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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第一章 神話となる美と醜の姉妹
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奇襲、逆襲、敵陣突破からの第一次決戦

 

 さて隊長だが彼は緊張しているもののおかしなことは言っていないと判断し、妹は姉たちに先に乗ってと伝えた。


 それから妹は隊長と向き合った。彼は視線を上げる。怯えながらもしかし、逸らさない。


 中々に大した男だと妹は感じた。強者であるな、と。私を正視するとはこいつには強い意志しか感じられない。


「いかがなされたか、あなたも早く乗ってもらいたい。乗った次第急いで出発する」


「この馬車の御者は私に任せてもらいたい」


「えっ? ……いえ、こちらにお任せください」


「私は馬車の操縦には慣れているし得意だ。だから私がやる」


「……いけません、こちらが、いや、俺がやります」


「王法にそういった言葉があるのか? 緊急避難時での馬車の手綱は兵隊に任せろと。もしもその点が争われたら望むのなら王族のものに委ねるべきになると思わないか?

 まぁ王族といっても親戚の末席に座るものだがそれでもあんたよりは近い立場だ。それでもあんたがどうしても手綱を握りたい理由があるというのなら言ってみろ。いくらでも聞いてやる」


「そっそれはあなたが王族の末席で狙われる可能性が……」


「だが王族的には価値はまるでない。それだとこれぐらい便利な御者はいないだろ?」


「強さが……」


「私はあんたよりも強い。分かっているはずなのにずいぶんと苦しい言い訳だね。それともなにか? 

 私が手綱を握ることで何か不都合なことでもあるのか? 言ってみろ」


「……いえ、ありません。分かりました、お願いします」


 怪しい、と妹は真っ直ぐに思った。いまの議論はこれ以上になく無意味極まりない。敵が迫ってきているのになぜそこでぐずったのか?


 そんな暇などないはずだ。急いでいるのだから、それでいいですお願いしますで済むはずだ。議論は良いですから早く行きましょう、と。


 私ならそうする、この隊長だってさっきの王との議論のように単刀直入でスパっと論理明快なタイプであるのは分かった。


 そうだというのにいまの議論だと別人のように鈍刀のようなグズグズ論理難渋となっていた。どうしても手綱を握りたーい、なんていまやっている場合か。


 元から愚図なら気にはならないがそうではないと分かったからにはここを判断基準とする。馬鹿にならざるを得なかった理由。


 彼は自分に手綱を握らせたくなかった理由。それは……自由に動かれては困るからだ。


 どうして困る? それは我々を都合のように動かしたいからである。


 よって次のこれで判断の決め手としよう。


「あっあの、そちらではありません!」


 妹は馬車を反対側に動かそうとしていた。王が去った道とは反対の、つまり敵がこれから来るかもしれない方向にだ。この森の道は一本道、他は無い。


「いや、こっちだ」


 もちろん妹も分かっている。敵が来るというのならこちらを行くべきではないと。


 だが、敵が来ないという場合はどちらに行けばいいのか?


 そうなった場合は……こっちだ。


「何を言われるか! これから敵が来るのです! 鉢合わせになりますよ!」


「敵は王を狙っているんだ。私たちじゃないから大丈夫だ。むしろ巻き込まれを避けようと思う」


 そんなわけないだろうと思いながら妹が言うと隊長も首を激しく振るう。


「大丈夫じゃない! 王族だって狙われて」


「この馬車はお忍び用だからよほど詳しくなければ王家のものが乗っているとは考えられない。おまけに御者はこの私だ。誰が王家の関係者だと思う?

 敵は命懸けで潜入してきているのなら、こんな無関係な馬車に関わっている時間などないだろうし」


 詭弁として言いだしたが自分で言ってみると我ながらなるほどと妹は思った。


 敵の狙いはこちらではなくあちらなのだ。こちらが焦る道理はない。この隊長ほどに焦らなくてよい。


「危険です! いますぐお戻りください。王妃様と王子様は王の命そのもの。危機に晒すわけにはいかない」


 その通りだ。敵が来るなら危険な方に行かせてはならないのは理屈だ。それはあんたが正しいと妹は思う。だがさっき王に非情さを押し付けてのその理屈は不自然だ。


 やはりこいつは言動が一致していない。解離による隙間が著しい。


 はたしてこれで元の道に戻って良いのか? もしも自分が敵であるのなら最悪のシナリオとはなにか? それは……


「おや……あれは?」

「なっなんです!」


 妹は遠い目をして道の果てを見つめる。隊長は激しく動揺している。ならさらに揺さぶる。


「なにか、見えるぞ。私の視力はとても良くてな。誰よりも遠くを見られるんだ」

「そっそんな!」


 違う、それじゃないその言葉ではない。何故お前は「敵が来たのか?」と言わない?


 お前はそれを言うべきだしこちらを無理矢理にでも走らせるべきなのだ。さっきまでのお前ならそうしたはずだ。


 それなのに……ではここだ、これに賭ける、または鎌をかける。そして手首をひねって刈り取れ。


「うん? 誰かこっちに来るぞ」

「なっ! そんな! 次男様の隊がまだくる時間では、あっ!!」


「いるんだな」


 見えていないものを見えたということで隊長を語るに落した妹は、こちらを止めんと駆け寄った彼を蹴り飛ばし馬車を駆けさせた。


 馬車を走らせながら妹は確信した。策が読めた、これは挟撃だ。


 予定通りあちら側に進んでいたら戻ってきた長男の隊が足止めをし、こちら側から来る次男の隊に挟まれて万事休すとなっていただろう。


 だからこそあの隊長は手綱を握りたかったしこちら側に行かせまいとした。


 しかしその手には乗らない。ならどうする? こうなったら強行突破させる。


 無謀? いや、これしかない。自分はともかく姉たちは自力では戦えないし森を歩くことは不向きだ。


 それに馬車から降り森や山に潜伏しても山狩りという形になり二人の王子に追われる形となる。


 赤子を連れての持久戦は敗北と死の確率がとてつもなく高い。


 ならこちらはどうだ? 隊長の言葉から今からこちらに来る次男たちの隊はまだ出発時間前だと分かった。


 戦闘準備をしている最中だろう。まだ、戦う姿勢とはなってはいない。


 そのうえ背後から挟み撃ちで襲おうというメンタルしか有していない。


 まさか逆に正面から殴りに掛かられるとは夢にも思ってはいまい。


 よって奇襲となり逆襲となる。敵陣一点突破となり逆転を狙える。


 お前らは狙う側ではなく狙われる側、襲うのではなく襲われる側だ。心の準備を整えていないなら、そこを突く。覚悟はできていないだろ? 私はできている、この圧倒的優位性を活かす。


 私達は負けない、このような策にハマったとしても最良の選択を取りそして勝利を掴みにく。私達はこの罠から脱する、勝負だ。



 次回、第一次決戦。

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