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境界を歩く者たち  作者: 星渚歌唄
第3章 暴走と赦しの狭間

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麗怪

晋祐は霧の中でにやりと笑った。


「久しぶりの刀を交える相手だ。退屈させるなよ」


その言葉と同時に、三度笠を肩越しに投げ捨て、鋭い斬撃で襲いかかってくる。

刀身が霧を切り裂く音が、森に低く響いた。

寧音は構えを低くし、魔力で呼び出した刀を握りしめる。


「くっ......!」


斬撃を必死に防ぎながらも、隙を狙い反撃を試みる。

刀と刀がぶつかり、火花のような魔力の残滓が飛び散る。

森の木々がその衝撃で微かに揺れ、霧が波のように押し寄せる。


「どうしてこんなことを......!」


寧音は叫びつつも冷静さを失わず、刀を振るう手に全神経を集中させる。

晋祐は笑いを止めず、斬撃のリズムを変えながら攻撃を続ける。

だが、寧音は防御だけでなく、わずかな隙を見つけては刃を返す。

互いの技量がぶつかり合うその瞬間、霧の森は緊張の空気で満たされた。

___________________________

何度も刀を交わし、霧の森で激しい打ち合いを続けていたその瞬間、晋祐は突然、間合いを取り下がった。


「......え?」


寧音は思わず声を上げ、目の前の動きに戸惑う。

その隙間を縫うように、晋祐はつまらなそうな顔をして言った。


「退屈だなお前も」


言い終わるか終わらないかのうちに、森の奥の一角が轟音とともに爆発した。

土と木の破片が霧を巻き上げ、火花のように飛び散る。


「.....あそこには......お前さんの仲間もいたな」


その言葉に、寧音の顔は一気に真っ青になった。

体が硬直し、その場に立ち尽くす。

霧の中、煙と破片の匂いが鼻をつく。

心臓が張り裂けそうな速さで打ち、思考は一瞬、凍りついた。


ーー仲間に.....何か.......


刀を握った手がわずかに震える。

寧音は恐怖と焦りを抑えながらも、次の瞬間、行動に移るしかないと自分に言い聞かせた。

森の静寂を裂く爆発の余韻が、寧音の心をさらに緊張させた。

その瞬間一一寧音の体の奥で、プツン、と糸がちぎれるような音がした。

___________________________

胸の奥から、怒りとも恐怖ともつかない熱が一気に噴き出す。

全身の血が沸騰したかのように脈打ち、握る刀がわずかに震えた。


「......つ」


息が荒くなる。

頭の中で「守らなきゃ」という言葉だけが渦を巻き、ほかの思考を塗りつぶしていく。

霧が、揺らいでいる。

それは森のせいではない。寧音の体から溢れ出した魔力が、空気そのものを震わせていた。

晋佑はその様子を愉快そうに眺めながら、ロ元を吊り上げた。


「お.......いい顔になったじゃねえか」


寧音の視線は、もはや敵をまっすぐ捉えて離さない。

寧音の瞳から光が消え、代わりに禍々しい輝きが宿った。

彼女の力にまとわりつく魔力は、怒りの熱で形を失い、鋭い刃のような気配となって空気を裂く。


「ーーアアァアアアアアッ!!」


理性を失った叫びとともに、音は凄まじい速度で踏み込み、晋祐へと斬りかかった。

その一撃は、もはや人の剣ではない。重さも、速さも、殺意もすべてが異常だった。

晋祐は驚きながらも咄嗟に刀で受け止める。

衝撃で地面が割れ、木々が吹き飛ぶ。


「くっ!は、ははっ!ほら見ろ!あの紫髪の女よりも......










よっぽどバケモンだ」


声をあげて笑いながらも、晋祐の額には汗が滲んでいた。

暴走した寧音の斬撃は休むことなく襲いかかり、受け止めるたびに腕が連れ、骨に痛みが走る。


「いいぞ......もっと見せる!お前の中の"バケモノ”をよオ!」


寧音は言葉を失い、ただ獣のように吠えながら刀を振るい続ける。

その瞳には、もはや敵も味方も映ってはいなかったーー。

寧音の口元がゆっくりと歪み、笑みを形作った。

それは決して人のものではない、悪魔のような嗤いだった。


「ーーフフ.....アハハハハッ!!」


刀を振るうたび、紅いの魔力が迸り、木々は切り裂かれ、大地は深々と刻まれていく。

暴走した魔力が寧音の髪を揺らし、ポニーテールの先まで妖しく光らせる。

瞳は紅く燃え上がり、その姿は鬼神にも似ていた。

晋祐は必死に刀を合わせるが、そのたびに腕が痺れ、背筋に冷たい汗が伝う。


「チッ......こいつ......止まらねえな......」


寧音は魔法で本もの光の刃を作り出すと、自らの力と同時に叩きつける。

嵐のような斬撃。晋佑の頬をかすめただけで、木々ごと背後の地面が抉れた。


「フハハッ!!いい......もっと......もっとだ!」


寧音の声は、喜と憤怒が入り混じった狂気そのもの。

晋祐は楽しそうに剣を振るいながら、心の奥で理解していた。


ーーこの瞬間を、俺は一生忘れられねぇだろう。

後に彼は語ることになる。


「あの女......あの時の寧音は......今まで見たことがないくらい、妖しく.......美しい"バケモンだった」

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