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境界を歩く者たち  作者: 星渚歌唄
第3章 暴走と赦しの狭間

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懺悔

森の静寂は、刹那の衝撃と共に音を失った。

晋祐が母親の首を斬った瞬間、そこにいた全員の目が凍りつく。

彩姫は思わず手を口に当て、目を大きく見開く。

ピーターは咄嗟に守る態勢を取るも、状況を理解できず、視線を彷徨わせる。

天袮は無言で寧音を抱えたまま立ち尽くし、眉間に深い皺を寄せる。

心斗はただ驚きと困惑の入り混じった瞳で普佑を見つめていた。

気絶していた恋も、まだ意識は薄いものの、うめき声とともに状況の異常さに反応する。


そして夜叉隊の面々も、言葉を失い、視線が交錯する。


「晋祐様....?」


「一条さん…?」


と震える声を漏らし水瀬と結城は呟く。

有麻も口を半開きにしたまま、固まったように立ち尽くす。

森の木々の間を吹き抜ける風だけが、刹那の出来事の重さを運ぶ。

全員の頭の中は混乱でいっぱいだった。


「一体....何が起こったんだ...?」


言葉は出ても、意味を理解するにはあまりにも非現実的すぎた。

森にはただ、倒れた母親の姿と、刀を手に立つ晋祐の姿だけが残った。

森のざわめきの中、全員が言葉を失い固まる中、晋祐だけは静かに動いた。

彼は母親の首をまるで壊れやすいものを扱うように、慎重に両手で包む。


「…今まですまなかった...母さん」


その声は、震えではなく、深い哀しみと覚悟に満ちていた。

そして晋祐は風呂敷を取り出し、首をそっと包む。


「..安らかに眠ってくれ」


その瞬間、森にいた全員の時間が止まったような空気が流れる。

他の夜叉隊も彩姫たちも、ただただ息を飲み、彼の行動を見守るしかなかった。

だが、天祢だけがその瞬間、何かを理解したような表情を浮かべた。

眉間に深い皺を寄せ、しかし瞳は静かに輝くーー


「...その道を選んだのか」


小さな声で呟き、彼だけが事の意味を理解していた。


晋祐はゆっくりと他の夜叉隊の方を向いた。目は静かに、しかしどこか覚悟に満ちている。


「今まですまなかった..。あとは全て俺が背負う」


その声には、これまでの迷いも、葛藤も、全てを飲み込んだ決意が宿っていた。


「お前たちは....元の道に帰れ」


言葉は冷たくもなく、しかし誰にも抗えない強さを帯びていた。


「晋祐様...」


「一条さん....」


と水瀬も結城も唇を震わせる。

理子もただ固まったまま、晋祐の背中を見つめるしかなかった。

晋祐はそのまま、風呂敷に包んだ母親の首を抱え、静かに一歩前へ踏み出す。

森のざわめきは一瞬だけ静まり返り、全員の心に重く深い影を落とした。

そして、天袮だけが理解した表情で、その背中を見守る。

___________________________

その言葉に、理子が慌てて前に飛び出した。


「ちょっと待ってくださいッス!!

…そんな…そんな勝手に背負わないでください、晋祐先輩!私たちだって...!」


結城も慌てて一歩踏み出す。


「一条さんそれは違います。あなた一人で背負うなんて絶対に許しませんよ。俺たちも一緒に戦った仲なのですから」


さらに水瀬も、声を震わせながらはっきりと反論した。


「晋祐様...私も...私も、あなた一人に任せるわけにはいきません!あなたを一人にはしません!」


晋祐は静かに三人を見つめるが、言葉はなく、ただその強い意志を受け止めるしかなかった。

夜叉隊の面々はその場に立ち尽くし、全力で反対の意思を示した。晋佑の覚悟も、彼らの覚悟も、今、この森に静かにぶつかり合っていた。

その時、寧音がふらつきながらもようやく立ち上がった。


「...あなた達のした罪は...重いのかもしれない...」


天袮はすぐに駆け寄り、寧音の体をしっかり支える。


「無理すんな....まだ気を抜くな」


寧音は天袮に支えられながら、意識の朦朧とした恋の方に視線を向ける。

小さく息を吐き、魔力を巡らせると、淡い光が恋の体を包み込み始めた。

恋の体がゆっくりと温かさを取り戻し、顔色も戻っていく。


「...大丈夫、もう安心して....」


天袮はその様子をじっと見守りながら、静かに寧音の肩を支え続けた。

寧音の魔法の光は、倒れた仲間たちを優しく包み込み、戦いの余韻に揺れる森に穏やかな空気を取り戻していった。

寧音が恋に回復魔法をかけていると、夜又隊の面々が完全に目を覚ました。

有麻が眉をひそめ、結城は口元に厳しい線を作り、水瀬も冷たい瞳で寧音を見据える。


「なんスかあんた…。なんも知らない奴が入ってくるんじゃねぇよ!」


有麻は声を荒げ、


「知らない者が出しゃばるんじゃないわよ!分かりましたかこのブス!!」


と、水瀬も声を荒らげる。彼女の言葉は鋭く、まるで刃のように寧音に突き刺さる。

寧音は息を荒くし、胸の奥でむずむずする怒りを感じながらも、天祢の腕に支えられ、しばし動けずに立ち尽くした。

しかしそれを止める者がいた。晋祐だ。

彼は夜叉隊たちを見渡し、厳しい表情を崩さず、しかし声にはどこか感情が滲む。


「何が言いたい」


寧音は微かに笑みを浮かべ、痛みを堪えながらもまっすぐに夜叉隊を見据える。


「貴方たちなら...まだやり直せる。

だって....ただ大切な人のそばでいたかっただけなんでしょ?

環境さえよければ...きっと...なにか違ってたと思う」


と夜叉隊を見て言う。

晋祐は寧音の言葉に少し驚いたように目を細める。


その瞬間、空気が少しだけ静まる。夜叉隊の面々は互いに視線を交わし、言葉に詰まる。

晋祐は寧音の傷だらけの体と、優しくも力強い笑顔を見て、ゆっくりと頷いた。


「...そうか。あの時、俺たちに足りなかったのは、ただそばにいることかもしれねえな....」


その言葉に、夜叉隊もまた沈黙し、初めて心の奥底に自分たちの行動を問い直す空気が漂う。

晋祐が固く首を振り、冷たい目で夜叉隊を見渡す。


「いや....いい。俺一人でこの罪を背負っていく」


その時、森の端から軽やかな足音とともにピーターが現れ、にこやかに笑いながら手を広げる。


「こういうのはどうかな?」

___________________________

町の通りには柔らかな日差しが差し込み、どこか穏やかな空気が流れていた。

天祢と寧音は、まだ街の雰囲気に慣れていない夜叉隊の面々を案内していた。


「ここが市場だ。色んな店が並んでる。騎士学校に入る前に、少し街のことを知っておいた方がいい」


天祢の声はいつもより少し穏やかで、寧音も隣で頷きながら微笑む。

晋祐は人混みを興味深そうに観察していた。

初めて目にする景色に、少しだけ緊張と好奇心が混ざる表情だ。

寧音はそれを見て、心の中でくすりと笑った。


あの時…ピーターが提案したのは…

___________________________

「こういうのはどうかな?」


晋佑は少し眉をひそめるが、ピーターは続ける。


「一人で背負う必要なんてないんだ。仲間がいるんだろ?みんなで分け合えば、重さは半分にも、三分の一にもなるさ」


夜叉隊たちの表情が少し和らぐ。結城は一歩踏み出し、有麻も水瀬も、じっとピーターを見つめる。

寧音は天袮に支えられながら、かすかに頷く。

ピーターは軽く肩をすくめ、微笑んだまま晋祐に言う。

ピーターはゆっくりと手を広げ、空気を柔らかく変える。


「これから大勢の人を救えばいい。傷つけた分以上の人を救えばいいんだ。

それに、君たちの資料、ちょっと見せてもらったけど...

思った以上に人殺ししてないじゃん。びっくりしたよ」


晋祐は一瞬目を見張る。


「...?」


ピーターは少し肩をすくめ、くすっと笑った。


「無闇に他人を傷つけるのは、夜叉隊のご法度だったんだろう?資料から見てる限り、君たちは本当に、必要なときだけ戦ってたんだね」


晋祐は言葉を失い、静かに刀を握り直す。その目には、過去の罪を背負いながらも、これからの未来を見据える決意が宿っていた。


「..俺たちは、守る側として生きる…のか?」


ピーターは満足そうに笑って頷き、夜叉隊の面々も少しずつ表情を緩める。

それは、鬼が人へと還る瞬間だった。

___________________________

そして一ー夜叉隊は天祢と寧音が紹介してくれた学園へと編入することを決意する。

手続きは全てピーターがしてくれた。

表向きは新たな学園生活を送る学生として。

しかしその裏では、かつてのような「悪を滅ぼすための暴力」ではなく、人々を守るための正義の剣を振るう夜叉隊の剣士として活動を始めることになった。


「ねえ、あれ見て!」


と、寧音は晋祐を誘い、和菓子屋の前で立ち止まる。

店先には色とりどりの団子や餡菓子が並んでいた。

晋佑が一口和菓子を口に入れると、驚きと喜びの表情を見せた。


「こんな味....初めてだ....美味い」


その反応に寧音は心の中で笑みを深める。


「(ああ、甘いもの好きなんだ...)」


天袮はそんな寧音を横目で見ながら、少し苦笑する。


「お前もそういうところ、ちゃんと見てるんだな」


結城は晋祐の横で


「一条さん、こちらの和菓子とやらも中々行けます」


と敬語で微笑む。有麻は


「晋祐先輩!!同じの大量に注文してきやした!!!」


と大量の和菓子を持ってくる始末。水瀬も晋祐の喜ぶ姿を静かに見守っていた。

ピーターはその様子を少し離れた位置から見守り、にこやかに呟く。


「こうやって、少しずつ日常に馴染んでいくんだな」


夜叉隊の面々にとって、学園生活は未知の世界だった。

しかし、互いに支え合い、助け合う力はすでに培われていた。

これから始まる新しい日常一一武力を学ぶ騎士学校での生活も、彼らなら乗り越えられるだろう。

空は晴れ渡り、穏やかな風が通りを抜ける。

過去の影は残るが、彼らには新しい一歩を踏み出す力があった。

町の通りを歩きながら、寧音はふと晋祐の首元に目が留まった。

刻まれた傷が、日差しにかすかに光っている。


「晋祐くん....ここの傷、どうしたの?治そうか?」


首を指さしながら、寧音は少し心配そうに声をかける。

その瞬間、晋祐の表情がぴたりと静まった。

空気が一瞬、固く張り詰める。

慌てた寧音はすぐに言葉を付け足す。


「ご、ごめん....聞いちゃいけないことだったよね...!」


しかし晋祐は冷静に首を振り、声を落として言った。


「いや..これは、探してるやつを見つけるための目印なんでな。治さないでくれ」


寧音はその答えに言葉を失った。心の奥で、聞いてはいけない一線を越えてしまったことを痛感する。

それでも、晋祐の背中には迷いや弱さではなく、揺るがない意志の光が差していることが分かった。


「(....彼にとって、この傷はただの傷じゃない...のかな…?)」


寧音は小さく息を吐き、そっと横を歩きながら、これ以上触れないことを心に決めた。

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