真声
「......俺は......まだ、誰もじねえ」
左目の虚ろな光が月光に反射する。
片手に握る錆びた刀の感触が、幼い頃の自分を思い出させる。
だが、過去を思い出すたびに力がこみ上げ、今、目の前の晋祐への攻撃意欲となった。
朱雀が静かに前に踏み込み、刀を大きく振るう。
その動きは一瞬の隙もなく、跳躍し、回転しながら斬りかかる。
晋祐は瞬時に反応し、刀で防ぐが、朱雀の攻撃は連続で押し寄せる。
錫も同時に使い、横薙ぎで晋祐の動きを制限する。
「ーーこれで終わりじゃねえ!」
朱雀の声に、幼い頃の孤独と怒りが混ざり、刃の鋭さに反映される。
瓦礫を蹴散らしながらの連続攻撃に、晋祐も全身の力を振り絞って応戦する。
跳躍、回転、斬撃の連続一ー二人の刀が交わるたびに火花が散り、瓦礫が屋上を舞う。
朱雀の冷たい眼差しに、晋祐はかつての銀の面影を重ね、胸に込み上げるものを抑えなが
ら刃を振るう。
過去と現在、怒りと友情、失ったものと守りたいものーー
すべてが交錯する中で、二人の戦いはさらに激しさを増していった。
瓦礫が飛び散る廃墟の屋上、月光に照らされた二人の影が絡み合う。
銀一一朱雀の片目は虚ろで、深紅の髪は乱
れ、握る刀は冷たく光る。
胸の奥に渦巻く怒りは、育ってきた過酷な環境への永遠の憎しみ。
「......くそっ......!」
銀の刀が閃き、斬撃が激しく空気を裂く。
跳躍、回転、錫杖と刀の連携一一攻撃は止まることなく、晋祐を追い詰める。
銀は剣を振るいながら、吐き捨てるように言葉を放った。
「……俺は、あの環境が死ぬほど嫌いだった。今でも憎んでる。全部、全部あそこが悪いんだ……!」
怒りと憎しみが混ざり合った声が、夜気を震わせる。ぶつかり合う刃が火花を散らし、二人の影を一瞬だけ鮮やかに照らした。
しかし晋祐は笑みを浮かべながら刀を振るい、銀の攻撃を受け流す。
「確かに、俺たちは環境さえよければ.......こんな目にあってねえかもな」
そう呟きながらも、彼の瞳は微塵も曇っていなかった。
再び剣がぶつかり、耳をつんざく金属音が響く。
銀の動きが一瞬止まるーーその目に、冷たさと疑念が交錯する。
だが晋祐は続ける。
「だが……」
晋佑は力強く押し返し、銀の目を真っ直ぐに見据えた。
「俺はその環境の中で……てめぇに出会ったんだ。
――悔いたことなんざ、一度もねぇよ!」
刀が再び交わる。火花が散り、瓦礫が飛び散る。
その言葉に、銀の動きが一瞬だけ止まった。
銀は歯を食いしばり、低く唸るように答える。
「......俺に関係ねぇ......!」
晋祐は一歩踏み込み、斬り結びながら、声を張り上げる。
「お前はどうなんだよ……!
一度でも、俺と出会ったこと……後悔したこと、あんのかよッ!」
冷たい虚ろな瞳の奥で、かすかな動揺が揺らめいた。
二人の刃が再び交錯し、夜空に鋭い火花が散った
「......俺は......」
言葉を探す銀の声が、いつもより震えている。
二人の力が激しくぶつかり合う。
斬撃ごとに衝撃が屋上に響き、風が渦巻く。
瓦礫が飛び散り、月光の中で二人の影が入り乱れる。
銀の心は、怒りと憎しみ、そしてかすかな戸惑いで揺れる。
しかし、刀を握る手は止まらないーー
戦いは、二人の過去と現在、感情の全てをぶつけ合う最高潮に達していた。
晋祐はその隙を逃さず、鋭い視線で銀を見つめながら刀を構える。
「俺は......お前と共に生きるって決めてんだよ、あの日から!!大事なもんはずっとここにある」
晋祐は自分の胸を叩き、言葉に力を込める。
「てめぇは.......俺との約束、破る気じゃねえだろうな?
お前を斬るのも、殺すのも、守るのも.......全部、俺なんだよ」
刀を銀に向け、風に乗る言葉は重く、揺るぎない。
銀の握る刀がわずかに震え、胸の奥で閉ざしていた感情が波紋のように広がる。
その瞬間、廃墟の屋上に、二人だけの時間が止まったかのように感じられた。
怒りと憎しみ、孤独と後悔一一すべての感情が交錯する中で、銀は初めて、自分の胸の奥にあるものに気づいた。
「.......晋祐......」
片目の虚ろさが揺らぎ、銀の手が刀を少し下げる。
その瞬間、戦いは単なる斬り合いから、心のぶつかり合いへと変わり始めた。
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瓦礫と月光の中、銀は刀を握ったまま頭を抱え、声を震わせた。
「俺だって......!!俺だって.....出来ることなら......てめぇの見据えた未来にいてえよ......」
深く胸を締め付けられるような嘆きが、声となって夜に響く。
しかし、その声に続く言葉は切なさと絶望を帯びていた。
「もう.....遅いんだよ......」
銀は左目を押さえ、虚ろな片目に闇を宿す。
「俺の目は......時は......あの時から止まってる......。
お前を守れなかった......あの日から.....」
その言葉に、晋祐は刀を少し緩め、胸の奥に込み上げる感情を押し殺しながらも静かに見つめる。
銀の手がわずかに震え、刀の先が地面をかすめる。
かつての孤独と憎しみ、そして後悔一一すべてが一度に顔を出し、銀の心を縛り付けていた。
「......銀......」
晋祐はゆっくりと一歩踏み込み、銀の肩を軽く叩く。
その手の温もりは、かつて互いに失った時間と、今も変わらぬ絆を伝えていた。
戦場は依然として荒れ狂っている。
しかし、二人の間には、刀の刃だけではないーー心と心のやり取りが生まれつつあった。
銀の胸の奥にある痛みと後悔を、晋祐は静かに受け止める。月光に照らされた屋上、瓦礫が舞い散る中、銀は胸の奥で渦巻く後悔と怒りに押されて動揺していた。
一夜明け前、静かに風が鳴っていた。
森を切り裂くように、二振りの刀が交錯する。
「.....変わってねぇな、お前の剣は」
血の気の引いた唇で、銀が呟いた。
晋祐は無言。だがその目には、懐かしい顔を前にした戸惑いと、怒りにも似た悲しみが滲んでいた。
銀の髪は朱く染まり、もう「銀」と呼べる姿ではなかった。
けれども、斬り結ぶ中で確かに伝わってくる。
あの頃の剣が、まだこの男の中で生きていることを。
「今さら "昔に戻ろう"なんて言うつもりはねえ。俺は......俺の手で父親を殺した。それが全てだ」
刀を振るいながら、銀は吐き捨てるように言った。
剣先は迷いなく、ただ殺意だけを載せていた。
「なら.......ここで終わらせる」
晋祐の刀が唸りを上げる。
「ここで俺を殺して、全部終わりにしろ」
「......バカが」
銀の刃が止まった。
「......そんな言葉、俺が欲しいと思ったかよ。
お前といる時間が、俺には全てだった」
静かに、刀と刀がぶつかり合う。
それはもはや戦いではなく、互いの心を、過去を、傷を、確かめ合うようなー
剣が舞い、風が泣き、二人の姿が刹那交差した。
次の瞬間、銀の刀が晋祐の首元に添えられる。
だが、止まっていた。
晋祐も、動かない。彼の力は銀の腹をかすめていた。
一歩間違えば、どちらかが死んでいた。
「.....殺せねぇんだよ、俺は」
「俺もだ。ずっと.......お前を探してた」
静寂が戻る。
ふたりは刀を下ろし、ただ風の音に身を任せた。
「......銀」
「......朱雀だよ。今の俺は」
「けど、お前は一一俺の銀だ」
その言葉に、朱雀の口元がかすかに緩む。
初めて見せた微笑みだった。
そして__
「.....俺は、あのときのままだ。
お前に名付けられたままだよ」
夜が明けた。
朱色の空が、ふたりの影を長く伸ばしていた。
倒れた朱雀の力が、カランと音を立てて地面を転がる。
肩で息をする銀の前で、晋祐も膝をついていた。
互いの傷は深い。しかし、どこか心は、少しだけ軽かった。
沈黙の中、銀がぽつりとつぶやく。
「まだ......果たしてねえよな」
晋祐は、少し笑って答える。
「ああ。まだだ」
銀は立ち上がり、ボロボロになった刀を拾う。
「だから生きる。お前を殺す、その日までは」
晋祐もまた、刀を肩に背負いながら微笑む。
「いいぜ。俺も、てめぇに殺されるまでは死ねねえな」
それは「約束」
戦場で交わされた、唯一無二の誓い。
けして叶ってはならない約束でありながら、二人を繋ぐ鎖。
戦友でも、親友でもない。
それは__唯一、殺し合うことを許された存在。




