第17話 シロネコさんふたたび
王様のありがたいお話が終わり、兵士に話しかけると武器と防具をもらえた。俺は剣と盾、それから厚手の服だ。委員長は剣のかわりに弓矢と矢筒をもらえたという。アイテムを選択して使ってみると、二十秒ほどのカウントダウンがはじまり、それが終わるといつの間にか着替えていた。女性用のものはズボンのかわりにオーバーニーソックスで脚部をガードしている。
「トラネコさん似合ってるな。かわいいよ」
これまで学習したことを踏まえて、早めに感想を伝えておく。足を長めに見ていたのはそれで許してくれたようだ。
「ありがとう、クロネコくんもすてきよ。さて、狩場が混む前に早めに行きましょう」
そう委員長が言うので、俺たちは城を抜け、街の外へと向かう。これから本格的に混みだすのだろうか、すれ違う人の数が多い。委員長の言うとおり、早めに動いてよかった。できればこのまま3つクエストをこなしてしまいたいと委員長は言った。そんな訳でその道中は、クエストウインドウを開いてやるべきことを確認し、手順を話し合った。
予想していた通り、既にかなりの人数が戦闘を開始していた。巣穴から出現するプレーリーラビリンスマウスを競うように狩っている。このネズミがクエストで指定された最初の獲物だ。立ち上がると人間の背丈ほどもあるだろうか。かなり大きなネズミである。
「打ち合わせどおり、トラブル回避のためにもっと奥に行くわよ」
既に巣穴を巡ってなわばり争いのようなものができているらしい。俺たちはプレイヤー間のいざこざを避けるため、人の少ないほうへと向かう。良さそうな場所をみつけ、このあたりで狩ろうということになった。
「始める前にパーティを組まないとね。はい、両手出して」
委員長の手はやけにやわらかく、ほっそりと華奢で、そしてほんのりと暖かかった。その手が、そっと置いた俺の手を包むように、ぎゅっと力強く握られた。
「パーティ結成」
「結成承認」
「それじゃあはじめますか」
そう言って委員長はぱっと手を離す。正直のところ、もう少しそうしていたかった。しかし一緒にゲームを続けるなら、毎回パーティを組むたびに手を握れるということだ。次が楽しみだ。
委員長は魔法を準備しはじめた。走って目減りした体力を回復させるためだ。体力はヒットポイントに相当する。しかしこのゲームでは、スタミナのような活動力そのものに近い扱いになっており、行動によっても減少する。減りすぎると動きが鈍ってくるので管理は重要らしい。ちなみに魔法の使いすぎで精神力を消耗しても、同じように活動に支障をきたすらしい。
委員長が小さな魔法球を俺にそっと当ててくる。それが吸収されると、俺の体力はじわりじわりと回復していった。
「加減がまだわからないのよね」
委員長はそういって今度は自分自身を回復し始めた。
俺も強化魔法の準備をはじめる。魔法球を形成し、ひとまずは自分に使う。詳細なところをよく理解していないが、これで基礎的な能力が少し底上げされたらしい。もう一つ作り、それを委員長に押し当てる。それはじわじわと委員長の中に入っていった。俺はついゴクリと生唾をのんだ。いぶかしげに委員長が俺を見つめる。
「今変なこと考えてなかった?」
「か……、考えてないよ! それより強化かけたのに時間がもったいないよ、まずはあれからー!」
作戦通りにネズミを狩る。委員長が弓で攻撃して敵が近付いたところで、俺が道をふさぎ敵をひきつける。それを委員長が弓矢で削る。モンスターが俺を無視して委員長に向かうなら、俺がそれを追い、挟撃を狙う。
ネズミが近付くと、それは後ろ足で立ち上げり、牙や爪で攻撃をしかけてきた。それらを盾と剣でふせぎつつ、合間合間に剣で切りつける。
一番最初の敵としては、なかなかに手強くしかもタフだ。体毛は硬く、一度の攻撃で一割ほどしか体力を減らせない。一対一だったならかなり手こずっただろう。突然ネズミの体が沈み、タックルのような攻撃を仕掛けられた。反応しようとしたが間に合わず、わき腹のあたりにくらってしまう。2割近く体力を減らされた。距離をとりたいところだが、ぐっとこらえて耐え忍ぶ。
突然、俺に興味を失ったかのように、ネズミは委員長にむけて突進した。俺はそれを追い、背後から攻撃をしかける。委員長は冷静に矢を放つ。ネズミの体力が3割ほどになったところで目に見えて動きが遅くなってきた。最後のあがきのようなものはなく、なんとか倒すことができた。ネズミはカードに変わっていく。
委員長が走り寄る。カードと矢を回収してとりあえず反省会だ。
「俺の攻撃で10%、委……トラネコさんので15%くらいかな」
「わたしは6回撃って3回ヒット。もうちょっと当てたいわね」
「いやいや、それだけ当てられれば十分すごいよ。それよりソロだと倒せるのかな。構成によっては苦戦しそうだよ」
「弓だと狙撃があれば、遠距離から当てやすくなるみたいね。それでなんとか狩れるみたい。ただ距離をとって動き回らなければいけない分、場所取りが大変みたいよ」
いろいろ試行錯誤しつつ、6匹目くらいと戦い始めたころ、突然レーダー上に遠方からこちらに向かって二つの点が近寄ってくるのが見えた。背後で見えないが、どうやらまっすぐにこちらを目指してくるらしい。
「何か近付いてくる?」
「ええ、まあ」
委員長が落ち着き払っているので安心していると、例のちびっ子がネズミを一体ひきつれて現れた。そして俺の目の前でマントをひるがえらせると、その姿は掻き消えていった。対象を見失ったそのネズミは、仲間のネズミが戦っているのを見ると、俺を敵と認識し襲ってくる。
「おねえさま! 来ちゃった」
「あらチビ子、みんなはどうしたの?」
二体のネズミに囲まれ、ちょっとピンチである。俺も走って逃げればいいのだが、なんとかもう少し持ちこたえられそうなので、格好いいところを見せたいという気持ちが邪魔をする。
「おーい、のんきに話していないで、攻撃頼む!」
「みんなチュートリアルやってるー」
「そっかー。やっぱりねー」
完全に俺を無視している。注意がそれた瞬間、うっかり体当たりをくらってしまった。体力がもう半分くらいしかない。
「さっさと助けろー!」
「あんなこと言ってるよ? どうする?」
「んー、まだ大丈夫じゃない? それに人に物を頼むときの態度じゃないよね」
二対に囲まれじわじわと削られ、そのころにはもう俺の体力は3割ほどしか残っていなかった。相手は5割ほどと9割ほど。体の動きに鋭敏さがなくなってきた。プライドをかなぐり捨てて、早めに逃げておくべきだった。
「お願いします! シロネコさま! トラネコさま!」
「むー。まあアイツが倒れた後迷惑するのはこっちだから仕方ないか、おねえさま」
「そうね、じゃあちゃちゃっとやっちゃいましょ」
やっと助けてくれるらしい。いつの間にか近付いていたちびっ子がネズミの背後から魔法を食らわせたようだ。ビリビリと痺れたようなエフェクトが発生し、さらに畳み掛けるように剣での攻撃が決まる。9割あった方はその二回の攻撃で一気に4割ほどに減らされた。ネズミは俺に背を向けちびっ子を攻撃し始めた。
5割の方にも委員長の弓矢が立て続けに命中していく。
気がついたときには二体とも倒されていた。俺は座り込み、体力を回復させる。
「た、助けていただきありがとうございました」
「うむ」
「うむ」
半分非難の意味を込めてそう言ったつもりだが、二人とも動じない。
「これにこりたらもうわたしを馬鹿にしないように!」
「は、はい……」
「だめよ、チビ子ちゃん、それじゃ逆効果よ。この人被虐趣味があるみたいだから」
委員長がチビ子に何やらよからぬことを吹き込み始めた。




