2-2 家に帰る
(それにしても…、クリスは、どうしてるんやろ? あいつ、オレが遅いから、心配してるかもしれへん…、いや、絶対、怒ってるやろな…、いつも、日が暮れる前に帰ってこいって、言うてるのに…)
ふと、クリスのことが頭をよぎった。しかし、その感情は、女神のことを考えていた時と比べると、明らかに、弱かった。それは、まるで、霞がかかったように、ぼんやりとしていた。
(いや、クリスも、大切やで。幼馴染やしな…、でも、女神様は…、あかん、また、女神のことを考えてる…、もう、ほんまに、どうにもならへんな…、このままやったら、オレは、女神様の虜になってまう…)
オレは、自分の思考を制御することができなかった。それは、もはや、意志の力では、どうすることもできない、本能的な衝動だった。そして、同時に、自分の体が、制御不能な状態に陥っていることに、気がついていた。
(ま、ええか…、今は、家に帰って、夕飯食べよ。そして、明日、また、女神様のところへ行こう…、それに、酒も飲みたいしな。ちょっとだけ、飲んだら、落ち着くかもしれへん…)
オレは、そう考えながら、足取りを早めた。そして、その時に、初めて、この衝動の根源が、女神にあることを、はっきりと自覚した。そして、その欲望は、もはや、理性では、制御することのできない、危険なものだということも、感じていた。
小道を抜けると、見慣れた家の灯りが見えた。
夕闇の中に、ポツンと浮かぶ灯りは、オレの心を、少しだけ、安堵させた。
しかし、その安堵は、すぐに、不安へと変わった。
なぜなら、クリスが、家の前で、腕組みをして、立っていたからだ。