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境界を歩く者たち  作者: 星渚歌唄
第2章 7人の管理人

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最後の出口

その時だった。

牢の鉄格子越しに、モミとヌヌが駆け寄ってきた。

彩姫は思わず息を呑む。二人の瞳には、必死の決意が宿っていた。

どうやら、彩姫が捕まっている間、ずっと探し続けてくれていたらしい。


「彩姉!....見つけたよ!」


ヌヌの声は少し震えていたが、確かな力強さがあった。

モミも同じように頷き、牢の前で力強く立っていた。

そのとき、彩姫の目に映ったのはーーユイの未完成の絵に描かれた「扉」だった。


「よく調べましたねぇ!」


ユイは目を輝かせ、まるで小学生のように感心している。

しかし、その表情の裏には、彼女特有の悪戯っぽさがちらついていた。


「え?どういうこと?」


彩姫が尋ねると、ユイは少し照れたように顔をそむけた。


「実はですね、あの扉....私が美術室に置きっぱにしてたんですぅ〜」


「.......は?」


彩姫の眉がきゅっと寄る。


「ええ、だからバレちゃったってだけなんですけどお」


ユイは軽く肩をすくめ、無邪気に「すごーい!」とでも言うように笑った。


しかし…

モミとヌヌ日く、その扉はもう美術室には存在していないという。

彩姫は思わず結衣一一偽りの管理人一ーに問いかけた。


「ねえ、その扉、どこにあるの?」


結衣はふっと大きく息を吐き、まるで観念したかのように、諦めたように答えた。


「その扉は一一空に現れますよお」


その言葉を聞いた瞬間、彩姫の胸は高鳴った。

空に一一自分たちを救うための出口が、存在するというのだ。

牢に閉じ込められた絶望の中、希望の光が、静かにだが確かに差し込んできた。

彩姫は深く息を吸い込み、モミとヌヌの顔を見上げる。


「行こう。絶対、ここから出るんだーー!」


三人の瞳には決意が宿り、風が檻の隙間から差し込み、まるで背中を押すかのように揺れた。

___________________________

しかし、その瞬間だった。

三人が希望に目を輝かせたその背後一一

空気がひんやりと変わる。風が止まり、世界の色彩まで少し沈んだかのように見えた。

静かに、音もなく現れたのは一一白い狐面をつけた女。

長く黒い髪が肩を滑るように垂れ、柔らかな布が風に揺れる。

その姿だけで、空気に異様な緊張を生み出す。


「ーーこれが…狐女!!」


彩姫は心の中で呟いた。

かつて噂に聞いた "管理人の中でも最も恐れられた存在”が、今ここに立っている。


「あなたの願い、叶えましょうか?」


その声はまるで優しい母のように柔らかく、彩姫の耳に甘く響く。

だが、その温かさは偽りの光に過ぎなかった。

言葉の端々に漂う冷たさが、骨の奥までぞくりとした寒気を走らせる。


「魂と引き換えに、永遠にこの世界で安らかに。」


静かに、しかし断固とした口調で告げるその言葉は、甘美でありながら恐怖の香りを帯びていた。

その眼差しは、慈愛に満ちているようで、同時に全てを支配する力を秘めている。

彩姫は一歩後ずさる。

モミもヌヌも、緊張で肩を固め、瞳を大きく見開いていた。

風に揺れる狐女の布が、まるで世界そのものを包み込むかのようにゆらめく。


「一一私たちの希望を、奪いにきた....?」


彩姫は心の中で震えながら、強く拳を握る。

あの扉へ向かう道はまだ目の前にある。

だが、目の前の存在は、希望を永遠に奪う化身のように立ちはだかっていた。

背筋が凍るような静寂の中、狐女は静かに一歩前に進む。

その歩みは、まるで時間そのものを押し戻すかのように重く、彩姫たちの心に確実な圧迫を与えていた。


扉の前に、もう一人の人影が立ちはだかっていた。

水色の髪が微かに光を受けて揺れ、無言で彩姫を見つめる。

その瞳には、普段見せる軽妙さはなく、深い決意と苦悩が滲んでいた。


「.....どいて。私は行くよ。」


彩姫の声は、震えながらも真っ直ぐで揺るがない。

ピーターは静かに微笑む。

その笑みは、慰めにも嘲りにも似て、彩姫の胸をざわつかせる。


「君はもう十分頑張ったよ?

この世界なら誰も死なない。誰も傷つかない。

......それじゃダメなのか?」


彩姫は拳を握りしめ、必死に声を張る。


「"それじゃダメなのか?".....ダメに決まってんでしょ!!私の幸せは、作られたものじゃなくて、自分で掴みたいの!!」


その言葉に、狐女の狐面の奥の瞳が光を帯びる。

微笑みは冷たく、そして確信に満ちていた。


「ならば、力づくで止めるしかないわね」


空間が音もなく震え、風がねじれる。

絵の具のように黒い霧が広がり、壁や床、天井までもが歪んでいく。

彩姫たちの周囲は、幻想の世界が現実を侵食するかのように変容した。

管理人たちの本領一ーその力の一端が、ついに解放される瞬間だった。

ピーターの表情が揺れる。

愛と後悔と、祈りのような決意が混ざり合い、瞳に滲む。


「ごめん、彩姫。君が壊れる前に.....僕が君を止める」


その言葉と同時に、静かだった空気が爆発するように裂ける。

黒い霧の中で光が弾け、彩姫の髪を揺らし、衣服をかすめる。

風に乗るのは、恐怖だけではない。

希望と絶望、愛と決意一一すべての感情が入り混じった、戦いの予感だった。


ーー戦いは、ここから始まる。

目の前に立つのは、友か、敵か、それともその両方か。

だが彩姫はもう迷わない。

己の手で、己の幸せを掴むためにーー。



空間の歪みが少しずつ収まり、黒い霧が霧散していく。

その隙間を縫うように、狐女は静かに身を引いた。

言葉は一切発せず、ただその場の空気を

そっと譲る一ーまるで戦場から身を引く王のように。

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