第6話
「優子…。」
トイレから席に戻ろうとした智也は、我が目を疑いました。
自分の彼女である優子が見知らぬ男性に肩を抱かれて店を出ようとしているからです。
すっかり酔ってしまっていた優子は、おぼろげな様子で智也を見ています。
そばにいた晃が目の前に現れた智也に不審そうな感じで、
「あの、もしかして、松本さんの知り合いですか?」
智也はそれを聞いて少しムッとしながら、
「ああ…、まぁそうだ。ところで、あなたは優子となぜここに?」
「ああ、僕は松本さんの同僚の遠藤と言います。はじめまして、食事をしてたら彼女がなんか酔ってしまって…。」
晃が少し微笑んで答えます。
そして、優子の肩を優しく叩いて、
「松本さん、大丈夫です?なんか知り合いの人がいるようですよ。」
その優しい声に反応した優子が目をこすると、あんなに逢いたかった智也が不機嫌そうな表情で目の前にいます。
これは夢かしら…。
いや、まさか…。
「松本さん?」
晃の声にハッと我に返った優子がこれは現実なの?
とふと思いました。
酔って頬が少し赤くなった優子でしたが、震える声で、
「もしかして、智くん?」
「もしかしなくても智也だ。何やってるんだ?」
不機嫌さ丸出しで智也が優子に尋ねます。
その場の空気が一瞬にして、凍りつきました。
少しの沈黙のあと、優子が遠慮がちに、
「もしかして智くん、怒ってる?」
智也が眉間にシワを寄せながらも、ふう~と深呼吸をして、
「いいから、こっちにこいよ。」
そう言って優子の腕をぐいっと引っ張ります。
その乱暴な様子に晃が驚いて、
「いきなり、何をするんですか?」
そのひょうしに優子が晃のそばを離れて行きました。
優子は何がなんだかわからない表情でしたが、
「遠藤さん、私、大丈夫だから。」
「いや、しかし、知り合いだからって、いきなりこんなことをするなんて…。」
晃が憤慨して答えます。
その様子に智也は、唇を噛み締めて、
「え、遠藤さんには関係ないだろ!」
「すいません、お客さん。お店の中で揉め事はご遠慮願います。」
見かねた店員が声をかけてきました。
「すみません。失礼しました。松本さん、大丈夫?帰りましょう。」
晃は店員にそう言って謝って、優子の手を取ってお店を出ていこうとしました。
「ちょっと待て!優子は俺が送る。」
智也がまた晃に言い募ります。
そんなとき騒ぎに気づいた主任がやってきて、
「何やってるの、青木さん?」
「あ、主任…。すみません、ちょっと事情がありまして。」
智也が気まずそうに答えます。
「事情が?あら、もしかして優子さんなの?」
すっかり酔いの覚めた主任が優子に気づきました。
「ええ、そうなんです。優子がすっかり酔ってるみたいで、送ってやりたくて…。」
勢いづいた智也が主任に話しかけます。
主任は眉をひそめて、
「ちょっと待ってくれる、青木さん。いま、私と飲んでいるでしょ?」
「あ…、そっ、そうでしたね…。」
智也は頭をかきながら気まずそうに答えました。