表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/85

唸り声①

1月の投稿は不定期となります。


 無数の馬車が縦列を組み、土煙を上げながら進んでいた。


 この隊列は、野営地を引き払い、軍の本営へと向かうドワッフ正規軍。そして周囲の農村から保護された避難民たちを移送する混成部隊だ。 護送部隊にしては、随伴する兵士の数が多い。護送部隊以外に、何か目的があったのか? 案外、加工技術者の保護を最優先にしているだけかもしれないと納得する。まあ、そうだとしても―――、


(・・・厳重なことだ)


 アルドは馬に乗りながら、その長い隊列を後方から眺めていた。彼が乗る馬の鞍には、もう一人―――小柄な少女、ココミがちょこんと座っている。アルドの腕の中に納まるその姿は、傍から見れば仲睦まじい親子のようだ。アルドは愛おしさを込めて、ココミのフードの下にある猫耳をわしゃわしゃと撫でた。


「大丈夫か、ココミ? 無理せず、前方の客車にでも移ったらどうだ」

「むぅ、子ども扱いしないでください。大丈夫です! ここが良いんです!」


 ココミは抗議するようにアルドを見上げ、それからキュッと手綱を持つアルドの腕を掴んだ。


「それに、ここならアルドさんの背中を守れますから」

「ん~、そうは言ってもなあ」


 アルドたちが位置しているのは、隊列の最後尾。しかも、あの「黒嘆石」を厳重に封印した装甲荷馬車のすぐ後ろだ。通常、重要物資は中央で守るのが定石だ。だが、この配置はアルド自身が提案したものだった。


『黒嘆石を狙う者がいれば、後方から襲うはずだ。ならば、俺が後ろで待ち受ける。前方の民を守り、後方で敵を切り捨てる』


 もっともらしい理屈を並べたが、本音はシンプルだ。政治的な利害関係が複雑すぎるこの状況下、「石を狙って襲ってくる奴が、敵だ」と単純化したかっただけだ。俺一人ならどうとでもなる。だが、ココミを巻き込むのは気が引けた。


 しかし、ココミの瞳に迷いはない。彼女もまた、「私も戦うのだ!」と覚悟を決めている。その意思を無下にはできない。


「・・・分かった。だが、無理はするなよ」

「はい!」


 アルドは苦笑しつつ、話題を変えた。


「そういえば、一つ確認しておきたいんだが。ギルドルールでは『ギルド通信』は週に一回のみという縛りがあったよな? 以前、ドルフ村の襲撃を知らせる時に俺が使っちまったが、あれはルール違反じゃないのか?」

「あ、それは大丈夫です。緊急事態での使用は例外規定がありますから」


 ココミは説明する。


「誤解してほしくないんですが、回数制限があるのはケチっているわけじゃないんです。ギルド通信は『ギルドカロリック(魔力)』を消費します。頻繁に使うと、いざという時に『とっておき』のギルド魔法が使えなくなってしまうので・・・」

「ああ、なるほどな。ドルフ村を出るときに言っていた『とっておき』ってのは、それのことか」


 MMOのゲームと同じく、強力なスキルにはコストがかかるということか。リソース管理の重要性を理解し、アルドは納得して頷いた。


 会話が途切れると、アルドの視線は自然と目の前の装甲馬車へと向いた。禍々しい気配を放つ黒嘆石。昨夜、ルルナを通じて得た情報が脳裏をよぎる。


(マジルに向かったユキナたちの情報によると・・・魔物の心臓部に『金属のキューブ』がある、か)


 ユキナの指示で若者によって運び込まれたそのキューブを、ルルナが分析したという。カロリックを与えると黒色に変異する性質。それは、この黒嘆石と酷似している。


「アルドさん」


 ココミが声を潜め、懐から小さな包みを取り出した。中にあるのは、先日倒した亜獣の躯から回収した小さな金属片だ。


「・・・やっぱり、同じです。黒嘆石と、この金属片。構成素材が酷似しています」


 ココミの瞳が、一瞬だけ複雑な幾何学模様を描く『鑑定眼』の光を帯びる。


「あまり『眼』を使うなよ。体に障る」

「はい、ほんのちょっとだけです。・・・でも、これってつまり、亜獣は自然発生した魔物じゃないってことですよね? 誰かが、この石のようなものを埋め込んで・・・」


 ココミが言い淀む。亜獣に動力を組み込んだのか、それとも亜獣そのものを作り出したのか。いずれにせよ、荒唐無稽で、そしておぞましい仮説だ。


(自然発生したモンスターじゃない。誰かが意図して作った兵器か)


 アルドが溜息をつこうとした時、前方から一騎の馬が近づいてくるのが見えた。参謀のベラトだ。彼はアルドたちの横に馬を寄せると、その歩調を合わせた。


「アルド様。このような土煙の舞う後方の配置で、申し訳ございません」

「いや、俺が進んで選んだ場所だ。気にしないでほしい」

「はっ。・・・それと、アルド様。感謝を述べる機会を逸しておりましたが、改めて礼を申し上げさせてください」


 ベラトは馬上で居住まいを正し、深く頭を下げた。


「愚息のハルトを助けてくださり、本当にありがとうございました」

「ハルト・・・ああ、あの時の伝令兵か。彼がベラト殿の息子だったとは」


 アルドは驚いたふりをして見せた。亜獣の襲撃の際、救援を呼ぶために走らせた若い兵士だ。


(なるほど。参謀の息子が同じ軍にいるか。軍議ではなく、こうして独りで来るところを見るに、公私混同をしない、厳格な男だな)


 アルドは千年前の社会人としての処世術をフル回転させ、穏やかに応じた。


「礼には及ばない。彼が無事だったのは、女神の加護と、彼自身の勇気によるものです。俺の方こそ、彼には感謝している。危険な任務を全うし、多くの命を救う繋ぎ役となってくれたのだからな」

「・・・! 英雄殿からそのようなお言葉を頂けるとは、ハルトも武人冥利に尽きるでしょう」


 ベラトの声がわずかに震える。厳格な参謀の仮面の下にある、父親としての顔が垣間見えた瞬間だった。


「アルド様。ハルトの父親として、そしてこの国の参謀として、何か礼をさせていただけないでしょうか」


 ベラトの申し出に、アルドは顎に手を当てて思案するふりをした。 商人トレドの商売許可など、すでに十分な便宜は図ってもらっている。だが、ここで固辞するのは逆に角が立つ。相手の顔を立てつつ、こちらの知りたい情報を引き出す機会かもしれない。


 アルドの脳裏に、道中で助けた技師ゲルドの言葉が蘇る。『西部研究所から、鉄鉱石の催促がうるさくてなぁ』と。


「ふーむ。なら、一つ、個人的な興味で教えていただきたいことがある」

「何なりと」

「道中で助けた技師ゲルドが口にしていたのだが、『西部研究所』とは、どのような場所なのだ?」


 その瞬間。


 ベラトの表情から感情が抜け落ちた。平然さを装ってはいるが、手綱を握る手に力が入り、瞳の奥が剣呑な光を帯びる。


「・・・西部研究所、ですか。アルド様は、どこまでご存知なのでしょう?」


 試すような声色。

 アルドはその変化を見逃さず、あえて飄々と肩をすくめた。


「いや、何も知らんよ。ただ、ドワッフ王国に入ってすぐに助けた技師が、そこへの納期がどうとか愚痴をこぼしていたのを思い出してな。優秀な技師が気にする場所となれば、さぞ高度な技術があるのだろうと気になっただけだ」

「そうですか。・・・帝国の使者としてではなく、アルド様個人の、技術への興味ということですね」


 ベラトの肩から、ふっと力が抜けた。 だが、その安堵こそが雄弁に物語っていた。 『西部研究所』には、同盟国である帝国にさえ知られてはならない、ドワッフ王国の―――あるいはもっと深い「何か」があるのだと。


読んで下さいまして、ありがとうございます。


もし気に入ったエピソードぎありましたら、リアクションを頂ければと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ