ドルフ村③
5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。
*GW期間の平日(5/1、2)は、午前と午後の計2回投稿(1日2回)します。
投稿時間は朝と夜を予定しております。
◇
ミアから村の歴史や地理的な立ち位置について一通りの話を聞くことができた。その内容を踏まえてアルドは今後の課題に思いを馳せる。あとは、タンスイが持ち帰るであろう周辺地域の情報が待たれるところだ。
「さて、と」
ロウが丁寧に入れてくれた蜂蜜水を一気に飲み干した。空になった木のカップを卓上に置いて、アルドは立ち上がった。隣で小さな椅子に座っていた村の長であるミアに、アルドは声をかける。
「ミア様、一緒に外の様子を見てまわらないか? ココミたちが復興作業を進めてくれているはずだ」
「はい、アルド様!」
ミアも元気よく返事をし、椅子からぴょんと降りる。そのやり取りを見守っていたロウ執事が、アルドに深々と一礼した。
「ミア様のこと、よろしくお願いします」
「ああ、任された」
アルドが応えると、ロウは部屋に残るユキナに向き直った。「ユキナ様、どうぞ書庫へご案内いたします」どうやらユキナは、この村に残されている古い記録にも目を通し、情報を余す所なく集めるようだ。
何か調べたい事でもあったのだろうか? 少し気にはなるが、今は村の復興状況の確認が最優先だな。
ミアから村の歴史について一通りの話を聞き終えたアルドは、午後の陽が差し込む中、彼女を伴って家屋の外へ出た。午前中に進められた復興作業の様子を、まだ見ていないミアに自分の目で確かめてほしかったのだ。
襲撃からまだ二日しか経っておらず、村の空気には焦げ臭さが僅かに残っている。しかし、午前中とは明らかに違っていた。半壊した家屋の瓦礫は撤去されてはいたが、まだ街路の石垣はは崩れたままだ。その崩れた石を仕立て屋の男が慣れない手つきで槌を振るい、指を打っては顔をしかめている。石垣の再利用を考えているようだ。それを見かねたドルフ村の苦境な男が、ぶっきらぼうに、しかし的確な動作で槌の使い方を教えていた。住民同士は協力し合い、このドルフ村を再建しようとしているのだ。村の開けた場所には、資材として再利用できる木材や石材が種類ごとに分けられて積まれていく。
資材が置かれている広場の反対側では、まだ昼をまわった時刻でもあるせいか、昼餉の光景が続いている。女たちが大鍋で沸かした麦粥を配り、人々は土埃にまみれながらも、互いの労をねぎらいながらそれをすすっていた。
(それにしても・・・)
アルドはその光景を見ながら、午前中の作業を思い返していた。
早朝からタンスイが調査で不在だったため、力仕事は重労働になることを覚悟していた。だが、いざ始めてみれば、瓦礫の撤去作業の大半はココミとユキナが驚くべき速さで片付けてしまったのだ。見た目は華奢な少女や女性だが、その膂力はアルドの常識をはるかに超えていた。
(やはりMMOのアバターというのは伊達じゃない。レベルが高いというやつか・・・千年前の常識では測れない力が、この世界には確かに存在しているんだな)
村の中央広場へ続く大通りに出ると、少し開けた場所でココミと数人の村人が集まって何やら話し込んでいるのが見えた。ココミの頭上には、ルルナの外部接触体である蒼綿毛もふわふわと漂っている。
「ん? 何か揉めているのか?」
アルドが訝しむ。聖霊たるルルナが同席する場で村人がココミの指示に異を唱えるとは考えにくい。しかし、村人たちの表情はどこか浮かない。
「どうしたんだ、ココミさん?」
アルドが声をかけると、ココミはこちらに気づいて駆け寄ってきた。少し頬を膨らませ、むくれたような表情だ。復興の本格的な作業はココミが主軸となって行うこととなっている。しかし、問題が起こってしまったようだ。なんとか解決できればと、そう思いながらココミの言葉を待った。
「あ、アルドさん! それがですね、皆さん、新しい家にお花を飾りたくないって言うんですよ!」
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