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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第一章 神話となる美と醜の姉妹
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父は無くても子は出来る


 妹は聖母マリア様のように処女懐胎いたしました……醜いくせに生意気だ、そんな声が聞こえた気がした。


 そんなこと言ったらマリア様はブスだった可能性もあるじゃないか。えっ? 聖母マリア様は美女に決まっている? 


 拝むのなら綺麗な方が良いしお説教なら若いイケメン坊主の方が良い?


 ブスだったら踏み絵が踏まれるから成立しない? 踏みにじられる? だったら信徒が踏んだから鼻が潰れてブサイクになったでも良いのでは。


 信徒を救うために聖母マリア様の顔は潰れ醜くなりました。


 絶対にイヤな解釈か、なんとも強烈なルッキズムだねどうも。マリア様が鉄面皮ならいくら踏まれても綺麗なままだろう。


 ちなみに2023年に処女懐胎したワニが確認されたので聖母マリア様はワニだった可能性は否定できない。


 それはともかく妹が単為生殖できたかはひとまず謎としておく。一般常識的にあんなに醜い女に男が発情するのか? 妹


 ごもっともである。世間には不思議なことがある。


 こんな女でも夫がいるのか! とあなたは驚いたことはないだろうか? 


 逆もまた然りである。こんな男でも妻がいるのか! と独身を拗らせそうな事案にはよく遭遇する。そうであるとはいえ妹の件は別格だ。


 なにせいつのまにか息子が出来ていたのだからだ。


 しかもそれは母親と瓜二つでありそしてこの子は最初に登場したあのサビと呼ばれる男となる。


 口の悪い近所の者たちは噂した。細胞分裂したんじゃないのか? と。


 人間扱いしていない。それもそうだろう、繰り返すがその子もまた人には見えないほどに母親似の醜い男の子であった。


 街中で夫なる男の捜査が行われたが誰一人名乗り出なかった。


 名乗り出られないであろう。いくらなんでもあの女の婿になりたがる男はいなかった。被害者も探したで出なかったので妹が襲ったという事件も無かったこととなる。


 そもそも相手なんていたのか? とみんながみんなはやはりそう思った。


 突然生まれたようなそんな息子であったがどうして妹は作ったのだろう? 作ったという表現だがこの適切であろう。


 何故なら相手が不明で経緯が省かれておりいきなり誕生したのだ。


 夜中に忍び込んだ図工室にて一晩で拵えたといったら皆が納得したはずだ。誰も出産シーンも見ていないのだから仕方がない。


 いつの間にか生まれいつの間にか存在していた代物。現在5歳ほど、驚くほど大人しい男の子であるのがまた不気味さを醸し出している。


 そのうえ作った理由だが妹は常にあることについて気に病んでいた。


 姉を護る妹というのは少しずれているな、と。子供のころからそう思っていた。


 自分の身体が十分に大きくて問題はなかったが、これがもしもそうでは無かったら非力で守ることは困難だっただろう。


 やはり先に生まれたものが後に生まれたものの護衛についた方が絶対に良い。


 姉はこのさき王の子を産む予定なのだ。


 姉の美貌に加えて王の血も入ったとしたら悪い連中に攫われる確率が単純に考えても二倍となる。


 自分が護ろうにも人が増えるのなら守備率が最悪半減以下となるかもしれない。


 となると信頼できるものを捜さなくては……もっといいのは自分がもう一人増えればいい……つまりはそういうことだ。


 こんなことを考えた妹は先んじて自分そっくりな男の子を生みました。まるで洞窟の中で自分そっくりに彫像したかのような息子誕生!


 この姉の子を護るために自分の子を産むという動機ならば、男のことは誰でもいいしなんなら単為生殖でもよかろう。


 妹は暗い情熱をもつ女である。


 姉にこの世の頂点に座ってもらいたい一心で己の幸福をすべてそこに注ぎ込んでいる。


 姉も姉で愛する妹のためにそうなるように全面協力する。


 そんなことをしなくていいのよ、なんてことは言わない。あなたの頑張りは全て受け止める。


 あなたがそうしたいのならそうしていいのよ、という態度、強靭かつ深い愛である。


 姉は妹が何故そうしたのかは問わない。けれど自分のために命を懸けてくれているということは知っている。


 ならばそれでいいのである。自我を捨て私欲を去り信頼するものの大義に身を委ねる。


 自分とはそういう運命なのだと。


 己の人生に特に希望のないものが成し得ることのひとつに他者の御輿になるという選択肢がある。


 求められていることを受け入れる。姉は自分の美は自分で得たものではない。


 生まれた時に得ていたものである。これは莫大なの財産を持って生まれたものに似ている。


 そのおかげで特に働く必要が無いがさりとて自由もない。


 そのうえ何かをやるモチベーションも湧かない。


 のんべんだらりと暮らしてもいいが周囲はそれを許さない。


 金や美を求めての誘惑と誰も美女と金持ちをほおっておいてはくれない。ちょっかいをだされにだされるのだ。


 そこで身を崩さずにいられるのは力強い家族、この場合は妹であった。


 妹のおかげで自分は安楽に暮らせるという自覚だけが姉にはあり、勧められるがままに姉は王妃となる道を選んだということになる。


 さて馬車による旅の数日後、三人は王宮に辿り着くと門前にたむろする男達の姿を見て妹は勘づいた。


 あれは兵隊ではない……するとチンピラ、ということはなるほどね。


 妹の推理はこうである。これは王の命令ではなく他の后や王子たちの仕業であると。


 王は兵隊にはこちらを歓迎せよと命じておりそれに背かないが、王子たちが自分で飼っている子分や友人らはその命令よりも王子の方を従う。


 なら良かったと妹は安堵した。兵隊相手だとあとで厄介だからな、と。


 妹は馬車から降りて馬を引きながら門に近づいていくと男達の顔が先に見えてきた。


 彼女の視力は3.0で誰よりも先に人の顔の表情が見えるわけだ。


 まだこちらの顔が見えないために男達の顔はニヤニヤしておりリラックスしている。


 報告で聞いているのだろう。女二人と子供一人が一台の馬車でやってくる。


 引き返すように脅しつけて抵抗すればいたぶってよいし最悪事故が起こってしまってもしょうがないと。


 不慮の事故として片付ける、と。


 倫理観の低い男たちにとっては金は貰えるし欲望は満たせるしで楽しいイベントであったはずであった。あわよくば&役得、ゲスな期待が渦巻く。


 だが距離が徐々に縮まっていくと目の良い何人かの男たちの顔からニヤケが消えて困惑の表情となっていく。


 その顔は告げている、女にしてはデカい……というか女なのか?


 王妃になる女には妹がおり年齢はまだ20前ぐらいとのこと……あれが?


 近づくにつれて男達の顔が同じになっていく。みんなが自分の顔と姿についていつもの感想を抱いていると妹は想像する。


 なんて醜い顔と気持ちが悪い肌色なんだ、と。


 お前たちは同じことしか思うことができないと妹は口元を緩ませる。


 私はお前たちの心を支配しているのだ。私はお前らにひとつの解釈しかさせない。


 お前たちの心に自由は与えない、それを認めない、これが支配の本質だと。


 私はお前らより強い、だから従え。


「道を開けろ」


 妹は彼らに命じた。

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