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境界を歩く者たち  作者: 星渚歌唄
第3章 暴走と赦しの狭間

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断行

森の奥からゆっくりと人影が現れた。

驚戒を解いていなかった彩姫たちは一斉に身構える。


「......つ!天祢!? それに寧音も!」


最初に声を上げたのは彩姫だった。彼女の視線は天祢の腕の中で気を失っている寧音へと釘付けになる。


「ちょ、寧音!?しっかりして!?」


駆け寄る彩姫の声には焦りが混じっていた。

天袮は静かに首を振る。


「大丈夫だ......ただ気を失ってるだけだ。命に別状はない」


そう言って、天祢は寧音を地面にそっと横たえた。

彩姫は膝をついてその手を握り、泣きそうな顔で呼びかける。


「......本当に、よかった.....」


仲間たちの張りつめていた空気が、ようやく解けていく。

だが天袮の表情は、どこか険しいままだった。


......無事なのは幸いだが、敵はまだ健在だ。

気を緩めるな」


その低い声に、皆が改めて表情を引き締める。

彩姫は寧音の頬をそっと撫でながら頷いた。


「うん......でも、まずは寧音を休ませてあげよう」


夜風に揺れる木々の音が、戦いの余韻をそっと包み隠すように響いていた。

森の薄暗い空気の中で、天袮が寧音を抱えて現れると、少し遅れて別方向からピーターと心斗の姿も見えた。

心斗は恋を背負っており、彼女はまだ気を失ったままだ。


「天祢!......それに寧音まで.......!」


ピーターは息を切らしながら駆け寄る。


「......彩姫!」


心斗は急いで呼びかけると、彩姫の元へ恋を横たえる。


「恋は.......まだ目を覚まさねえ」


彩姫は必死に二人の顔を見比べながら唇を噛む。


「寧音も......恋も......!でも......私には......」


治癒の力を持たない自分を責めるように俯いた。

その肩にピーターが手を置き、落ち着いた声で言う。


「大丈夫だ、彩姫。僕が診る。.....心配するな」


ピーターは魔力を込めた手をかざし、淡い光を放ちながら恋と寧音の容態を確認し始めた。

天袮はその背後で腕を組み、周囲を警戒しながら短く言う。


「......今は立ち止まってる場合じゃねえ。敵が完全に引いた保証はない」


心斗が歯を食いしばりながら答えた。


「でも、このままじゃ動けねぇ......恋も、寧音も......」


重苦しい空気の中で、皆の視線が自然とピーターへ集まる。

彼の手の光だけが、森の闇を押し返すように淡く瞬いていたーー。

___________________________

ピーターの治癒の光が淡く二人を包み、皆がほっとしかけたその時ーー。


「......チッ、やっぱり油断は禁物か」


天祢がいち早く気配を察し、鋭い視線を森の奥へ向ける。

次の瞬間、闇を切り裂くように複数の気配が現れた。

枝葉がざわめき、木々の影から現れたのは

一一夜叉隊。

晋祐とは別の面々、三人の男女が姿を現す。


水瀬奏羽。結城凪。有麻理子。


バイオリンを持った女ー一水瀬が、じっと仲間たちを見回しながら冷笑した。


「......晋祐様はどこですか?まさか、こんな小娘たちに手間取っているなんて言わないでしょうね」


彼女の声は冷え切っていて、怒りよりも失望が滲んでいた。

次に前へ出たのは結城。彼はにっこり笑いながらも低く呟く。


「一条さんがいない時点で......もう答えは出ているでしょう」


その言葉に、有麻理子が苛立ったように銃を構える。


「ふざけなるのも大概してください!!晋祐先輩が......負けるわけないじゃないッスか!?

あの人は、夜叉隊の誇りなんすから!」


彼女の声は敵意と焦燥で震えていた。

彩姫たちは緊張に押しつぶされそうになりながら、気絶した恋と寧音を守ろうと必死に立ちふさがる。

ピーターが小さく息を吐き、心斗に目配せをする。


「.....やるしかないな。だが気を抜くな。

あいつらは......「負け」を認めない連中だ」


夜叉隊三人の視線が、鋭く彩姫たちへ突き刺さった。

森全体が息を潜めるような静寂に包まれるー。

___________________________

ざわめく森の奥から、足音が響いてきた。


「…っ、」


水瀬が誰よりも早く反応し、息を呑む。

現れたのは__ー条晋祐。そして、その隣を歩く女性。

長い黒髪を揺らし、気品を纏ったその姿は、夜叉隊の誰もが見間違えようのないものだった。


「......晋祐様......!」


夜叉隊の3人は、膝を折るようにして深く頭を下げる。声が震えていた。


「一条さん......」


結城凪もにこやかな笑みを消し、珍しく厳しい眼差しを向ける。


「......晋祐先輩」


有麻理子は複雑な目で晋佑を見つめた。

晋祐は母親の隣を歩いているーーだが一歩だけ引いて。

その背中は従う者のようであり、同時に距離を置こうとする者のようでもあった。

母親は首に妖しく光る魔道具を嵌められており、その瞳はどこか虚ろで冷たい。

しかし放たれる威圧感は本物で、ただ立っているだけで場を支配していく。

彼女は静かに視線を巡らせ、彩姫たちを射抜くように見据えた。


「......夜叉隊。我が望みを妨げる者を、排除せよ」


晋佑は何も言わなかった。ただ母の横顔を見つめながら、ゆっくりと剣の柄に手をかける。

森全体が張り詰め、誰もが息を止めた。空気が一瞬、凍りついた。

晋祐は母親の横に立ち、一歩を踏み出す。

その瞳には迷いと決意が入り混じっていた。


「…許せ」


静かに、しかし揺るぎない声だった。


その瞬間、晋祐は手にした刀を振り下ろす。

母親の首筋に刃が走る。光が走り、風が巻き起こり、周囲の木々の葉がざわめく。

母親は目を見開き、ほんの一瞬だけ人間らしい驚きの色を見せた。

だが、次の瞬間には虚ろな表情に戻り、静かに倒れる。

晋祐は深く息をつき、手から刀をゆっくりと下ろす。

森の中、静寂だけが残った。

その背後で、夜叉隊の面々は固まったまま。

誰も動けず、ただ晋祐の決意の重さを理解することしかできなかった。

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