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ねこじたトリニティ  作者: ニャンコ先生
第01章 猫舌カモミールティー
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第01話 子猫

 目が覚めると、僕はのどかな野原に寝ていた。かたわらに子猫も寝ていた。僕が動いたのに起こされたのか、やがてその子猫も起きた。なぜかやたら擦り寄ってくる。そっとなでてみる。

 綿毛のついた雑草があったので、それで子猫をじゃらしてみる。夢中になって飛びかかる子猫に思わず顔がほころぶ。

 子猫と遊びながらあたりを見回す。見覚えのない場所だ。野原の周りには木々が生い茂り、特に人工物も見当たらない。どこか自然公園だろうか。

 持ち物を確認する。いつもの普段着のほか、何も持っていないようだ。

 やがて林の向こうに人影が見えた。とりあえずそちらを目指して歩き出してみる。僕が歩き出すと子猫もついてきた。懐かれてしまったようだ。まわりに親猫の姿は見られない。どうしようか迷ったが、とりあえず保護することにした。僕は子猫をやさしく抱きかかえた。

 林を抜けると石畳の道が連なっていた。巨石があちこちに転がり、苔むすその様は、まるでどこか観光地にでも来たかのように錯覚する。林を抜ければここがどこか分かるかと思っていたが、ますます分からなくなってしまった。

 やがてその人影のもとにたどり着く。それは見慣れぬ服を着た女の子だった。休憩していたのか大きな岩を背に座っている。麦藁帽子をかぶり、何か農具らしきものを抱えていた。まとめた黒髪、あまり化粧もしていなさそうな日に焼けていない白い顔、そのときは純朴な娘さんという印象だった。

「こんにちは」と声をかける。

「すいません、この子の親猫知りませんか。それから僕、迷っちゃったみたいで、ここどこか教えていただけませんか」

 しかし言葉が通じなかった。女の子も身振り手振りでなにやら訴えかけてくるが分からない。やがて子猫が「ミャー」とないた。すると女の子は目を丸くして僕の手の中の子猫を覗き込む。やたら抱きたさそうにしているので、そっと手渡す。

 女の子は子猫をみつめ、「ニャーニャー」と言い、応じるように子猫も「ミャーミャー」言っている。まるで会話でもしているかのようだ。

 この後どうするか困っていると、女の子に腕をつかまれた。にっこりと笑いながら軽く腕を引かれて、歩くように促された。どこか人のいるところに連れて行ってくれるのだろうか。あるいは親猫の居場所なり飼い主なりを知っているのか。子猫は女の子が抱いたままだし、いつの間にか幸せそうに眠っている。まあいいかと、少しばかり不安になりながらも僕は歩き出した。


 石道が続く。自然にできたのかあるいは誰かが手を入れたのか、巨大なアーチや石塔が並ぶ。景観に驚嘆を覚えつつ、きょろきょろとあたりを見回しながらも女の子に並び歩いていく。やがて女の子は、石を積み上げた古風なたたずまいの家の前で歩みを止めた。

 扉を開け、家に入り、椅子をうながされたので座る。子猫を渡されたので預かると、女の子は部屋を出て行った。茶でも出してくれるのかと思い、おとなしく待っていることにした。

 しばらくすると、子猫用のベッドらしき小さなかごと、何やら薄いカードらしきものを持ってきた。かごには食事と水を入れた器も入っていた。促されるまま子猫をベッドにそっと移す。子猫は幸せそうに眠っている。

 それを見守った後、彼女はカードを胸にあてて入れるような仕草を僕に見せる。僕にもやってみろと渡されたのでやってみると、不思議なことにカードは体の中に吸い込まれていった。突然のことに驚き、説明を求めようとしたが言葉が通じない。彼女は笑ったままだ。いつの間にか用意してあったお茶を勧められる。彼女が落ち着いていることと、体に異常もなさそうなことから、お茶にも害はなさそうと判断してお茶を飲むことにした。

 やけに美味しいお茶だ。うっすらと甘く、清々しい香りとまろやかな苦味がのどを潤す。一つだけ難点をあげるとすれば、少しぬるいことくらいだが、おそらくこれが適温なのだろうし、何より猫舌の僕にはありがたい。


 お茶を飲み、少し落ち着いてきた頭でこれまでのことを考える。そういえばカードに何やら書かれていた。見たこともない字だった。あれは何だったんだろうとしばらく思案していると、彼女が話しかけてきた。

 するとその言葉が分かるようになっていた。

「どう? そろそろ喋れるようになったと思うけど」

 事態がよく飲み込めない。ひとまず浮かんだ疑問を投げかける。

「えーと、なぜ言葉が突然分かるようになったの? それより、あの子猫は君のかい?」

 それを聞き、僕が喋れるようになったのを確かめると、彼女は話を続けた。

「んー、どこから説明すればいいのかしら。とりあえず、あの子は迷子で、しばらくうちで育てることにしたわ」

 子猫の引き取り先がみつかって安心した。おそらくこの人なら大丈夫だろう。なぜかそう思えた。

「それから言葉が通じるようになった理由だけど、『スキルカード』って分かる?」

 彼女が解説してくれたところによると、僕が突然言葉を理解できるようになったのは、スキルカードというもののおかげだそうだ。そんな突拍子もないことがあるわけがないとはじめは思っていたのだが、実際にこうして言葉が分かるようになった以上、信じるしかない。

 カードにはいろいろ種類があるそうだ。剣術や魔法が使えるようになるものから、基礎的な体力が強化されたり、何かものを作るのが得意になったりするらしい。

 先ほど入れたカードは『マタータービ語』のカードで、1年ほどこの地で生活したくらいの話力が身につくとのこと。語彙もそれほど増えるわけではないが、普段生活するには十分なレベルであり、読み書きもできるようになるという。

「自己紹介がまだだったわね、私の名前はマールマール。マリーって呼んでね」

 マリーとはいわゆるファーストネームだろうか、

「えーと、僕は…………春人、春人夜色です。ハルトとでも呼んでください」

 その後もいろいろと話をきいた。ここがどこかとか、地球を知っているかとか、今はいつかとか。それで聞いたことを総合してまとめると次のようになる。


 どうやら僕は異世界に紛れ込んだらしい。



誤字脱字などを修正しました。

2012.03.03 猫


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