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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

無駄です

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/08/26

手慰み第数弾であります。

お楽しみいただけたら、幸いであります。

 ことの発端は、昼休憩間際に乗り込んできた、三人の男だった。

 会長代理は営業に出ており、夫人が昼食の差し入れを副会長に預けるため、事務所の方に来ていた。

 丁度、会長夫妻は買い物がてらの息抜きに出ていて、夫人の腕には、生後まもない弟がいた。

 唐突に、事務所の出入り口の扉が開き、男の一人が声高に言ったのだ。

「矢張り、ここにいたかっ。聖女っ」

「我が国が大変な時に、姿を消すとは、何事かっ」 

 会長代理の夫人とその弟が、揃って目をまん丸にする側で、副会長が溜息を吐く。

「どちら様でしょうか?」

 そして、優しく尋ねるその頭の中で、この三人が入って来た世界の資料を並べた。

 意外に、聖女と言う職、若くは役目を担う者を有する世界は多い。

 その中で、この三人がやって来た世界は、比較的緩い。

 何せ大昔、世界を救った聖女を代々崇め、王族の数代ごとにその血を招き入れるに留まっているのだ。

 最も、招き入れる代の王子が、難色を示したがために、今代聖女となるはずだった者は食いっぱぐれて行き倒れ寸前で、その世界の商会の従業員に拾われた。

 飲食店勤務のその従業員がここに連れて来て、事情を聞いた副会長が、仕事を斡旋したのが、確かひと月前。

 その時の面談で、聖女とされた女とも顔合わせしたが……

 目を丸くしたままの会長の息女を一瞥し、どう話を治めるか考える前に、三人の内、比較的冷静そうな男が、目を窄めた。

「殿下」

「何だ?」

「違います。この女、聖女ではありません」

「何っ?」

 お、気づいた。

 副会長は、見直したのだが、それは一瞬だった。

 でんかと呼ばれた、細身の長身の若い男は、会長の息女を頭から足元までくまなく見て、再び顔を見つめる。

「本当だ。あの女じゃない。あいつは、こんなにいい女じゃないっ」

「……」

 姉弟の丸かった目が、今度は細まった。

 二人が何を考えているのか明白だったが、それに気づかず、でんかは何かを察したように、顔を輝かせた。

「そうかっ。矢張りあの聖女は、偽者だったんだなっ。父上まで騙すとは、とんでもない悪女だっ。おいっ」

 突然、こちらに向き直ったでんかは、副会長を見下ろして、言い放った。

「ここに、くすんだ髪色の醜女がいるはずだ。連れてこい」

 そして、再び息女に向き直り、そっと膝をつく。

「探しておりました、聖女さま。どうか私とともに、国を守って下さい」

 他の二人の男も膝をついて頭を下げる様を、会長息女子息は、目を細めたまま見下ろした。

 口を開こうとした弟の背を、姉が宥めるように叩き、代わりに口を開こうとしたが、その前に優しい声が静かに言った。

「あなた方の脳みそは、豆腐ですか?」

「?!」

 副会長を振り返った姉弟は、言い得て妙だと目で納得していたが、でんかたちには通じなかったようだ。

 だが、悪口だとは察した。

「っ、貴様っ、不敬だぞっ」

 三人の内、一番大柄な男が、副会長に詰め寄るが、その迫力に臆す事なく、変わらぬ優しい声音で返す。

「不敬を訴える前に、常識を持った行動を、切に願います」

 大男を藍色の瞳で見返し、やんわりと続けた。

「我が商会は、完全予約制です。飛び込みの一見様は、受け付けておりません。どうか、お引き取り下さい」

「っ」

 大男が、何かを感じたのか、後退りした。

 が、でんかは引かない。

 後退りした側近を押し除け、腰の剣に手を掛けた。

「それから、この室内での武器の使用は、一切控えていただいております」

 でんかの剣を抜く手を片手で抑えながら、副会長は微笑む。

「き、貴様っ。聖女を独り占めする気かっ」

「……本当に、シワがないようで、ご愁傷様です」

 舌打ちしたい気分を、優しい笑顔で包みながら、でんかに悔やみの言葉を投げる。

 他の二人も、空気を張り詰めてしまい、会長子息が姉の腕の中で身を縮めた。

 これ以上は赤子の教育上、よろしくない。

 副会長は判断し、決断した。

「分かりました。表に出て、話を伺いましょう」

 実力行使で、やり込められる。

 でんかとその側近は、即座に判断し、嬉々として乗ったが……。

「本当に、ご愁傷様、になるな」

 会長息女が、こっそり呟いた。


 王族は数代に一度、聖女の血を入れる。

 それは、昔からの習わしだが、聖女を娶る事が王位継承の条件ではない。

 聖女を娶った王族は、王を支える存在として爵位を貰い、子孫を残す。

 それ以外の王の子は、王太子になる者を除き、臣下に下る。

 第三王子であるでんかは、生まれた頃から婚約者だった聖女を拒み、婚約を一方的に破棄し、城から追い出したが、その規約を知らなかった。

「そんな大事な事を、奴は私に教えなかった。教えてくれていたら、我慢したのにっ」 

 事情を簡単に話し嘆く殿下に、副会長は静かに切り出した。

「成程、では、その聖女どののお名前を、いただけますか? ついでに、容姿も。その際は、抽象的な表現は、お控え下さい」

「はっ、醜女を醜女と言って、何が悪い?」

 ついでに出された条件を鼻で笑い、吐き捨てると、小柄な男はやんわりと答えた。

「我が商会には、その条件の従業員は、存在致しませんので」

「っ、そんなはずはないっ。父上から、ここで働いているとっ」

「そうですか。それは可笑しいですね」

 副会長はそう言いながらおもむろに、右手を無造作に振った。

 相対していたでんかの背後で、悲鳴が上がる。

 振り返ると、魔術師で侯爵令息の側近が、利き手を抑えて泣き喚いている。

「っ? どうした?」

 涙目の側近が、小柄な男を睨んだ。

「あいつが、石をっ」

「何っ。貴様、話の途中で……」

「その、お話の途中に、何やら仕掛けられては、対処するしか、ないでしょうに」

 責める言葉は、遮った優しい声の言葉で途切れ、そのまま萎んだ。

「先程から、こちらを縛る魔法らしきものを、仕掛けておられましたね? 無駄なので、やめていただきたい」

「お前っ、何で平気なんだよっ」

 涙声の男に眉を寄せつつも、副会長は正直に答えた。

「対策済みなので」

 言いながら、右手のひらを広げると、そこには親指大の小石があった。

「先程投げた石と擦らせて、音で術を乱しておりました」

「はあっ?」

「っ、殿下、奴の動きを封じるのを諦めて、攻撃に転じようとしたら、石がっ」

 唖然として、事務所の外に集まって遠巻きにする野次馬に、距離の規制を始めた男を見た。

「貴様、魔術師か?」

「嗜み程度に、学んでおります」

 しれっとした答えに、野次が飛んだ。

「旦那、束縛の魔法を封じる人は、嗜んだ程度には、取られねえよ」

「余計な事、言わなくていいから、もう少し下がれ。武器持ちが二人いる。近いと巻き添え食うぞ」

「へいへい」

 何だか、野次馬も野次馬し慣れている感がある。

 それに、妙に期待のこもった顔で、でんかたちを見物していた。

「今日の奴は、何分もつかな?」

「既に、魔力持ちは封じたからな。勝負は見えてんだろ。5分持てば、いい方だ」

 余りに大きなヒソヒソ声に、騎士団長の二男がキレた。

「そんなヒョロヒョロの体で、オレの攻撃に耐えられるわけが、ないだろうがっっ」

 おもむろに剣を抜き、小柄な体に力づくで叩きつける。

 副会長と同じ位の大剣での攻撃だが、野次馬の反応は薄かった。

 攻撃対象の男も、不思議そうに首を傾げた。

「耐える必要性を、感じないんですが……」

 スラックスのベルト通しに差していた、愛用の警棒を標的に定めながら言い、副会長は大男を見下ろした。

 地面に振り下ろした大剣を手にした男の、背中の上だ。

 小柄ではあるが、男の体重で前のめりになるその頭を、潰さない程度に警棒で叩きながら、言い切った。

「そんな攻撃、まともに受けなければならない理由は、ないですから」


 戸籍替えの調整期間を利用して、異世界にやって来たのに、こちらでの商売にのめり込んでしまい、すっかり板についた商会の面々は、俗に言う人外だが、商会の副会長となった男は、その中でも異色だった。

 まず、古参の従業員たちより若く、そろそろ百歳になるかならないかの年齢だ。

 生まれながらの人外で、そのせいで各師匠たちの修行は遠慮ない工程で実行されたが、殆ど苦労した様子は見受けられないまま、全てを吸収してしまった。

 商会の業務に携わるに当たり、今まで手をつけなかった分野の専門家にも教えを乞い、時間がないので触りだけを浚った結果、何処の担当の代理も熟せる副会長が誕生した。

 各世界での商会利用者や、国の民の覚えもよく、今回のような修羅場も、一つの楽しみとして定着している。

 でんかはあの後、気絶した大男を置いて、もう一人の側近と逃げ出したが、野次馬たちに捕まり、飲み代を奢らされて、無一文で城に送り返された。

 平民が没落したとは言え、元王子にしていい所業ではないが、商会の根回しは滞りなく、王族を含む貴族を取り込んでいるので、全く問題ないのだった。

投稿頻度が、かなり少なくなってしまいました。

こんな投稿者の作品を、見捨てず読んでくださる方々に、感謝であります。

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