4-3 夕食にて
食事は、静かに進んでいった。 それは、まるで、誰もが、自分の心の中に、閉じこもっているかのようだった。
「ショージ、その斧、ほんまに家宝にするんやな?」
父ちゃんが、突然、そう言った。そして、その声は、いつもと同じように、穏やかだった。
「せやで、父ちゃん。女神様にもらったんやからな。大切に、後世に伝えていかなあかん」
オレは、そう答えた。しかし、その言葉は、まるで、自分自身に言い聞かせているかのように、空虚だった。
「そうやな。正直者の行いは、必ず、報われる。それに、家宝は、大切に、後世に伝えるもんや」
父親は、そう言って、頷いた。そして、その顔は、まるで、何かを悟ったかのように、穏やかだった。
それは、まるで、自分が、正しいことを言っていると、信じているかのようだった。
(父ちゃん…、また、始まったな…、いつもの、ザ道徳的だぜ、みたいな話…いやオレも正直者やねんけどちょっと違うような気がするねんなあ)
オレは、心の中で、小さくため息をついた。そして、その時、初めて、オレは、尊敬していた父親の価値観と、自分の価値観が、少しづつ、かけ離れていることを、感じた。
クリスは、黙って、父親の話を聞いていた。その表情は、どこか、複雑そうだった。
(ほんまに、これで、ええんやろか? この家、ずーっと、貧乏やのに、こんな、貴重な斧を、家宝にするなんて…、でも、おじさんに、そんなこと、言えるわけないしな…)
クリスの心の声が、聞こえた気がした。そして、その声は、オレの心に、小さな棘のように、突き刺さった。
母ちゃんは、いつものように、黙っていた。その姿は、まるで、人形のように、感情がなかった。
(母ちゃんは、どう思ってるんやろか? 母ちゃんの心の中も、覗いてみたい…、でも、母ちゃんは、いつも、何を考えてるのか、わからへん…)
オレは、母親の顔を、じっと見つめた。しかし、その瞳は、いつもと同じように、静かで、そして、何も語らなかった。
「まあ、ええやろ。今日は、もう遅いし、みんな、早く、寝るで」
父ちゃんは、そう言って、食事を終えた。そして、その言葉は、まるで、この会話を、終わらせたかったかのようだった。
「せやな、お父さん。今日は、もう寝よ」
母親も、父親に、同意した。そして、その声は、いつもと同じように、無感情だった。
「ああ、そうやな。クリスもそろそろ帰りぃ」
オレは、クリスの顔を、ちらりと見ながら、そう言った。そして、その時、初めて、オレは、クリスに、罪悪感を抱いていることに、気がついた。
それは、まるで、裏切り者のような、罪悪感だった。
「せやな。明日も、あんたは仕事やしな?」
クリスは、そう言って、オレに微笑みかけた。しかし、その笑顔は、どこか、悲しげに見えた。
「おう、そうするわ。クリスも、早く、寝えや、またな。」
オレは、クリスに、そう返した。