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鑑定

5/30まで、平日(土日祝は休み)に投稿していきます。


 一方、隣室では――。


 ココミは隣にいるであろう刀武家のおじ様の様子を、じっと自身の天恵(ギフト)である『鑑定眼』で探っていた 。彼女の両目には複雑な幾何学模様――鑑定眼を発動させるための制御式が淡く輝き続けている 。


(この『鑑定眼』は、MMO『ストラクト・フォンズ』で生活系ランキング1位になった私だけに与えられた特別な力なんだよね 。運営さんの説明だと『事物の本質を見抜く』ってことだったけど・・・ )


 確かに、アイテムを作るときの材料の状態とか、製作工程とかを詳しく見るのにはすっごく便利だった。人に対して使えるのは、あくまでオマケみたいな効果だと思っていた 。


(だけど、この世界に来てからは、そのオマケの効果の方がずっと大事な情報を教えてくれる)


 だからこそ、今もこうして、おじ様の状態に変化がないか、あるいは何か隠された情報はないか、注意深く観察し続けられる。

 ココミは小さく呟いた。


「特に変化はないよ。魔力カロリック濃度は上がったけど、おじ様はNPCのままで変わりなしかな。私たちのように来訪者の称号はない・・・って、ちょっと待って。あ・る・・・ど? アルド(古代人)の称号が新たに表れたよ!」

「くくく、ついにイベントが始まったな!」


 と鼻息荒く、興奮気味のタンスイ。腕組みをして再び「くくくっ」と笑いを繰り返す。多分、それに続く言葉を思いつかなったのだろう。ココミは「黙ってて!」と片手をタンスイの口をふさいだ。なおも鑑定眼を使い続けようとするココミに背後から声がかかる。


「ココミ、鑑定はもう十分だよ。その力は気力を削ぐのだろう? これ以上の負担は体にダメージを残してしまう」 

「大丈夫だよ、ユキナ。私は大丈夫。それにさ、刀武家のおじ様は問題なかったけど、もしかしたら周囲に別の変化が起こるかもしれないし、気を付けて観ていないとね」

「しかし、最近は過度に使い続けているんだ。荒事ならば、私とタンスイに任せてくれればいい」

「ありがと。でも、皆を守るのがギルドマスターだからね。だからもう少し任せてて」


 結局ココミの気迫に押されて、ユキナは頷くほかなかった。ユキナにとってはギルドよりもココミが無事であればそれでいい。それがストラクト・フォンズをプレイし続けていた理由でもあった。


ユキナは軽く頭を振って、思考を切り替えた。ココミの努力を無駄にはできない。そのためにも、まずは自分に出来ることを――もう一度、状況を正確に把握しなければ。


そもそも、先ほど隣室にまで聞こえるようにしていた私たちの会話は、私が仕掛けた罠だった。この世界のことをまだ掴みきれていない私たちにとって、あの『刀武家』は警戒すべき敵か、それとも仲間として迎え入れても問題ない相手か。その本質を見極める必要があった。私の発案にココミとタンスイは快く同意してくれたが、その根底にあるのは、万が一にもココミに害が及んではならないという、私の絶対的な信条だ。だからこそ、まずはこちらが無防備であると見せかけて油断を誘い、彼の『ボロ』を引き出すための布石を打ったのだ。


だが、彼が露呈した『ボロ』は、私の予測とはあまりにも質が違っていた。

この突発的で、強大すぎる魔力カロリックの高まり。もし彼が私たちの寝首をかくつもりなら、こんなにもあからさまに力を顕示するのは悪手に他ならない。こちらの警戒心をいたずらに煽るだけで、何の利益もないからだ。


(考えすぎていたのかもしれない。あの刀武家は、私たちと同じプレイヤーだとばかり思っていたけれど・・・)


事の発端は私の勘だった。論理を好む一方で、私は自身の直感――不意に訪れる囁きを何よりも重視する。だからこそ「あの刀武家のおじ様は、素性を隠したプレイヤーではないか?」という勘を信じ、慎重に動いていた。ココミの天恵(ギフト)である『鑑定眼』を疑うわけではない。だが、もし彼がそれを上回る天恵(ギフト)で素性を偽装している可能性も捨てきれなかったのだ。


しかし、プレイヤーであれば、これほど無防備な失態を犯すだろうか?


(疑心暗鬼がすぎた、ということかしら・・・)


少なくとも、彼は私たちを出し抜こうとは考えていない。そう結論付けた方が自然だ。そう思考と直感の両方が囁きかけてくる。


「ユキナ、これ以上の変化はないみたい。魔力カロリック濃度も低下していってるし、これで終わりかな」


 ココミが安堵の息を吐く声で、ユキナは思考の海から意識を引き上げた。そして、すかさずユキナは、肩で息をしているココミの体を支えた。相当に気力を使ったようだ。ユキナは労わるようにココミの頭を撫でる。無理をさせ過ぎた。ココミの安全を優先する作戦が、逆に無理を強いさせてしまうことになるなんて本末転倒も良いところだ。まったく自分自身に腹が立つ。と、そこでようやくユキナは、隣部屋に行こうとするタンスイに気付いた。


「弟君っ、どこに行くつもりだ? ここはもっと慎重にならないとっ」

「大丈夫だって。ちょっくら、イベントを間近で見てくるぜ」


 戦闘上位者だからといっても警戒心がなさすぎだぞ、と。ユキナとココミは慌ててタンスイの後を追う。しかして、追いついたときは時すでに遅く、タンスイが隣部屋の扉を大きく開け放っていた。


 ぐごごおー。


 と、寝息が響いている室内。どうやら本当に件の刀武家は寝入っているようだった。


「も~、タンスイ。慎重に行動しなきゃダメって言ってたでしょ」

「ああ、まあ大丈夫だって。何かあったら俺の大剣が悪鬼どもを蹴散らすだけだからさ」


 タンスイの悪びれない言葉が引き金となり、姉弟の言い合いはさらに騒がしさを増していく。

 その光景にユキナは、やれやれと内心でため息をつきながらも、その視線は扉が開け放たれた先の寝台――刀武家のおじ様に向けられていた。微かに上下する胸元、穏やか?な寝息。


(・・・リアルでの権謀術数には多少慣れているつもりだけれど、これは・・・流石に本当に眠っているだけね。本当に無防備すぎるわ)


 先ほどの尋常ならざる魔力カロリックの高まりの原因など、引っかかる点はまだ残っている。だが、少なくとも今は警戒するほどの状態ではなさそうだ。


(少し、疑いすぎていたのかもしれない。それよりも今は、あの騒がしい姉弟をどうにかするのが先かな)


 ユキナは思考を切り替え、賑やかな二人の方へと意識を戻した。


 そして、夜は静かに深まっていく。

 彼らは簡単な夕食を済ませると、すぐに行動を開始した。負傷した村人たちの手当て、食事の準備、そして見回り。朝を迎えるまで交代で、眠る間も惜しんで動き続けた。


 それはギルドマスターであるココミが、「この世界に生きている人たちと寄り添って、私たちのギルドは歩んでいきます。まずは村人の皆の怪我が治ることに全力を注いでいくよ!」と力強く宣言したからだ。その言葉に異を唱える者はいるはずもない。

 過酷な作業ではあったが、村人たちとの間に確かな信頼が芽生え、そしてココミたち自身も、この世界で『生きている』のだという実感を深めていく、かけがえのない時間となっていくのだった。


ご一読いただきまして、ありがとうございます。

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