第11話 トラネコさん
チュートリアルを終えたらチュートリアルが始まった。
「運営どれだけチュートリアル好きなのよ……」
今しがた合流した委員長がそうつぶやいた。さっさとゲーム本編で遊びたいらしく、金色のツインテールをゆらゆら揺らして落ち着かない。
委員長とはまだあまり親しくはない。このゲーム内でも先ほど会ったばかりだ。リアルでの黒髪と眼鏡の地味なイメージとのギャップが大きく、会った瞬間とても戸惑った。少し遅れたけれど、キャラクターの容姿について褒めておいた方が良いもしれない。
「なあ委員長」
「なに? それと委員長ってやめて」
「おっとごめん、トラネコさん。さっきは言いそびれたけど…………、そんな格好もかわいいな」
「いまさら褒めたって遅いわよ。会った瞬間固まってたくせに」
そう言って委員長はじと目で睨んでいる。
「違うんだ、俺地味な……、いや清楚な委員長が好きだったから……。で、でも、そういう格好もかわいいよ」
言葉を重ねるごとに委員長は俺ににじり寄ってくる。
「地味って言ったね! また委員長って言ったね! 褒め言葉も同じだね! やっぱり単なるお世辞だね!」
委員長は俺の両頬をつまみ引き伸ばしながらそう言った。
「痛い! 痛いです! ごめんなさい! 許して!」
いつもと違う積極的な委員長がそこにいた。そうやってじゃれ合っている状況が楽しかった。
何故俺と委員長が同じゲームをしているのかと言うと、話は三日前にさかのぼる。
高校に無事入学したものの友達ができずにいた俺は、いつものように登校し自分の席についた。前の席には成績が良いからという理由で委員長に選ばれた又旅ユカリが座っている。この委員長もクラスにうまくなじめないのか、一人でいることが多かった。こう言うのも変だが、俺と同じように一人でいる委員長を見ていると、なんとなく仲間のように思えた。
その日俺は先日購入したゲームの説明書を読んでいた。退屈な高校生活を紛らわせようと、新作のVRMMORPG『トリニティ』をはじめることにしたのだ。既にクローズドベータテストは終了しており、三日後にオープンベータテストが始まる。タイミングが良かったのと、ネットでの評判が高かったことからこれをやることに決めた。
委員長も何か読んでいる。ふとそれを見ると、見慣れたマークが目に入った。まさかと思い手元の資料を見る。同じものだ。次の休み時間も同じ資料を見ている。俺は授業時間中散々迷っていたが、声をかけることに決めた。
「──なあ委員長、あのさ、ちょっといいかな」
「何?」
「俺もこれやろうかと思ってたんだけどさ」
そう言って俺は説明書を見せる。それを見て委員長は動きを止めた。俺は言葉を継ぎ足す。
「えーと、さっき委員長が同じ本読んでるのたまたまみかけちゃってさ。良かったら一緒に遊んでくれないかな。俺、こういうのはじめてでよく分からないんだ」
委員長は固まったまま反応が無い。それをやんわりとした拒絶と俺は受け取った。
しばしの沈黙の後、俺はあきらめ、再度語りかける。
「突然誘ってごめん。委員長にも都合があるよな。忘れてくれ。本当にすまなかった」
俺は固まった空気をときほぐすように次の授業の用意をはじめた。委員長のまわりの空気はまだ固まったままのようだ。しばらく間を置いて、委員長はぽつりぽつりとつぶやいた。
「キャラ名」
「ん?」
「教えて」
これが俺と委員長の馴れ初めだ。交際しているわけでもないし、馴れ初めなんて言ったらまた怒られそうだけれども。
キャラ名を教えあって、一緒に遊ぼうと約束してからはあまり話ができなかった。学校での委員長は無口で、おしとやかで、ちょっとだけ近寄りがたくて、なんとなく話しかけづらかったのだ。
今日の委員長からはまるで逆の印象を受ける。ひょっとしたら別人じゃないのかと思ったが、委員長本人で間違いないらしい。
「もう委員長って言わないかー!?」
「言いません、言いませんから、許してー」
散々あやまってようやく機嫌をなおしてくれたのか、俺のほっぺたがやっと解放された。それに合わせたように、チュートリアルもやっと一段落ついたようだ。アナウンスが流れる。
『オープンベータ参加特典シルバーカードを配布します。このカードを他者に使用及び譲渡することはできません』




