第8話
お待たせしました。
はぁ…。
ふぅ…。
智也はため息をつきながら、悶々としながらビールをグビグビと飲みつづけています。
その様子を見かねた主任が、
「ちょっと、何なの…!青木さん。分かったわよ。優子さんのことがそんなに気になるのなら、もう帰っていいわよ。」
智也はちょっと嬉しそうに、
「えっ、いいんですか!ありがとうございます。」
「傷つくなぁ。そんなに帰りたかったわけ?」
主任がちょっと傷ついたように答えます。
「あ、いや、そんなつもりでは…。申し訳ありません。」
智也は困ったように首をすくめて答えます。
主任はくすっと笑って、
「冗談よ、青木さん。でも今度、この埋め合わせはしてもらいますからね。」
「はい、もちろんです。主任、いつも感謝してますので、今度は僕がご馳走しますので期待してて下さい。」
智也は主任の手を握って、感謝するように答えます。
「まったく…。さっきと態度が違うんだから。帰りましょう。」
そういうと主任は席を立って会計を済ませて、お店を出ました。
主任とお店の前で別れた智也は、すぐに優子の携帯に電話をしました。
そのころ、優子と晃は歩いて駅に向かっていました。
「松本さん、さっきの男性はもしかして彼氏、だよね?」
晃が遠慮がちに優子に尋ねます。
優子は聞かれて、少しビクッとしながら、
「えっ、ええ。まあ、そうなの。」
晃は、それを聞いて申し訳なさそうに、
「そうなんだ…。あの、彼氏に誤解されちゃったかな?」
優子は少し考え込むようにしていましたが、やがて晃の方を向いて、
「それは…、分からないけど、遠藤さんのせいじゃないから気にしないで下さい。」
そう言うとため息をつきました。
「いや、でも気になるから。松本さん、よければ僕の方から彼氏に説明しようか?二人きりで逢っていたわけではないし…。」
晃が気を遣って、話します。
「そんな、気を遣わないで下さい。もともとうまくいってなかったし…。」
優子が顔を曇らせて、俯いて答えます。
「松本さん…?」
晃が困惑したように言います。
優子が少し暗い表情を吹き飛ばすように、無理に笑顔を作って、
「そ、そういうことだから気にしないで…。遠藤さん、気を遣ってくれたのにごめんなさい。」
そんな優子の様子を見た晃は、なんだか痛々しくなって、
「そんな…。松本さんがそう言うなら仕方ないけど、僕に出来ることはするよ。何でも言ってよ、同期じゃないか。」
優子はなんだか嬉しくなりましたが、遠慮がちに、
「で、でも、同期って言っても課も違うからそんなに親しくないし…。」
「親しくないかもしれないけど、僕はずっと松本さんと親しくなりたいと思っているし、力にもなりたいと思っているんだ。迷惑、かな?」
晃は真剣な表情で優子に話しかけます。
「遠藤さん…?どうして、そんなことを…。」
優子はそんなことを言われると思ってもなかったので戸惑いがちに尋ねます。
晃は少し恥ずかしそうに、
「あ…、それは彼氏がいる松本さんに言うべきことではないかもしれないけど、僕は松本さんのことがが好きなんだ。 だから…。」
「遠藤さん、私は…。」
さすがに優子は絶句してしまいました。
しばらくの沈黙ののち、晃が口を開きました。
「ごめん。困らせるつもりはないんだ…。」
そんなとき優子の携帯が突然鳴り響きました。
優子がハッとして、あわててかばんの中から携帯を取り出すと、智也からの着信でした。
携帯を持って電話に出ようとしながらも優子は、なかなか通話ボタンを押す勇気が出ませんでした。
そうしているうちに、コールが鳴りやみました。
「松本さん、僕に気を遣わなくてもいいんだよ。」
晃が申し訳なさそうに言います。
優子はビクッとしながらも、何かおびえたように、
「そんなつもりじゃないわ。ただ、智くんから別れて…。
優子が何か言いかけたとき、また智也からの着信がありました。
優子は携帯を握りしめてはいましたが、出る様子はありませんでした。
さすがに晃はまずいと思い、
「松本さん、出た方がいいよ。大丈夫だから!」
晃はそう言って優子を促します。
優子は不安そうな様子でしたが、晃にそう言われて仕方なく通話ボタンを押しました。
「もしもし、智くん。」
「優子!いま、どこ?」
電話口から智也の弾んだ声が聞こえてきました。
優子は少しホッとして、
「あ、いま、遠藤さんと駅に向かって歩いているとこなの。」
それを聞いた智也は不機嫌そうに、
「タクシーで帰らなかったのか?なんで遠藤とかいう奴と一緒にいるんだ!」
優子はそれを聞いておびえたように、
「あの、智くん。まだ、電車があるからと思って…。」
「それにしても、二人で駅に行くことはないじゃないか!優子、聞くけど、遠藤とかいう奴となんで一緒にいたんだ?」
イライラしながら智也が優子を問い詰めます。
「それは今日、休みだったから後輩とコンサートに行ったのよ。その帰りに一緒に夕食を食べていて…。」
優子はビクビクしながら話します。
「コンサートに行くなんて、聞いてないぞ。遠藤とかいう奴は後輩なのか!そうは見えなかったぞ。」
智也はイラついて叫びます。
「言わなかったのは悪かったわ。ごめんなさい。」
優子は恐る恐る答えました。
その様子を見た隣にいた晃が気の毒に思って、優子の手から携帯を取りました。
「あっ、遠藤さん、何を…。」
優子は突然で驚きましたが、晃がニッコリ笑って、
「いいから、僕に任せて。」
晃はそう言うと智也と話し始めました。
読んでいただいてありがとうございます。
もうあと何話で終わりかなと思います。
もう少しお付き合いいただければ嬉しいです。