3-1 帰宅後
クリスは、オレの姿を認めると、すぐに、眉をひそめた。
その顔は、まるで、鬼のように、恐ろしかった。
「ショージ! あんた、何時やと思ってるんや!?
いつも、日が暮れる前に帰ってこいって、言うてるやろ!?」
クリスの怒鳴り声が、静かな夕闇の中に響いた。
それは、まるで、雷のように、オレの鼓膜を揺さぶった。
「す、すまん…、ちょっと、道に迷ってな…」
オレは、クリスの剣幕に、圧倒され、どもりながら答えた。
そして、その時、初めて、嘘をついていることを、自覚した。
「道に迷った? そんな嘘、誰が信じるんや!?
いつも、同じ道通ってるやろ!?」
クリスは、怒りを露わにした。
そして、その怒りは、まるで、炎のように、オレを焼き尽くそうとしていた。
「い、いや、ほんまやねん。ちょっと、変な木を見つけてな…、それで…」
オレは、なんとか、言い訳をしようとした。
しかし、クリスは、そんな言い訳を、許してはくれなかった。
「変な木? そんなもん、どうでもええわ!
あんたは、夜の森が、どれだけ危険か、分かってるんか!?
野盗もおるし、獣もおるんやぞ!
何かあったら、どうするんや!?」
クリスの言葉は、厳しく、そして、優しかった。
それは、まるで、オレのことを、本当に、心配しているかのように、優しかった。
そして、その優しさは、オレの心を、少しだけ、癒してくれた。
「す、すまん…、もう、二度と、こんな時間には帰ってけえへん…」
オレは、クリスに、謝った。
そして、その時、初めて、クリスが、オレのことを、本当に、心配してくれていたことを、理解した。
「ほんまに、分かってるんか?
もし、お前に、何かあったら…、あたし…」
クリスは、そこで言葉を詰まらせた。
そして、その瞳には、涙が浮かんでいた。
(クリス…、お前…)
オレは、クリスの言葉に、胸を締め付けられた。
そして、その時、初めて、クリスも、オレのことを、異性として、意識しているのではないか、と感じた。
それは、まるで、心の奥底に眠っていた感情が、目覚めたかのように、温かかった。
「すまん、クリス。もう、心配かけへん。約束する」
オレは、クリスの肩に手を置き、そう言った。
それは、まるで、親愛の情を、伝えようとしているかのようだった。
「もう、ええわ。とりあえず、中に入り。夕飯、冷めてまうで」
クリスは、そう言って、顔を背けた。
しかし、その頬は、少しだけ、赤く染まっていた。
(クリス…、ほんまに、ええ女やな…、でも、なんでやろ、オレの心は、まだ、女神様を求めている…)
オレは、自分の気持ちの矛盾に、困惑した。
そして、その時、初めて、自分の心が、なんだか分裂してしまっていることを、自覚した。