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境界を歩く者たち  作者: 星渚歌唄
第4章 重ねた約束

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真声

「......俺は......まだ、誰もじねえ」


左目の虚ろな光が月光に反射する。

片手に握る錆びた刀の感触が、幼い頃の自分を思い出させる。

だが、過去を思い出すたびに力がこみ上げ、今、目の前の晋祐への攻撃意欲となった。

朱雀が静かに前に踏み込み、刀を大きく振るう。

その動きは一瞬の隙もなく、跳躍し、回転しながら斬りかかる。

晋祐は瞬時に反応し、刀で防ぐが、朱雀の攻撃は連続で押し寄せる。

錫も同時に使い、横薙ぎで晋祐の動きを制限する。


「ーーこれで終わりじゃねえ!」


朱雀の声に、幼い頃の孤独と怒りが混ざり、刃の鋭さに反映される。

瓦礫を蹴散らしながらの連続攻撃に、晋祐も全身の力を振り絞って応戦する。

跳躍、回転、斬撃の連続一ー二人の刀が交わるたびに火花が散り、瓦礫が屋上を舞う。

朱雀の冷たい眼差しに、晋祐はかつての銀の面影を重ね、胸に込み上げるものを抑えなが

ら刃を振るう。

過去と現在、怒りと友情、失ったものと守りたいものーー

すべてが交錯する中で、二人の戦いはさらに激しさを増していった。

瓦礫が飛び散る廃墟の屋上、月光に照らされた二人の影が絡み合う。

銀一一朱雀の片目は虚ろで、深紅の髪は乱

れ、握る刀は冷たく光る。

胸の奥に渦巻く怒りは、育ってきた過酷な環境への永遠の憎しみ。


「......くそっ......!」


銀の刀が閃き、斬撃が激しく空気を裂く。

跳躍、回転、錫杖と刀の連携一一攻撃は止まることなく、晋祐を追い詰める。

銀は剣を振るいながら、吐き捨てるように言葉を放った。


「……俺は、あの環境が死ぬほど嫌いだった。今でも憎んでる。全部、全部あそこが悪いんだ……!」


怒りと憎しみが混ざり合った声が、夜気を震わせる。ぶつかり合う刃が火花を散らし、二人の影を一瞬だけ鮮やかに照らした。

しかし晋祐は笑みを浮かべながら刀を振るい、銀の攻撃を受け流す。


「確かに、俺たちは環境さえよければ.......こんな目にあってねえかもな」


そう呟きながらも、彼の瞳は微塵も曇っていなかった。

再び剣がぶつかり、耳をつんざく金属音が響く。

銀の動きが一瞬止まるーーその目に、冷たさと疑念が交錯する。

だが晋祐は続ける。


「だが……」


晋佑は力強く押し返し、銀の目を真っ直ぐに見据えた。


「俺はその環境の中で……てめぇに出会ったんだ。

――悔いたことなんざ、一度もねぇよ!」


刀が再び交わる。火花が散り、瓦礫が飛び散る。

その言葉に、銀の動きが一瞬だけ止まった。

銀は歯を食いしばり、低く唸るように答える。


「......俺に関係ねぇ......!」


晋祐は一歩踏み込み、斬り結びながら、声を張り上げる。


「お前はどうなんだよ……!

一度でも、俺と出会ったこと……後悔したこと、あんのかよッ!」


冷たい虚ろな瞳の奥で、かすかな動揺が揺らめいた。

二人の刃が再び交錯し、夜空に鋭い火花が散った


「......俺は......」


言葉を探す銀の声が、いつもより震えている。

二人の力が激しくぶつかり合う。

斬撃ごとに衝撃が屋上に響き、風が渦巻く。

瓦礫が飛び散り、月光の中で二人の影が入り乱れる。

銀の心は、怒りと憎しみ、そしてかすかな戸惑いで揺れる。

しかし、刀を握る手は止まらないーー

戦いは、二人の過去と現在、感情の全てをぶつけ合う最高潮に達していた。


晋祐はその隙を逃さず、鋭い視線で銀を見つめながら刀を構える。


「俺は......お前と共に生きるって決めてんだよ、あの日から!!大事なもんはずっとここにある」


晋祐は自分の胸を叩き、言葉に力を込める。


「てめぇは.......俺との約束、破る気じゃねえだろうな?

お前を斬るのも、殺すのも、守るのも.......全部、俺なんだよ」


刀を銀に向け、風に乗る言葉は重く、揺るぎない。

銀の握る刀がわずかに震え、胸の奥で閉ざしていた感情が波紋のように広がる。

その瞬間、廃墟の屋上に、二人だけの時間が止まったかのように感じられた。

怒りと憎しみ、孤独と後悔一一すべての感情が交錯する中で、銀は初めて、自分の胸の奥にあるものに気づいた。


「.......晋祐......」


片目の虚ろさが揺らぎ、銀の手が刀を少し下げる。

その瞬間、戦いは単なる斬り合いから、心のぶつかり合いへと変わり始めた。

___________________________

瓦礫と月光の中、銀は刀を握ったまま頭を抱え、声を震わせた。


「俺だって......!!俺だって.....出来ることなら......てめぇの見据えた未来にいてえよ......」


深く胸を締め付けられるような嘆きが、声となって夜に響く。

しかし、その声に続く言葉は切なさと絶望を帯びていた。


「もう.....遅いんだよ......」


銀は左目を押さえ、虚ろな片目に闇を宿す。


「俺の目は......時は......あの時から止まってる......。

お前を守れなかった......あの日から.....」


その言葉に、晋祐は刀を少し緩め、胸の奥に込み上げる感情を押し殺しながらも静かに見つめる。

銀の手がわずかに震え、刀の先が地面をかすめる。

かつての孤独と憎しみ、そして後悔一一すべてが一度に顔を出し、銀の心を縛り付けていた。


「......銀......」


晋祐はゆっくりと一歩踏み込み、銀の肩を軽く叩く。

その手の温もりは、かつて互いに失った時間と、今も変わらぬ絆を伝えていた。

戦場は依然として荒れ狂っている。

しかし、二人の間には、刀の刃だけではないーー心と心のやり取りが生まれつつあった。

銀の胸の奥にある痛みと後悔を、晋祐は静かに受け止める。月光に照らされた屋上、瓦礫が舞い散る中、銀は胸の奥で渦巻く後悔と怒りに押されて動揺していた。

一夜明け前、静かに風が鳴っていた。

森を切り裂くように、二振りの刀が交錯する。


「.....変わってねぇな、お前の剣は」


血の気の引いた唇で、銀が呟いた。

晋祐は無言。だがその目には、懐かしい顔を前にした戸惑いと、怒りにも似た悲しみが滲んでいた。

銀の髪は朱く染まり、もう「銀」と呼べる姿ではなかった。

けれども、斬り結ぶ中で確かに伝わってくる。

あの頃の剣が、まだこの男の中で生きていることを。


「今さら "昔に戻ろう"なんて言うつもりはねえ。俺は......俺の手で父親を殺した。それが全てだ」


刀を振るいながら、銀は吐き捨てるように言った。

剣先は迷いなく、ただ殺意だけを載せていた。


「なら.......ここで終わらせる」


晋祐の刀が唸りを上げる。


「ここで俺を殺して、全部終わりにしろ」


「......バカが」


銀の刃が止まった。


「......そんな言葉、俺が欲しいと思ったかよ。

お前といる時間が、俺には全てだった」


静かに、刀と刀がぶつかり合う。

それはもはや戦いではなく、互いの心を、過去を、傷を、確かめ合うようなー

剣が舞い、風が泣き、二人の姿が刹那交差した。

次の瞬間、銀の刀が晋祐の首元に添えられる。

だが、止まっていた。

晋祐も、動かない。彼の力は銀の腹をかすめていた。

一歩間違えば、どちらかが死んでいた。


「.....殺せねぇんだよ、俺は」


「俺もだ。ずっと.......お前を探してた」


静寂が戻る。

ふたりは刀を下ろし、ただ風の音に身を任せた。


「......銀」


「......朱雀だよ。今の俺は」


「けど、お前は一一俺の銀だ」


その言葉に、朱雀の口元がかすかに緩む。

初めて見せた微笑みだった。

そして__


「.....俺は、あのときのままだ。

お前に名付けられたままだよ」


夜が明けた。

朱色の空が、ふたりの影を長く伸ばしていた。


倒れた朱雀の力が、カランと音を立てて地面を転がる。

肩で息をする銀の前で、晋祐も膝をついていた。

互いの傷は深い。しかし、どこか心は、少しだけ軽かった。

沈黙の中、銀がぽつりとつぶやく。


「まだ......果たしてねえよな」


晋祐は、少し笑って答える。


「ああ。まだだ」


銀は立ち上がり、ボロボロになった刀を拾う。


「だから生きる。お前を殺す、その日までは」


晋祐もまた、刀を肩に背負いながら微笑む。


「いいぜ。俺も、てめぇに殺されるまでは死ねねえな」

それは「約束」

戦場で交わされた、唯一無二の誓い。

けして叶ってはならない約束でありながら、二人を繋ぐ鎖。

戦友でも、親友でもない。

それは__唯一、殺し合うことを許された存在。

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