第1話
「まだかなぁ…。」
約束の時間から10分過ぎてるのに…。
今日も遅れるのかな。
はぁ…。
私は松本優子、25歳。商社に勤めるOLです。
今日は学生時代から付き合っている彼との久しぶりのデートなのだけど、彼はまだやってきません。
連絡ないのかな…。
優子はバックの中をゴソゴソと探って携帯電話を取り出しました。
携帯を開くと、着信が2件ありました。
彼からでした。
気がつかなかった…。
優子はすぐに彼に電話しましたが、コールはしますが電話には出てくれません。
どうしよう…。
また時間おいてから電話しよう。
優子は顔を上げると近くに本屋が目に入ったので、そこに入って時間をつぶすことにしました。
目についた雑誌をパラパラとめくって読んでいると、ふと腕時計を見ると約束の時間から30分も過ぎていました。。
メールで連絡しておこう。待ち合わせ場所にいないものね。
『お疲れさま。遅くなりそう?
いま近くの本屋で待っています。
優子』
これでよし、と。
ふぅ…。
ため息をついて、携帯電話をバックにしまおうとしたときに着信音が聞こえてきました。
電話に出てみると、待ちわびていた彼からでした。
「ごめん、優子。思ったより仕事が長引いて…。」
申し訳なさそうな彼の声が聞こえてきました。
優子はやっぱりと思いながら、落胆した声は聞かせたくなかったのでつとめて明るい声で、
「ううん、大丈夫。遅くなりそう?」
「いや、そんなには…。でも、あと30分くらいかかりそうなんだ。待っててくれる?」
窺うように彼が尋ねます。
「あ、うん…。分かった。頑張ってね。」
優子は、がっかりした声を悟られないように、さりげなく答えました。
「ありがとう。じゃあ後で。」
「気をつけ…ツーツー
優子が言いかけたとき、すでに電話は切られたあとでした。
仕方ないか。
仕事だもんね。
私が先に就職したとき、ずっとこんな思いしてたんだろうなぁ…。
あと30分ぐらいなら待てるよね。
あ、この本、付録にバックがついてるやつだ。ほとんど本が付録みたいだけど。
どれにしようかな、黒も使いやすそうだけど、花柄が可愛くていいなぁ…。
よし、これにしよう!
その本を手に取ると誰かが声をかけてきました。
「それ、買うの…?」
優子が思わず顔を上げると、彼がそこにいました。
彼は、青木智也、23歳。まだ入社して2年目ですが、食品会社の営業です。
「うん。あ、智くん 、来たんだ…。」
優子が戸惑ったように答えます。
「ごめん、遅くなって…。買うんなら、遅くなったお詫びに買ってあげるよ。」
智也が優子が手にした本を受け取ろうとしました。
優子は、ちょっと困った顔をして、
「ううん。いいの、私のだから。気持ちだけもらうわ。」
それを聞いた智也は悲しそうな顔をして、
「そう、遠慮しなくても…。」
仕方なさそうに差し出した手をひっこめました。
「じゃあ、これ会計してくるから。」
優子はつとめて明るくして手にした本を持ってレジに向かいました。
やがて、レジをすませた優子は戻ってきました。
「ごめんね。お待たせ。」
「いや、大丈夫だから。遅くなったけど、ごはん食べに行こうか?」
智也はそう言って、優子の手を握ってきました。
優子はちょっと微笑んで、
「うん。ねぇ、今日はどこに行くの?」
「前に会社の上司に連れていってもらったとこなんだけど、美味しい焼肉屋さんがあるんだ。」
「へえ、そうなんだ…。」
優子は、智也に私とは違う世界が出来たような気がしてちょっと寂しくなり、気のない返事をしました。
優子の様子が気になった智也は、
「焼肉じゃない方が良かった?でも、美味しいから、優子もきっと気に入るよ。」
「ううん。そういうつもりじゃ…。いつもの店かと思ってたから。」
優子は戸惑ったように答えました。
「着いたよ。ここだよ。さあ、入ろう。」
話している間に目的の焼肉屋に着きました。