護り人
寧音はしゃがんだまま、壁にもたれ、天袮の言葉を思い返していた。
「ずるいよ......」
その時、屋上の鉄扉がゆっくりと開く音がした。
彩姫とピーターが現れ、二人の視線が自然と寧音に向く。
「寧音、大丈夫?」
彩姫は駆け寄りながら声をかける。
その声に、寧音は少しだけ顔を上げ、涙で光る瞳を彩姫に向けた。
「うん......でも、天祢くんが.....」
言葉が詰まり、寧音は小さく肩を震わせる。
ピーターは柔らかく微笑み、寧音の背後からそっと手を置いた。
「大丈夫、今は俺たちがいる。彩姫も神代ちゃんも、一緒だ」
彩姫は寧音の手を握り、力強く頷く。
「そう!もう一人じゃないよ、寧音」
寧音は少しだけ笑みを浮かべる。
「ありがとう......彩姫、ピーターくん.....」
風が屋上を吹き抜け、三人の間に小さな安堵の空気が流れる。緊張と不安で固まっていた胸の奥が、少しだけ柔らかくなった。
彩姫は決意を込めて言った。
「よし、じゃあ私たち、これから一緒に管理人の噂を探そう!」
ピーターも頷く。
「うん、三人でなら大丈夫。俺たちならきっと、上手くやれる」
寧音は深く息をつき、目の奥にわずかに光を取り戻した。
「うん.......一緒に、頑張ろう」
屋上に残る昼の光は、三人の小さな決意を優しく照らしていた。
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放課後の廊下で雄叫びが響く。
「紫魔女!!こっちだーー!」
光は急に身を低くし、全力で彩姫に飛びかかってきた。
その動きには力強さと素早さがあり、放課後の静かな廊下に鋭い気配を放つ。
だが、彩姫はわずかに体をひねり、ヒョイっと軽やかに攻撃をかわした。
その動きは自然で、まるで日常の一部のように無駄がなかった。
ピーターは横で軽く眉を上げる程度で、まるで何事もないかのように彩姫を見守る。
「.....さすがだな、彩姫」
しかし、寧音は目を大きく見開き、思わず声をあげそうになる。
「わ.....わぁ.....すごい......!」
初めて見る彩姫の戦闘能力に、胸が高鳴るのを感じた。
光は攻撃をかわされた瞬間、わずかに歯を食いしばり、彩姫を睨みつける。
「.....くっ、な、なんだその動き......!」
彩姫は軽く肩をすくめ、少しだけ笑みを浮かべる。
「やるなら、もっとちゃんと来てよ」
その瞬間、廊下に緊張感が漂い、昼間の穏やかさとは別世界の空気が三人を包んだ。
寧音はまだ息を整えられず、彩姫の背中を見つめたまま、小さく呟く。
「......本当に.....普通の人じゃない.....」
光の拳から雷が渦巻き、廊下の空気が一瞬にして青白く光った。
「紫魔女!!今度こそ!」
雷のエネルギーが彩姫に向かって襲いかかる。
だが彩姫は落ち着いた動きで一歩後ろに下がり、雷を軽やかに跳ね返した。
「......出直してきなよ」
彩姫の口元に浮かぶ笑みは、どこか余裕を感じさせるものだった。
光は悔しそうに歯を食いしばり、雷を握り直す。
「......くっ、次こそ.....!」
その隙に、ピーターは寧音の肩にそっと手を置き、静かに説明する。
「神代ちゃん、光はね?彩姫より強くなりたいんだって。だから彩姫に会うたび、こうして戦いを仕掛けてくる。でも、毎回負けて、結局は梅雨が駆けつけるんだ」
「梅雨…?」
「うん。光の友だちだよ」
寧音は目を大きく見開き、驚きとともにその日常の光景を想像する。
「......そんな、毎回......?」
ピーターは軽く笑いながら頷く。
「うん、彩姫にとっては日常茶飯事。驚くことじゃない」
彩姫は雷を跳ね返したまま、光を軽く見やる。
「......まだまだね、光」
光は一瞬顔を曇らせるが、怒りと悔しさを滲ませながら次の行動を考える。
その間にも、寧音の胸には、彩姫の圧倒的な強さと、ピーターの冷静さが深く刻まれた。
光の雷撃が廊下を裂き、彼の体を直撃した。
「ぐっ......!」
その場にガタリと倒れ込む光。雷の残像がわずかに揺らめき、廊下に静かな余韻を残す。
「......光っ!」
寧音が思わず駆け寄ろうとしたその瞬間、後方から素早い足音が近づいてきた。
一歩一歩、確実に距離を詰めるその足取りは、ただの生徒のものではない。
「僕が......!」
瞬間、梅雨の姿が現れ、倒れた光の元に駆けつけた。
制服の裾を揺らしながら、彼は片手を光の肩に置き、素早く状況を確認する。彩姫は少し微笑みながら、光の雷を跳ね返した余韻を感じつつ、ピーターは淡々とその場を見守る。
寧音は驚きとともに、梅雨の素早さと頼もしさに目を丸くする。
「......すごい.....!」
光はまだ地面に横たわり、苦悶の表情を浮かべながらも、梅雨の手によって少しずつ落ち着きを取り戻す。
廊下には、戦いの後の静けさと、三人の生徒の小さな緊張が残ったまま、午後の光が差し込んでいた。
梅雨は息を整えつつ、倒れた光を軽々と肩に担ぎ上げた。
「しっかりして光!何回やったら気が済むんだよもう!!医務室に行くよ!」
その力強い声に、彩姫とピーターも少し緊張しながら後ろからついていく。
だが、寧音は慌ててその手を握り、梅雨の動きを制した。
「ちょっと.....待って!そのまま医務室に行かないで!」
梅雨は驚いて立ち止まり、振り返る。
「え、でも.....光は.....」
寧音は必死に首を横に振り、眉を寄せる。
「光くんは......その…私に任せてくれないかな?」
梅雨は少し戸惑いながらも、仕方なく光を慎重に下ろす。
「.....わかった、じゃあここで一緒にいる」
寧音はこくりと頷きそっと光の手に触れ、柔らかい声で呟く。
「大丈夫.....私に任せてね」
掌から青く輝く光が溢れ、光の体を包み込む。
その瞬間、光の腕や胸に刻まれた雷の傷が、みるみるうちに消えていく。
血の赤が消え、肌は元の滑らかさを取り戻した。
「......す、すご......」
梅雨は思わず目を見開き、彩姫も口をわずかに開けたまま、魔法の進行を見守る。
ピーターも普段の冷静さを少し崩し、目を細めて驚きを隠せなかった。
「......これは......ただの回復じゃない......」
彩姫が小声で呟く。
「ここまで古傷や深い傷も治せる魔法.....。神代ちゃん、本当にすごい.....!」
寧音は少し恥ずかしそうに微笑みながらも、光の肩に手を添えて力を抜く。
「もう大丈夫」
光はふっとまぶたを開け、ぼんやりとした視界の中で光を浴びる廊下を見た。
その瞬間、目に飛び込んできたのは彼のすぐ傍に立ち微笑む寧音だった。
「......もう大丈夫だよ、光くん」
その優しく穏やかな声、柔らかい微笑み、そして包み込むような雰囲気。
光は息をのんだ。胸が高鳴り、視界の奥で何かが一瞬で煌めいた気がした。
「......な、え.....あ.....」
光の心に、感情の嵐が一気に押し寄せる。
戦闘で受けた雷の痛みも、緊張も、すべてが消え、ただ目の前の寧音だけが光り輝いて見えた。
意識がはっきりすればするほど、胸の奥に何か熱いものが湧き上がった。
それは、治してもらった驚きと同時に、初めて見る感情一一恋心ーーだった。
彩姫は横でその光景を微笑みながら見ており、ピーターも静かに頷き、二人の関係の始まりを密かに感じ取った。
光はまだ動揺していたが、心の奥底で確かに決まった思いがあった。
ーー「この人のことを、絶対に守りたい」
寧音の笑顔が、光にとってただの救いではなく、胸を打つ運命の出会いであることを、誰も知らなかった。
光は目の前の寧音を見つめたまま、体がまるで凍りついたかのように固まった。
口を開こうとするが、言葉がうまく出ない。
「ど、だ、だ大丈夫っス!!!」
声はかすかに震え、顔には赤みが差している。
普段の陽キャで自信満々な姿はどこにもなく、まるで子どものように緊張していた。
梅雨はその様子を少し離れた位置から見つめ、眉をひそめる。
「何その反応……普通に引くんですけど……」
彩姫はクスリと笑みを浮かべ、ピーターも静かに横で目を細めていた。
光の純粋さ、そして寧音に向かう初々しい気持ちが、周囲の空気を少し柔らかくしている。
寧音はそんな光に気づかず、安心した表情で笑いかける。
その笑顔に、光はますます胸がドキドキしてしまった。
廊下の午後の光は、戦いの後の静けさと、初めて芽生えた淡い恋心で、ほんの少しだけ温かく感じられた。
彩姫は光のカチコチに固まった姿を見て、思わずにやりと笑った。
「ねえ、光。そんなに寧音のこと見て、どうしたの?」
光は一瞬で目を泳がせ、顔を真っ赤にして俯く。
「な、なんでもねーよ......」
彩姫は腕を組み、クスッと声を漏らす。
「ほら、手もガチガチじゃん。やっぱり気になってんじゃん」
光はさらに体を固め、言葉を探す。
「......うるせー!!べ、べべべ別に見てねぇよ!!!」
寧音は少し戸惑いながらも、仲睦まじい2人をみて微笑む。
ピーターは横で静かに見守りつつ、彩姫のからかいにほんの少し苦笑い。
梅雨は少し後ろに下がり、光の初々しさに驚きを隠せなかった。
光は深く息を吐き、照れや緊張を少しずつ解きながら、寧音の方に視線を向けた。
「......あの自己紹介まだでしたよね…。俺!中等部3年の桐生光っていいます!よろしくお願いするッス!!」
寧音は少し驚いたように目を見開くが、すぐに柔らかく笑みを浮かべた。
「はじめまして。私は神代寧音っていいます。改めてよろしくね光くん」
光は頷き、まだ少し照れたように目を逸らしつつも、丁寧な口調で続ける。
「ウッス!!よろしくお願いするッス!先輩」
彩姫は横でクスクスと笑い、ピーターも静かに微笑む。
梅雨は後ろから少し離れた位置で、光の初々しい自己紹介を見守っていた。
その瞬間、光の心の中では、寧音に対する気持ちがさらに強く膨らんでいくのを感じていた。
ーー「この先輩のことを、絶対に守りたい」
廊下の午後の光は、戦いの余韻と共に、少しだけ恋の予感に染まっていた。
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昼休みの静かな廊下で、彩姫は光に近づき、少し身を乗り出して声をかけた。
「ねぇ光、ちょっと聞きたいんだけど.....管理人について何か知ってる?」
光は眉をひそめ、考え込むように視線をに向ける。
「管理人〜?…いや、あんま知んねぇな....」
彩姫は不満そうに唇を噛み、続けた。
「そっか。
でも知ってる範囲でいいから教えてほしいな」
その瞬間、梅雨は後ろで小さく目を見開き、光の背中に隠れるようにして身を寄せた。
普段は戦闘の話や噂話などには同様しない彼の行動に光は少し驚きを隠せなかった。
しかし光は少し息を整え、冷静に彩姫に説明を始める。
「......管理人についてはあんましんねーけど…クラスの奴らは普通の人間の目には見えない存在で、力も普通じゃない。知ってる範囲だと、魂や時間、天候を操るやつがいるとかなんとか言ってたな」
彩姫はそれを聞くと小さく笑って、軽く会釈をした。
「ありがとう、光。じゃあ私たち、ちょっと回ってみるね」
ピーターや寧音も頷き、三人はそのまま教室を後にした。
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光は彩姫たちが去った後、後ろで小さく身を潜めていた梅雨に目を向ける。
「なぁ.....梅雨。なんでさっき隠れてたんだよ?」
梅雨は少し困ったように笑い、頭のピンを触りながら小さく肩をすくめる。
「な、なんでもないよ.....別に驚いたとかじゃないし」
光は眉を少しひそめたが、あえてそれ以上は突っ込まず、梅雨の表情を静かに見つめた。
ーーそれでも、彼が少しだけ普段と違う様子を察するのに時間はかからなかった。
廊下には午後の柔らかな光が差し込み、二人の間に小さな沈黙が落ちる。
光は梅雨の頬を軽く捻り、くすぐるように引っ張った。
「大丈夫じゃねぇなら笑うな。
なんかあったら俺に言えよ、梅雨」
その瞬間、光の顔には太陽のような笑みが広がる。
普段の戦闘や日常での鋭い表情とは違い、自然で柔らかい笑顔に、梅雨は思わず顔を赤らめた。
「わ、わかったよ......」
と、梅雨は少し照れながらも、安心したように小さく頷いた。
光はそのまま、後ろから彩姫たちが戻る気配を感じ、再び普段の落ち着いた表情へと切り替えた。
ーーそれでも、梅雨の心にはほんの少し、温かさが残ったままだった。
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翌日
寧音は机に向かい、一限の準備を黙々と進めていた。
教室に静けさが漂う中、突然、机がドンッと強く叩かれた。
「.....っ!?」
寧音は驚きの声をあげ、目線を上げる。
そこに立っていたのは天袮だった。
鋭い目で寧音を睨みつけ、低く冷たい声が教室に響く。
「迎えに行くから、家でいろって言っただろ」
しかし寧音は顔色ひとつ変えず、視線を机に戻したまま無視する
その態度に、天祢の眉がわずかに険しくなる。
クラスメイトたちは二人の空気に気付き、少しざわめきながらも口をはさめずに見守るだけだった。
天袮はしばらく寧音を睨みつけ、無言のまま鋭い視線を送り続ける。
だが寧音は微動だにせず、静かに教科書のページをめくり続けた。
ーーその冷静さに、天袮もさすがに苛立ちを隠せない様子だった。
教室の空気は一気に張り詰め、彩姫もピーターも天祢の怒りの前では言葉を失っていた。
二人は視線を交わすことすらできず、ただ息をひそめてその場に立ち尽くす。
そんな中、寧音は静かに顔を上げ、冷静な口調で呟いた。
「ほっといてよ」
その言葉は低く、けれど揺るぎない強さを持って教室に響いた。
天袮はその短い一言に一瞬息を止め、寧音の冷静さと芯の強さに軽くを寄せる。
彩姫は心の中で「さすが寧音......!」と感心しつつも、口には出せず、ただ見守るしかなかった。
ピーターもまた、静かに彼女の強さを認めつつ、その場の緊張を感じていた。
教室のざわめきは止まり、三人は天袮と寧音の間の静かな対峙をじっと見つめ続けた。
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授業中、天袮は月のような瞳で寧音をじっと見つめ続けた。
寧音がノートに書き込む手元や、ちらりと窓の外を見やる瞬間さえも、目を離さない。
彩姫やピーターも、そんな天袮の視線に気づいてはいるが、さすがに口を出せずにじっと見守るしかなかった。
授業が終わると、天袮は静かに立ち上がり、まるで影のように寧音の後ろをつけ回す。
廊下でも教室でも、休み時間のほんの数分でも、彼の存在は離れず、まるでストーカーのようにぴったりと影を落とす。
寧音は冷静を装いながらも、心の奥で小さく眉をひそめる。
「......ほんとにほっといてほしいんだけど」
しかし天袮はただ黙ってその後ろ姿を追い、何も言わずに、彼女を守るかのようにじっと距離を保ち続けるのだった。
その時廊下の端から、ピーターが静かに歩み寄った。
彩姫に頼まれていたのだーー天袮と寧音を離してくれと。
「天祢くん、少し離れてもらえるかな?」
ピーターは柔らかな声で、しかし確固たる意思を込めて言った。
天祢は振り向き、月のような瞳でピーターを一瞥する。
「......邪魔をするな」
だがピーターは微笑みを崩さず、視線をそらさずに続ける。
「邪魔してるわけじゃないんだ。彩姫に頼まれたんでね。それに…寧音ちゃんも、少し自由が欲しいだろう?」
その言葉に、天祢はわずかに目を細める。
しかし、ピーターの落ち着いた雰囲気と真剣さに押され、仕方なく一歩下がる。
寧音は少し驚いた顔をしながらも、ホッと息をつき、ピーターに小さく感謝の視線を送った。
ピーターはそれを受けて軽く頷き、彩姫の顔をちらりと見やる。
ーー彩姫の頼み、ちゃんと果たしたぞ、と心の中でつぶやきながら。
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昼休み、教室の片隅で二人きりになった天袮とピーター。
周囲の喧騒は遠くに感じられ、まるで時間が少しだけ止まったかのようだった。
ピーターは静かに、落ち着いた声で切り出した。
「どうして、そこまで神代ちゃんに付きまとってるの?」
天袮は一瞬を止め、月のような瞳でピーターを見返す。
口数は少ないが、その瞳には複雑な感情が浮かんでいた。
「.....守ってるだけだ」
低く、冷静に、しかしどこか揺らぎのある声。
「......危険に晒させたくないだけだ」
ピーターは軽く頷き、天袮の言葉を静かに受け止める。
「なるほどね。でも、付きまといすぎると神代ちゃんも困るかもしれないよ」
天袮は答えず、ただ無言で箸を進める。
ピーターはその沈黙を尊重しつつ、心の中で小さく呟いた。
一一強さも、優しさも、全部神代ちゃんのためなんだな、と。
天袮は箸を置き、視線を少し遠くに向けたまま静かにつぶやく。
「嫌われても......護りたいんだよ。もう二度と......あんな目に合わせねえように」
その言葉を聞いたピーターは、思わず自分と重なる部分を感じてしまった。
少し微笑みを浮かべ、穏やかに言う。
「天袮は俺に似てるな」
天袮はその言葉に一瞬、箸を止めて驚いた
ーーピーターの一人称が「僕」から「俺」に変わっていることにも気づき、心がざわついた。
「お前......裏表激しいやつか?」
天袮は眉をひそめて問いかける。
ピーターは軽く肩をすくめ、少し笑って答える。
「失礼だな!?」
二人の間に、一瞬の静かな笑いが流れ、昼休みのざわめきも遠くに感じられた。
その微妙な距離感の中で、天祢の心には少しだけ、ピーターへの頼と理解が芽生え始めていた。
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教室に戻った彩姫と寧音の目に飛び込んできたのは、天袮とピーターが笑いながら談笑している光景だった。
二人の表情は自然で、普段の鋭い天袮の面影は消え、柔らかな笑顔がそこにあった。
「......なんだあれは......」
彩姫は思わず小さく呟く。
教室の女子たちの視線も釘付けになり、ざわざわと小さな声が漏れる。
廊下に立つ女子たちも、教室の窓越しにその二人の笑顔を見て息を呑み拝む。
さらには廊下にいた女子教師までもが目を奪われて微笑みを隠せずに拝んでいた。
寧音も彩姫も、二人の自然な笑顔に少し驚きながらも、その場の空気が一瞬柔らかくなるのを感じた。
ピーターと天袮、二人の強者が見せる、普段は滅多に見られない表情一ーその光景に、教室全体が思わず心を奪われていた。
彩姫は小さく肩をすくめ、微笑みながら呟いた。
「お互い、苦労するね」
寧音も少し照れくさそうに笑いながら、柔らかく答える。
「うん......」
二人はその瞬間、教室の片隅で静かに笑い合った。
天祢とピーターの距離感や強さに圧倒されつつも、同時にその二人が少しずつ心を開いていく様子を目の当たりにし、安心感を覚える。
彩姫も寧音も、心の中で同じ思いを抱いた。
ーーやっと、二人と仲良くなれて良かった。
教室のざわめきや周囲の視線も気にならない。
ただ、穏やかで小さな幸福感が、二人の心を温かく満たしていた。




