第3話
それを聞いた智也は不満げに、
「僕に、話せないようなことなの?」
優子は少し気まずい表情で、
「そういうわけじゃないけど、会社の後輩からで、たいしたことじゃないから…。」
「そうなんだ…。」
智也はそう言うと、黙ってデザートを食べ始めました。
優子も智也の様子を見て、
少しまずかったかなと、
思いましたが、無言でデザートを食べ始めました。
そして、デザートを食べ終わると智也は立ち上がり、
「じゃあ、もう出ようか?」
「そうだね。」
優子はそう言うと立ち上がり、コートに手を伸ばしました。
智也は優子のコートを先に手にして、いつものようにコートを優子に羽織らせました。
「ありがとう。」
優子は少しホッとして、智也に礼を言います。
「優子、悪いけど先に出ててくれる?主任に挨拶してから出るから。」
智也は少し声をひそめて優子に言いました。
「うん、分かった。じゃあ、あとで…。」
優子は少し寂しく感じましたが、一人で先にお店を出ました。
お店の前で優子はため息をつきながら、一人、智也を待ちわびていました。
平日の夜でしたが、時間帯のせいか何人かで歩く人やカップルで歩く人たちばかりが目につきました。
優子は、
今日はデートのはずなのに、お店を一人で出されるなんて…。
なんだか物悲しくなってくるのでした。
そんなことを思っていると、智也がお店から出てきました。
優子は智也の姿を見ると、ホッと安心して笑顔になりました。
「優子、ごめん。駅まで一緒に帰ろう。」
智也はそう言うと、そっと優子の手を握りました。
「うん、帰ろう。」
優子がそう言うと、二人は駅まで歩き始めました。
「優子、ごめんね。しばらくこんなだから。」
智也はすまなそうに優子に話しかけます。
「ううん。私はだいじょうぶだから。智くんこそ、あまり無理しないでね。」
優子は少し寂しかったのですが、智也を元気づけるように言いました。
「ありがと、優子。じゃあ、駅に着いたから、また…。」
智也は、優子は自分と逢えなくて寂しくないのだろうかと複雑な心境でしたが、駅に着いてしまったのでそのまま別れようとしました。
「じゃあ、おやすみなさい。」
優子はそう言うと智也の手を離そうとしました。
智也はその手をなぜか離したくなくて、ぐっと手に力をこめて優子の体を引き寄せると、優子の頬にキスをしました。
優子は駅の改札口前ということもあって恥ずかしくなって顔を赤くして、
「と、智くん、こんなところで…」
智也はちょっと照れた表情で、
「ごめん。優子、おやすみ。」
そう言うと軽く手を振って、改札口に入って行きました。
その場に一人残された優子は、まわりをキョロキョロすると、恥ずかしさのあまり、ダッシュで改札口に入って行きました。
電車に乗り込んだ優子は落ち着いたのか、
まったく智くんは、恥ずかしい(〃д〃)
学生時代と変わってないんだから…。
智くんも仕事頑張ってるから、しならく逢えなくても仕方ないか…。
私は就職したころ、こんな気持ちだったんだろうしな。
でも、あの山口主任のことがきになるなぁ・
きれいで仕事も出来て…、私にはかなわないや…。
そして、優子は智也の仕事の邪魔をしてはいけないと思い、智也にしばらく連絡をしなくなりました。智也も忙しいのか、連絡がありませんでした。
優子は何度も携帯電話を握りしめて、連絡をしようと思いましたが、そのたびにため息をついて、がまんをしました。
きっと智也も、優子が先に就職したばかりの頃はこんな気持ちだったんだろうと思ったからでした。
そんな日が続いたある日、会社の後輩とコンサートに行く日になりました。
「先輩、ここですよ~!」
二つ年下の後輩の坂本さつきがコンサート会場の前で待っていました。
「さつきちゃん、待った?」
優子がさつきのもとに駆け寄りました。
「いいえ、いま来たとこですよ。あ、連れがもう一人いるんで、先輩ちょっと待ってくださいね~。」
さつきが笑顔で話しかけます。
「そうなの。さつきちゃんのお友達?」
優子が微笑んで尋ねます。
「えっと、同じ会社の人ですよ。先輩もたぶん知ってるとおもうんだけど…。」
さつきが意味深そうに答えます。
「知ってる人なの?誰かな…。」
優子は同僚の女性を何人か思い浮かべていると、後ろから声が聞こえてきました。
「坂本さん、松本さん、お待たせ。」
その声に気づいた優子が振り向くと、同期入社の遠藤 晃が立っていました。
優子はちょっと驚いて、
「遠藤さん…?、こんにちは。さつきちゃん、連れって遠藤さんだったの?」
「そうなんですよ。じゃあ、もう時間なんで行きましょうか?」
さつきはがそう言うので、三人はコンサート会場に入っていきました。
その途中、さつきはにっこり笑って。晃に向かって小さくVサインをしました。
優子はさつきの様子がちょっと気になりましたが、
まあコンサートだから気分がハイになってるのかしらと、
あまり気にとめませんでした。
席についたとき、さつきが遠慮がちに小さな声で優子にささやきました。
「ごめんなさい、先輩。実は、遠藤さんがこのチケットとってくれたんです。」
「えっ、そうだったの?でも、どうして…。」
優子が疑問に思って尋ねます。
「そ、それは遠藤さんに聞いて下さい。あ、始まりますよ。」
さつきは少し申し訳なさそうに言いました。
「う、うん…。」
優子が少し戸惑ったように呟きました。
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