誓い
晋祐の刀が弾かれ、彼の体が地面に叩きつけられた。
「ぐっ......!」
口から血を吐きながらも、すぐに刀を握る晋祐。
その目の前に、寧音がゆっくりと歩み寄ってきた。
狂気に満ちた瞳、悪魔のような笑み。
振り下ろされるはずの刃は一一彼の首を狙っていた。
「…殺る気か?…」
目を細めて笑ったその瞬間。
バキィッ!!
寧音の体が、木の根や草花の蔦に絡みつかれるようにして止まった。
否。止めているのは他ならぬ寧音自身ーー自然の力を無意識に呼び出し、自分の四肢を拘束していたのだ。
「っ......あ......あああああ!!」
暴走した体はなおも刃を振り下ろそうと暴れる。
だが、寧音の心は必死に抗う。
「私は......もう.....誰も殺さないって….....!!」
涙が頬を伝い、声が震える。
「自分を......強く持つって......決めたの!!!」
刀を握る腕が震え、拘束する蔦が食い込み、血がにじむ。
暴走した魔力はなお荒れ狂い、周囲を吹き飛ばすがーー寧音の意志だけは折れなかった。
その姿に、晋祐は床に伏したまま思わず目を見開いた。
「.....暴走を......自分で.....止めてやがる......?
バケモノが......?…それとも......」
彼の声は恐怖か、敬意か、判別のつかない震えを帯びていた。
寧音の全身を縛りつけるように蔦がきしみ、なおも暴走を押さえ込んでいた。
震える腕、止まらない涙ーーその雫が一滴、晋祐の頬に落ちる。
冷たいはずの涙が、なぜか熱い。
晋祐は息を呑んだ。
「(......こんな少女が......ここまでして......自分を止めてる......?)」
脳裏に蘇るのは、これまで切り捨ててきた命。
命令だからと疑わず従い、刃を振るってきた日々。
だが今一一目の前の少女は、自らを傷つけてでも「誰も殺さない」と叫んでいる。
「.............」
晋祐は静かに目を伏せ、長く息を吐いた。
手に握っていた刀が、力を失って地に落ちる。
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神代寧音との激しい戦いの末、風が止む。
息を整える寧音の前で、一条晋祐はまだ立っていた。
だが一一刀を、鞘に戻していた。
静かに、ゆっくりと。
晋祐は静かに目を伏せ、長く息を吐いた。
手に握っていた刀が、力を失って地に落ちる。
カラン......と乾いた音が森に響いた。
「......俺の負けだ」
そう呟いた声は、これまでの薄ら笑いも、皮肉もなく。
ただ静かで、重たく、諦めにも似た響きを帯びていた。
晋祐は俯いたまま、動かない。
その肩が、かすかに震えていた。
その言葉は、敗北ではなく一選んだ降参。
自らの意思で、刀を手放した瞬間だった。
晋祐の刀が地に落ちる音と同時に、寧音は無意識に拘束していた蔦を解いた。
その瞬間、糸が切れたように全身の力が抜け、瞳から光が消える。
「.....つ」
後ろへと倒れ込む寧音。
しかし地面に触れる直前、しっかりと支える腕があった。
「......お疲れ様。頑張ったな」
声の主は天袮だった。
彼は静かに彼女の肩を抱き、己の上着を脱いでその身体にそっとかける。
寧音はその存在に気づくことなく、穏やかな寝顔のまま気を失っている。
天袮は一度だけ俯き、唇を結んで小さく息を吐いた。
「......本当に、よく耐えたな」
夜の森に、彼の低い声が微かに溶けていった。




