第10話
夜遅いせいか、店内には人もまばらでした。
優子と智也は気まずい雰囲気で静かにコーヒーを飲んでいました。
「そうだったの…。プロジェクトを任されてたの。」
優子が遠慮がちに言いました。
「ああ、だからずっと仕事が忙しかったんだ。」
智也がぶっきらぼうにに言いました。
「智くん、あの…。でも、どうして言ってくれなかったの?」
優子が何か言いたそうに話しかけました。
「そ、それは、ちょっとわけがあって…。」
智也が気まずそうに言いました。
「わけって、何?私には話せないことなの…?」
優子が疑わしそうに尋ねます。
「いや、その…。成功してから言いたかったから。」
智也はそう言うと横を向いてしまいました。
優子はそんな智也を見て少し寂しそうに、
「そうなんだ…。」
と呟きました。
「あのう…、遅くなったから主任と夕食を食べてたのよね。二人で…?」
優子が智也を窺うように尋ねます。
「ああ…。仕事が遅くなって、同僚と食べに行くぐらいのことはあるだろ、優子たちも。」
智也は不機嫌そうに答えました。
「そ、それはそうかも知れないけど、二人で行くんだね…。」
優子は上目遣いで、何か言いたそうな表情で智也に言いました。
「なんだよ。もしかして、嫉妬してるのか?」
智也がふと気づいたように尋ねます。
優子は図星を刺されて、うっとなってしまいました。
「え、いや…。そういうわけじゃないけど、仲良さそうだったから…。その…」
「な、なんだよ。なんか言いたそうな顔して…。はっきり言ってみろよ。」
智也は不機嫌そうに答えます。
優子は、
わかってるくせにとぼけて…。
と思って、上目遣いに智也を睨みつけました。
「だ、だから…。あの、主任さんと智くんが一緒にいたからちょっと心配になったの!」
優子はそう言うとプイッと下を向いてしまいました。
それを聞いた智也はプッと吹き出してしまいました。
「優子、誤解すんなよ。主任が俺なんか相手にするわけないだろ?」
優子は唇を噛み締めて、
「そ、そんなことわからないじゃない…。」
か細い声で言いました。
「分かるよ。だって、主任はもうすぐ結婚するんだから、ね。」
智也はふっと微笑んで言いました。
その言葉を聞いたとき、優子の目は点になってしまいました。
「えっ…。そ、そっうだったの?」
「そうだよ。だから俺なんか相手にするわけないって、言ったろ。」
智也はニヤリと笑って言います。
優子はなんだか力が抜けてしまって、ふにゃとなってしまいました。
「なんだ…。心配して、損しちゃった。」
「でも、ちょっと俺嬉しいよ。嫉妬してくれたんだよね?」
智也が優子の顔を覗き込みます。
「あ、もう、そうですよ~。もう言わないでよ。」
優子は恥ずかしそうに答えます。
智也はそれを聞いてホッとした表情で、
「優子、そっち行ってもいい?」
「え、あ、うん。」
優子が戸惑ったように答えます。
智也は向かい合って座っていた席を立って、優子の側にやって来て、優子はそっと抱き寄せました。
「智くん?」
「でも、嫉妬してるってことはまだ俺のこと好きだよね?」
優子は智也の腕の中で、智也の顔を覗き込みながら、
「うん…。でもどうしてそんなこと言うの?」
「だってさ、遠藤さんだっけ?あんな人が現れたら年下の俺なんか、優子はまだ好きなのかなと思ったんだ。」
智也は切なそうな表情で優子に話しかけます。
「智くん、遠藤さんはただの同僚よ。たまたま今日は一緒にコンサートに行ったけど、部署も違うし…。」
優子は首をかしげて智也に答えます。
「気づいてないんだ、優子は?」
智也がぽつりと優子に尋ねます。
「あ、それは…。怒らないで聞いてくれる智くん?」
そう言うと優子は智也の腕からそっと抜け出しました。
「優子、どうしたんだ。もしかして…。」
智也は怪訝そうな顔で優子に尋ねました。
「うん。あの、さっき、遠藤さんに好きだって言われたの。」
それを聞いた智也の頭の中はすっかりショートしてしまいました。
震える声で思わず優子に尋ねました。「それで優子はなんて答えたの?」
「それが、その、答えてないの…。そのとき、智くんから電話がかかってきたから。」
優子は申し訳なさそうに智也に答えます。
「じゃあ、それなのに、遠藤さんは二人にしてくれたのか…。」
智也はがっくり肩を落としました。
「智くん…。」
優子は心配そうに話しかけました。
はぁ~。
智也は思わずため息をついて、
「かなわないなぁ…。告白したっていうのに、俺と優子を二人にして、さ…。」
「智くん…。私が好きなのは智くんだけだからね。」
優子は顔を上げて、智也の方を向いて恥ずかしそうに言いました。
智也はそれを聞いて顔をほころばせて、
「ありがとう、優子。一番聞きたかった言葉だよ。」
智也は優子の手をそっと握り、
「優子、もう遅いからもう出ようか?」
「うん…。そうだね。」
優子はそう言うと立ち上がり、コートを探しますと側の椅子にかけて置いたコートが見当たりません。
どこにいったのかしらと思っていると、コートは智也の手の中にありました。
「優子、さ、 おいで…。」
智也が手を広げてコートをかけてくれました。
優子はいつものように智也にコートをかけてもらっただけなのに、嬉しくて涙が出そうになりました。
「優子、どうした?」
優子の様子がおかしいのに気づいた智也が話しかけてきました。
「ううん。智くん、いつもありがとうね。」
優子が笑顔で智也に言いました。
「なんだよ。てれるじゃないか…。」
智也がはにかんで答えます。
「出ようか、優子。」
そう言って智也は優子の手をにぎりしめました。
優子と智也はお互いの顔を見て微笑んで、お店を出ました。
お店を出て二人が手を繋いで歩きはじめて、優子が前を向いたまま智也に話しかけました。
「智くん、心配しないでね。明日、遠藤さんにちゃんと言うから。気持ちは嬉しいけど、私には智くんがいるからって。」
「優子…、それでいいのか?」
智也が上目遣いに優子の方を向いて尋ねます。
優子は驚いて智也の方を向いて、
「智くんは、私と別れたいの…?」
智也は悲しそうな顔をして、
「違う。別れたくないよ。だけど、優子にとって、年下で頼りない俺より遠藤さんみたいな人の方がいいのかなって…。」
「智くん、何言ってんの?私の好きなのは智くんだって言ったばかりじゃない…。」
優子は少し怒ったように答えます。
「ごめん…。だって、最近の優子は俺を避けているような気がしたから…。」
智也は苦しそうに言いました。
「そんな…。それは智くんが、仕事が忙しそうだったから邪魔したくなくて、連絡しなかっただけだよ。」
優子も悲しそうに答えます。
「え…、そうだったんだ。なんだ、俺も心配して損しちゃったな。」
智也が力が抜けたように答えます。
「智くんも嫉妬してたの?」
優子が智也の顔を伺うように尋ねます。
智也は優子の顔を睨みつけて、
「ああ、そうだよ。優子も嫉妬したんだからお互いさまだよ、ね?」
二人はお互いを顔を見合わせて笑ってしまいました。
「私たち、何してたのかしらね。」
優子は智也の手を握りしめたまま、尋ねます。
「そうだな…。でも、優子、これから幸せにするからね。」
智也が優子の方を向いて言いました。
「私、いま、智くんと一緒にいられて幸せだよ?」
優子は智也が何を言ってるのかよく分からず答えました。
「そうじゃなくて、ずっと一緒にいようって言う意味だよ。今度、改めて言うから。」
智也は鈍い優子に、いらつきながらもはにかんで優子に言いました。
さすがに鈍い優子もそれに気がついたのか、嬉しそうに、
「智くん、もしかしてそれって、プロポーズってこと?」
「ああ、改めて言うって言ったろ。さあ、もう遅いから帰ろう。」
智也は恥ずかしいのか、あわててタクシーをつかまえて、優子を乗せました。
「じゃあ優子、気をつけて帰れよ。」
智也はそう言うと、恥ずかしいのか駅までダッシュして行きました。
智くんたら、かわいいだから。
どんなプロポーズしてくれるのか、楽しみだな~。
そんなことを思いながら優子は家路に着きました。
家に帰ると優子は智也にメールをしました。
いま家に帰りました。今日はいろいろありがとう。
どんなプロポーズしてくれるか、楽しみにしてるね、智くん
それを見た智也は家に無事帰ったんだなと安心したのと同時にどんなプロポーズしようかなと思わずニヤついてしまいました。
お読みいただいてありがとうございました!
続きを書ければと思って、長いこと検索除外にしてましたがしばらく書けそうにないのでいったん完結とさせていただきます。
またその後のことなど書けたら追加していきたいと思っております。
ありがとうございましたm(__)m