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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第三章 反逆×クーデタ×陰謀
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あの時は良いと思ったけどいま考えると悪いと思うから駄目


 妻に対して秘密を抱えることとなった夫の苦悩を覗いてみよう。


 そうだとも妻であるカツテにこのことを話してみろ! 妻は待望の時の到来に大喜びで導師であるサビに話して新王候補テツにも伝わってしまう。すると一族みんなで盛り上がって計画通り上京しようと言い出すはずだ。


 この俺だけそれを望んではいなかった。なんということだ……一番望んでいないものがこんなデカい秘密を抱えるだなんて。どうしようどうしよう……とりあえず葬儀のためトン王子と共に上京すると妻であるカツテに伝えるとこちらに背を向けての冷ややかな反応。ご存じのようにこれは不満のある時のポーズだ。


「へぇ~上京するんだ、一人で、ね」


「ひっ一人じゃないよ。トン様のお付きたちといくから団体で行くんだよ」


「一人で行くんだ……」


 だから違うと言っているのにこのしつこい言い方! だがこちらは気づいている。そうだとも妻は言っているんだ。私も連れていけと! 私を甲子園に……違う、スキーに……だから違うってもう1980年代から離れろ! 妻は私を都に連れていってと言っているんだ。


 だが俺はそんなことはできない、とアカメ十五世は鈍感を装いながら耐える。そりゃ自分の権力を用いれば可能なことであるが、したくはない。テツが後継指名されたかもしれない会議にカツテは連れていきたくない! まだ妻にはこのことを知られたくはない、知られてはならぬのだ。


「だっ駄目! 一人で、行く。これは公務なんだ。決して物見遊山じゃなくてね、俺も王妃様のご葬儀をしたあとはすぐに帰ってくる。どこにも遊んだりせずに寄り道せずに真っ直ぐに帰ってくるからね」


「……別にいいのよ。せっかくなんだからゆっくりしていったら? はじめての上京を楽しんでもいいのよ? そうよ絶対に楽しいし。 観光するところはいくらでもあるしさ。時間がいくらあっても足りないぐらいの場所なんだし……やりなさいよ」


 こんなこと言っているが、もしもこの言葉を鵜呑みにしてこの言葉通りにやってみるがいい、お主は生涯このことを言われ続けるんだぞぃ。それはこの「あなたあの時は一人で楽しそうだったわね」に化けるのだ。


 しかもこれが一度だけの文句ではなく、年がら年中気まぐれに思い出して老後もなんなら臨終の枕もとでも「そういえばあなたあの時に一人で都会に行って楽しんでいたわね」と昨日の出来事のように言われるとかどうだろう? そんじょそこらのホラーよりも心底恐ろしいと思わないかい? 俺は、思う。


 ほら喉が渇き机の上に置いてあるコップに手を伸ばすと妻の手がひょいとそのコップをちょっと遠ざける、そんな俺を苦しめたいだけの無意味で暇でどうしようもない邪悪な悪戯をして憂さを晴らしてくるんだ。なんでそんなことをするんだ? と涙声で訴えても「だってあなたあの時に一人で都に行って遊んだじゃない」とか全部それで通してくるんだぞ! それで許されると信じて疑わないんだ!


 あの時は良いって言ったじゃないかなんていう正論は通じない。あちらの言い分はこうだ、そりゃあの時は良いと思ったけどいま考えると悪いと思う、というかそもそもな話、あの時は良いと思っていたのも違って、本当は最初っから悪いと思っていたと思えるの、だからあなたは私を置いて一人で都会に遊びに行って私は一人取り残されたこの責任をどう取るの? という魔王も真っ青の地獄論法でお前を殺しにくるのだ。


 そこには慈悲はない、ただ理不尽な後悔のみが待っている、あの時に連れていっておけば……遊ばなければ、と。だからアカメ十五世は念を押した。


「君と一緒でないと楽しくないからそういうことはしない、しないのがこの俺さ」


「あっそう」


「もっもし今度上京したら二人であちこち行こうね。その時の楽しみのためにとっておくよ。だから俺は都を楽しまないと君に誓うよ」


「……そう、別に良いんだけどね、まっいってらっしゃい」


 よしこれでよしとアカメ十五世は公務へと向かう。あー疲れた。まったくもーこんな気遣いばかりさせやがって! なんでこうなるんだ誰のせい? 都のせいだ!


 おのれおのれ都なんか大っ嫌いだ! お前は俺を苦しめる! そうだお前は俺を苦しめるために存在しているんだ! 俺の人生の苦しみの大半は妻……ではなくお前のせいだ都会! お前さえいなかれば妻はずっと俺の傍にいてくれるのによぉ! と彼は近づいてくる都を見ながら毒づく。


 憧れの輝ける大都会……ではなく憎悪の念が渦巻く大都会。都めぇ……都会めぇ……お前なんかお前なんか、俺が全否定してやる! いざ尋常に勝負だこの虚飾のハリボテがぁ! 


 次回「都を虚仮にするのって最高の娯楽、そうさ、都会はもう死んでいる」をお送りします。

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