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醜と美そして陰謀論、を物語る。  作者: 神谷尚明
第一章 神話となる美と醜の姉妹
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詐欺と陰謀論の引っ掛かりかた


 次男による陰謀の見抜き方およびにその対処法。


さて、他人の陰謀論は見抜けても自身の陰謀論は見抜けない、そういうものであるしそこが限界でもある。


 自分の思考を疑うことができるか? もう一段階上の知性だがそこまでいくと叡智であろう。


 敵の計略を自らの陰謀論に繋げることができ次男は歓喜した。自分の考えは間違いではないと閃いたと。


 この閃きもまた曲者、臭く怪しい奴である。


 閃きが正しいという根拠はないが正しいとしたい欲求が人間は強すぎて危険だ。


 あの人は危ないと閃いて実際危ない人だったと知った時の快感たるや凄まじいものだろう。


馬券が当たった際の感動に近いしなんなら賭け事と同じである。


 しかも予想的中と危険回避が重なるとか楽しくてやめられないし自分の身を護れたで飽きるはずがない。


 命に関わることについて人間は飽きたりなどしない。


 不安症な人たちの娯楽は自分の予想が当ったおかげで助かったものがあるのではないか? 悪口を言うのも悪意を抱くのも「あいつはやっぱりそうだった」と思いたいがためにするのであろう。だから弱者の見る世界は悪に満ちている。


 閃きは当てずっぽうであり外れることの方が多いが人間は外れた時のことを忘れて当たった時のことばかりを覚えているために、第六感が働いたとか閃いたとか勘が働いたとかそういう神秘性に縋るものである。


外れた時を忘れて当たった時のことだけを憶えてカウントしていたら誰でも勘が良いになるし一流のギャンブラーである。


敗北を都合よく忘れたら自分の生涯は勝ちっぱなしの幸せな人生。


 そんな次男は閃きから全てを自分の陰謀論に接続するのだ。


 この陰謀を見抜いたぞ! 最高に気持ちいいし自分の妄想に繋げられたらもっと最高、だからやる。


 つまりこうだ。傾国の魔女である新王妃は三男を誘惑し傀儡に仕立てた後に、残り二人の王子を破滅させるためまず仲違いからの喧嘩を誘発させる怪文書を送った。


 しかし賢明なるこの俺がその悪事を見抜き事前に防いだというところ。


 完璧じゃあないかこれ、と次男は自分の作文に惚れ惚れした。自惚れも満足させられるし文句のつけどころがない。


 前提がおかしいのだがそんなことはどうでもいい。あの傾国が悪辣非道であるほうが都合が良いからである。


 醜いとかいう妹の仕業などしてもこちらに何の得はない。だからあの妹は無視するという判断に繋がるのだ。


 美女が実は悪の方が面白い。可愛い顔してえげつない! とかみんな好きである。醜いが悪とか自明過ぎてつまらぬ意外性がなく陰謀論映えしない。


 ではではこれをどうやって処理すべきか。


 無視していいものか……いいや利用すべきだなと次男は自分の考えに頷いた。


 もしもこれを無視してなにもせずにいたらどうなるか? 効かないと分かれば敵は次なる一手を打ってくるに違いない。


 それはどんな手かは分からない。今回はまんまと引っ掛らずに済んだが次はどうなることか。自分ではなく兄を標的にし罠にかけるかもしれぬ。そうなっては厄介さが増す。


 よってこの見抜いた手を自分は何らかの形で利用するしかないのだが……よし、と次男は息を吐いた。


 ここはひとつ引っ掛ってやるか、と。


 どういうこと? 


 つまりわざと策にかかっているように見せかけるということだ! なんだってー!!


 こういうことになる。この怪文書を信じるふりをしてまんまとかかったように行動するということである。


 そう、外から見たらよしよしかかったなしめしめということとなる。


 罠をかけた猟師はその後どうなる? しばらく観察という段階となり新たな第二段はしばし置かれるのだ。


 せっかく標的が罠にかかっている最中に何か余計なことをするだろうか? 


 まず、しない。


 ライフルスコープで獲物を捉えている状態で他のことはしない。最適のタイミングをとるのみである。


 ジッと待つのだが、ここなのだ。この認識こそが最も危険な時でもある。


 照準に夢中となり他が見えなくなっている。スナイパーは視界の外から殴られるとき無力で儚い存在である。


 そしてこの自分は狩る側という認識こそが死を招く。詐欺師はよく詐欺に引っ掛る逆説がある。


 いやおかしいだろうと直感がそれを否定する。だって騙す側なんだから騙されないでしょ、と。


 さて考えていただきたいのは詐欺被害者の第一声はなんだろうか? 


「まさか自分が!」これではないか?


「やっぱり詐欺でしたか。はじめから怪しいと思っていましたよトホホ」はあったとしてもまぁ被害は抑えられているだろう。


 ズルズル引きずられているうちは摩擦による抵抗感のおかげでそこまで被害は出てはいない。


 一方の「まさか自分が!」は摩擦無しで意識が宙に浮いていて無抵抗状態で詐欺られたら破産待ったなし。


 どこまでもどこまでも被害を増やし続けていく。


 この大被害を出す「まさか自分が!」を分析するとこうなる。


 まさか賢い自分が騙されるわけがない、という自信過剰、それとまさか騙す側の自分が騙されるわけがないとなる。


 実際に詐欺師が詐欺師を騙す場合も多い。


 詐欺師の世界でも「あいつのやり方はよくない」という義憤による制裁が行われることもある。


 お前ら一緒だろ? と外から見たらそうだが内から見たら不義理で外道なものもある。


 ヤクザ的な世界と同じ法の外なるアウトローであるからこそ自分たちのルールを大事にしそれを護らない奴は制裁対象となるのと同じこと。


 おまけに彼らはよく知っているのだ。騙すものが騙されやすいということを。


 かつて火事現場に集まる野次馬はよくスリ被害に会っていたとのこと。


 見物人は火事を見ながらこう思う。自分でなくて良かった、と。


 この心理である。被害を見ている限り自分はそうならないのだという安堵感。戦場で撃たれる恐怖を紛らわすために銃を乱射する兵士も自分が撃つ側という認識で安心感を得る。


そこに油断と隙が生まれ金と命を掠め取られるのだ。


 人を騙している時は自分はそうではないという錯覚。ここを突くのだ。この死角からえぐれ!


 相手を信用させて騙すコンゲームがこれに近い。そう罠にかかったと信用させて逆に罠にハメるのだ。


 繰り返すがこうなるとかなりキツイ。


 相手は罠にかかったふりをしているのではないか? こんなメタ認知を人はまず起こせない。


 自分は標的が罠にかかったと思っているが実は罠に掛けられたのはこちらの方では? この認識に辿り着くのは相当に困難になろう。


 かくして妹は次男の罠にかかった。しかし次男もまた罠に敢えてかかる悪戦苦闘のなか反撃の機会を待つ。


この罠と罠の掛け合い、次回兄弟喧嘩にグフフ。


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