夜叉隊 一条晋祐
視界の片隅に、何か異様な気配を感じた瞬間、寧音は立ち止まった。
霧の間から、石に座る男の姿が浮かび上がる。
ーー黒いコートを織り、三度笠をかぶった人物。
その顔は霧に隠れて見えないが、漂うオーラから只者ではないことが分かる。
寧音は手に魔力を集中させ、敵か味方か分からない相手に備える。
「.....誰?あの人......」
男は微かに身体を傾け、寧音の存在に気づいた様子もなく、ただ石の上に座ったまま静かに呼吸をしている。
森に漂う霧の中、二人の距離は遠くはない。
寧音の心は戒で張り詰めていたーーこの人物が敵なのか味方なのか、それすら分からないまま、次の行動を慎重に見定めるしかなかった。
寧音は霧に包まれた森の中、静かに足を運び、石に座る男に近づこうとした。
魔力を集中させ、万一の攻撃に備えつつ、一歩一歩、慎重に距離を縮める。
しかしその時、男の声が森に響いた。
「そうかい。残りは俺だけになっちまったのか......」
薄ら笑いを浮かべながら、男はゆっくりと体を起こす。
三度笠の下から覗く影の目が、霧の中で不気味に光った。
寧音の足が一瞬止まる。
ーーこの男、ただ者じゃない。
その静かな威圧感が、体の芯までじんわりと伝わってくる。
男はゆっくりと振り向き、寧音の姿を真正面に捉える。
霧越しでも感じるその視線に、寧音の心は緊張で引き締まった。
小さく息を吐き、寧音は次の一手を慎重に考える。
目の前の男は、ただ座っているだけではない一一確実に、戦いを見据えているのだ。
霧が立ち込める森の中、男がゆっくり振り向く。
三度笠の下から覗く影の目が、寧音をじっと見据える。
寧音は息を整え、警戒心を緩めずに叫ぶ。
「あなたたちは...何者!?何が目的なの!?」
その声に、男は一瞬眉を上げるだけで、表情は薄ら笑いのまま。霧の中、彼の姿は威圧的に浮かび上がり、言葉少なに答える。
「.....俺たちの邪魔をする奴は、もう.....いなくなったと思ったがな」
寧音は魔力を手元に集め、森の霧と木々を味方にして購える。
「あっそ!!でも残念!!私は......絶対に止める!」
男は軽く肩をすくめ、静かに、しかし確かな威圧感を持って寧音の方へ歩みを進める。
霧の中、二人の間に張り詰めた空気が広がる。
霧が立ち込める森の中、寧音は身を低く構えながらも、目を逸らさずに男を睨む。
「あなたたちは....何者!?何が目的なの!?」
男は薄ら笑いを浮かべ、肩を軽くすくめる。
「目的......さあねえ。俺が知りてえくらいだ」
その声は静かでありながら、霧に反響して森全体に響き渡る。
寧音の胸に、不穏な緊張が走る。
ーーこの男、余裕を崩す気はない。
しかし、ただの長な者ではないことは、全身から漂う威圧感が物語っていた。
寧音は魔力を掌に集中させ、次の行動に備える。
「.....絶対に、ここで止める!」
薄ら笑いの向こうに、敵の本当の狙いが隠されているーーその予感に、寧音は鋭い視線を男に向け続けた。
霧に包まれた森の中、男は薄ら笑いを浮かべたままゆっくりと立ち上がる。
黒いコートの下から、腰に差した刀に手をかけるその所作は、静かだが確実に威圧的だった。
「俺たちは一一夜叉隊。ある人の命令で動いている」
その言葉に、寧音の心臓が一瞬止まったような感覚が走る。
夜叉隊一一噂には聞いたことがある。リーダーの戦う姿がまさに鬼そのものだという噂の反社会組織の名だ。
そして「ある人」とは、誰なのか......。
霧の中、男の姿は不気味に大きく見える。
寧音は魔力を掌に集中させ、攻撃にも防御にも備え、緊張の糸を張り詰める。
「.....命令を受けて、無実の人間を襲う.....?
何のために…?」
男は微かに首を傾け、寧音を見下ろすように立つ。
刀を握る手に力を込めるその姿は、戦いの準備が整っていることを示していたーー
霧が立ち込める森の中、男__一条晋祐は刀を握ったまま間合いを詰める。
「俺の名は一条晋祐」
その刹那、刀が光を帯びるように振り下ろされる。
寧音は魔力を掌に集中させ、刀の軌道を封じる結界を瞬時に展開した。
しかし、刀は想像以上の速さと重みで襲いかかる。
「くっ......!」
寧音は必死に刀を防ぎながら、反撃のチャンスを伺うが、防ぐだけで精一杯だった。
刀の衝撃が腕を伝い、体中に振動として走る。
霧の中、息が荒くなる。
攻撃を受け止めながらも、寧音は冷静に考えるーー
この男の攻撃力を見極め、魔力の使いどころを間違えれば、すぐに形勢は不利になる。
刀の軌道をずらしつつ、寧音は次の一手のタイミングを必死に探る。
森に張り詰めた空気の中、戦いの緊張が最高潮に達する。
刀が霧の中で光を帯び、斬撃の軌道が迫る。
寧音は必死に魔力で刀を受け止めながら、声を張り上げた。
「どうして.......こんなことするの!!」
「あなたにとって、ある人って......どれほど大切な人なの!!」
斬撃の衝撃が腕を伝い、息が詰まりそうになる。
しかし、寧音の瞳は揺らがないーー怒りと悲しみ、そして問いかけの意思が混ざり合い、刀を振るう晋祐の姿を真っ直ぐに見据える。
晋祐は薄ら笑いを浮かべたまま刀を振り下ろす。
「大切......だと?ふっ......それはお前には関係ない」
寧音は防ぎながらも魔力を掌に集中させ、心の奥で次の反撃のタイミングを探る。
刀を防ぐたびに、彼女の怒りと問いかけは強くなり、霧に包まれた森に響き渡った。
ーー大切なものを守るために私は絶対に立ち止まれないーー
寧音の叫びが、森の霧を震わせるようにこだました。
___________________________
刀の衝撃を受け止めながら、寧音は眉をひそめる。
ーー.....あれ?今、相手.....魔法を使っていない......?
振り下ろされる刀は、確かに重く鋭い。しかし、刀身や斬撃の軌道に魔力の波動は感じられない。
晋祐はただの人間の技量だけで、ここまでの威圧と攻撃力を放っているのだ。
寧音の心臓が一瞬跳ねる。
ーーこんな相手......防ぎきれるのか!?
刀が再び迫る。
寧音は防御に集中しつつ、心の中で冷静に分析を始める。森に漂う霧の中、寧音の瞳は鋭く光る。
相手の技量を認識した瞬間、彼女の戦闘意識はさらに研ぎ澄まされていった。
ーー魔法だけじゃなく、自分の力と判断だけで......守り抜かなくちゃ。
刀の音が霧に響き、森の静寂が戦いの緊張で震える。
寧音は一瞬、目の前の刀を見据えたまま、ため息混じりに間合いを取り直す。
「あんまり......自信ないけど......」
小さく呟くと、掌に魔力を集中させ、瞬間的に刀を呼び出した。
刀の輝きが霧の中で鋭く光る。
そのまま、魔法で服装も変化させる。
髪はすっきりとポニーテールに結い上げられ、胸にはサラシを巻き、下は緋袴に変わった。
戦いのために整えられた装いは、普段の柔らかな印象とはまるで別人のようだ。
「こう見えて......昔は、剣士とか憧れてたの」
霧の中で力を握り直す寧音の目には、ほんのわずかに戦士としての誇りと決意が宿る。
刀の先端が霧を切り裂き、森に張り詰めた空気を震わせる。
ーー守るべきものがあるから、私は戦う。
間合いを保ちながらも、寧音は次の動きを慎重に見極めようとする。
目の前の晋祐一一人間の技量だけで立ちはだかる強敵に、彼女は再び挑む覚悟を決めた。




