね、自分をわざと痛めつけて楽しむために、ああやってギリギリまで耐えていたのよ」

「そうだったの?!」

 余裕があるところを見せて格好つけるため逃げなかったなんて言えない。

「そうなの。肉体的にも精神的にも、傷つけられるのが大好きな人なの。だからね、チビ子が嫌がらせをしても、アイツを喜ばせるだけなのよ」

「そ、そんな…………。わたしのしてきたことが無駄だったなんて……」

「本当に嫌がらせをしたいなら、一番効果的なのは、チビ子がきちんと謝ることね。もう嫌がらせしないって言えば確実に大ダメージを与えられるわ」

「う……、うん。がんばる」

 ちびっこはまるで汚物でも見るかのようにこちらを見てから、えいと振り向き、体をこわばらせたようにしずしずと歩いてよってくるとこう言った。

「ご……、ごめんなさい……。もう嫌がらせしません」

 誰か教えてほしい。目の前でそんな話をされて、謝られて、俺はいったいどんな顔をすればいいんだ。

「ほんとだー。すごく嫌そうな顔してるー!」

「そうそう、そうやって普通に振舞ってあげるのが一番なの。たとえ挑発されても我慢するのよ」

「はーい!」


 矢とカードを回収し、俺の元へ回復に来てくれた委員長が耳元でささやく。

「ほら、こうすればチビ子はもういたずらしてこないわ。万事解決よね。わたしにまかせて正解だったでしょう?」

 俺は何も言い返せず、うつろな目で委員長をみつめるしかなかった。

「あら、いいのよ、お礼なんて」

 そういってにっこりと微笑む。ああそうか、俺がマゾヒストなんじゃなくて、この人がサディストなんだろう。その考えが浮かぶと、俺の気持ちはようやく少し楽になった。


 委員長とちびっ子は仲良く話している。

「チビ子ちゃん、クエストの進み具合はどう?」

「今ので終わりー」

「あらそうなの、早いわねー」

「えへへ。褒められちゃった」

 気持ちが少し回復した俺は、その会話に割り込むことにした。

「すごいなちびっ子。一体どんな構成なんだ?」

 するとちびっ子は大きく深呼吸してから、やけにまじめな語り口でこう言った。

「たいへん申し上げにくいのですが、スキル構成はそのプレイヤーにとって命ともいうべき大切な情報なのです。むやみやたらとよそ様に教えるべきではないものとわたくしは考えております。今後はそういったご質問はご遠慮くださいますようお願いいたしましゅ」

 その上軽く一礼までされてしまっては、謝るほかない。俺はしどろもどろになりながら、その一言をひねり出す。

「う……、その、ごめん」

 にこやかに話しかけた俺の笑顔は曇っていた。

「うんうん、よく言えました。えらいわね、チビ子ちゃん。そうそう、そういう感じで接するのがベストよ」

「てへへー。また褒められちゃった」

「それでどんな構成なの?」

「うん、隠密二枚差しの雷シーフなの。背後から近づいて魔法叩き込めばネズミさんなんて楽勝だよ!」

 おい丸聞こえだぞ、命ほどに大事な情報なんじゃないのか。いや違う。なんだかんだ言ってこうやって教えてくれたんだろう。そう思いたい。思えない。

「そっかー、雷なら至近距離で当てても巻き込まれないのか。でもそれだけじゃなくチビ子ちゃんの剣さばきもすごかったわよ」

「またまた褒められちゃったー。えへへ。お姉さまにそう言ってもらえるなんて光栄ですー。えーと、それでですね、チビ子おねえさまのお手伝いするから、チビ子のものも手伝ってほしいのです」

「うーん、仕方ないわね。でもパーティはまだ最大二人までだから、チビ子ちゃんを入れられないけどそれでもいい?」

「はいです! ありがとうですおねえさま!」

「それじゃ私はこちらのヘンタイさんの体力を回復しないといけないの。待ってるのも暇でしょうから適当に狩りでもして時間つぶしててもらえるかな」

「分かりましたー! 行ってきます」


 ちびっ子が走り出し、委員長が俺の隣に座り込む。

「ごめんね、仲間の誰かが相手してくれると思ってたんだけど、みんな別アカウントでシルバーカード取りに行ったみたいなの」

「え、別アカウントって、ソフトの他にシリアルコードつきの本体がないと作れないんじゃないですか? それにカードの受け渡しもできないはずじゃあ……」

「そういう人たちなのよ。お金に糸目をつけず、全力でやるの。シルバーカードの中にもアタリハズレがあるでしょ? たとえば製作系を引いてしまったらかなりの出遅れになるわよね。だから、一番いいものをメインにして、他はサブとしてテスト用とかに使うみたい」

 なるほど、今頃チュートリアルと言っていたのはそういう意味だったのか。

「それからあの子があなたにつらく当たる理由だけどね。前に一緒にやっていたゲームで、とても私に懐いてくれていたの」

 それはなんとなく想像がついていた。俺は軽くうなずく。

「だけど私そういう全力でやる雰囲気になんとなく疲れちゃってね。そういう楽しみ方もあるんだと思うし、私自身面白いと思った部分もあるわ。でも、それだけじゃない気がしてね。このゲームができるって聞いて、いい機会だから移ってきたの。そうしたらあの子も移るって言い出してね。それで私がトラネコだから、クロネコって名前にしたかったみたいなのよね。でも偶然だけど、あなたがそれを取ってしまった形になったわ」

「なるほど」

「なんていうか、みんなと距離をとるために、あなたを利用してしまったところもあるわ。あなたと一緒に遊ぶから今回は抜けさせてってみんなに言ってしまったの。ごめんなさい。とにかくそうやっていろいろ重なっちゃって、あの子にあなたを恨ませる結果になってしまったわ。本当にごめんなさい」

「そうですか……。謝らないでいいですよ、誘ったの俺だし、あの子の名前取っちゃったのも俺だし。ところで、他の人たちも移ってきたんですか?」

「前のゲームの続けてるみたいだし、ネットでの評判が良かったみたいだから、様子見って感じかしら。スキルカード課金がはじまったらどうするのかは、あんまり想像したくないけどね」

「わかりました。……それで、俺はどうすればいいでしょう」

「あの子には普通に、大人として接してあげて。それでいいんじゃないかなと思う。あれでもだいぶ良くなってきたのよ」

 俺に冷たく当たっていた理由がようやくわかった。急にあのちびっ子がいとおしくさえ思えた。

「まあなんだかんだ言って、私も攻略に結構力をいれちゃってるんだけどね」

 委員長はそういってぺろっと舌を出して立ち上がると、ちびっ子の方へと声をかけながら駆けていった。


 ゲーム内の天気は、山の天気のように変わりやすい。先ほどまで穏やかに晴れていたのに、突然のように空は雲に覆われ、やがて大粒の雨が降り始める。そのしずくの一滴一滴が、音を消すように、そして音を立てるように落ちてきていた。

 委員長とちびっ子が、何やら楽しそうに話しているのが目に入る。トラネコさんに抱きつき、はしゃぎまわるシロネコさんの姿が見える。


 俺にはこの雨が、いろいろなものを流してくれているように思えた。



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