第71話 Wish / 願い
「あー。えっと、そっちにもメリットがあるっていうのはわかった。……それじゃ、改めて言わせてもらうよ。俺の願いは、この世界と元の世界を可能な限り自由に移動できること。もちろん、時間も含めてな」
うん。
神様に提案してもらった願いだけど、俺もこれがいいと思う。
「ハクトくん。君の願い、確かに聞かせてもらった。……それじゃあ、その願いを叶えるための試練を与えようじゃないか」
そう宣言した神様は、少し考えるように目をつぶった。
……試練、か。
神様にも都合がいい話とはいえ、世界の間を自由に往復したい、という願いだ。
おそらく、その願いに相応しい試練が与えられるだろう。
……俺に、達成できるのだろうか。
なんて考えていると、神様が目をひらいた。
「うん。やっぱり、君にはこの試練がいいだろう。……それじゃあ、ハクトくん。君に与える試練は……」
俺が、達成すべき試練は……。
「魔界と人間界が積極的に交流するための切っ掛けづくり、だね」
……え?
てっきり、この目標を達成せよ! みたいに試練を与えられると思っていた。
けど、提示された試練は交流の切っ掛けをつくるという、目標も達成方法もあいまいな内容だった。
「おや? なんだか、思っていたのと全然違った! みたいな表情をしているね」
「あー、えっと。何かすごい魔物を倒して来い、とか、秘境にある貴重な薬草を取ってこい、みたいな感じの試練だと思ってたんだけど……。なんというか、ちょっと抽象的な感じだったからさ」
「なるほど。漫画とかいう、クエストや依頼みたいなものを予想した、って感じかな? ……ああ、そうか。ハクトくんは願いと試練について、さっき聞いたばかりだったね。ハクトくん、この世界の人たちが願うものって、なんだと思う?」
うーん。
例えば、七夕とか神社でお願いするような内容、なんだろうか。
それでいて、他の人への悪影響がないものって感じかな?
「……何かを始めるためのお金とかが欲しい、とか、自分や他人の病気を治してもらったり、健康で長生きができるようにしてほしい、とか?」
定番である試験に合格したい、とかは、他の人が落ちてしまうことになる。
だから、その手のお願いはだめだろうな。
そう考えると、例えばお店を始めたいけど資金がないからお願いする、とかはありそうだ。
それと、大変な病気を治したい、とか、恋人や家族と長く一緒に過ごしたいっていうお願いもありそうだよな。
ソフィアからも、そういったお願いがあるって聞いたしな。
「ふむふむ。一部正解、って感じかな。寿命を延ばしたい、とか、どうしても治らない病気を治してほしい、なんて願いは実際にあるからね。……皆が僕に願うのはね、その人がどんなに望んでも、どんなに努力しても、絶対に叶えられない願いなんだ」
……ああ、考えてみればそうだよな。
自分が頑張れば叶えられそうな願いなら、神からの試練を達成しようと考える前に、自力でなんとかしようとするだろう。
「だからね。その願いに対する試練、というのは、その人が今までに歩んできた人生によって変わるのさ。その人がどんなに努力しても叶わない願いが、今までにしてきた努力の延長線上で叶うように、ね」
神の試練というのは、本来絶対に手が届かない何かを、一生懸命手を伸ばせば届くかもしれないものにするってことなのか。
……それは、すごくいいシステムだと思う。
努力をしても報われない、なんてことはよくあるけれど、これはその人が今まで努力してきた結果を元に試練が出される。
つまり、今までの頑張りが報われるかもしれない、というものなんだな。
「でも、それぞれに対して試練を与えるって大変じゃないか? 天使が対処できない願いは神様に判断をお願いする、みたいに聞いたけど、ほとんどが神様の判断が必要そうに思えるけど」
「ああ、実はそうでもないんだ。願いと言うのは、いくつかの種類に分類できてね。それに該当する願いであれば、自動的に判断できる魔道具のようなものがあるのさ。この願いに対しては、今までの努力で何ポイント溜まっていて、それを叶えるのには後何ポイント必要です、みたいにね」
買い物のポイントみたいな感じなのかよ!
さっきまでいいシステムだな、って感動していたのが台無しなんだが。
「ちょっと冷たく感じたかな? でもね。こうすることで、全員に公平な試練を与えられるんだ。それに本人たちは、その過程を知ることはできないからね。……君以外は」
……確かに、そうかもしれない。
そして、何だか知ってはいけない秘密を知ってしまった! みたいになってるけど。これ大丈夫だよな?
「も、もしそれを他人に言ったら?」
「……ふぅむ。神様から聞いたなんて言ったら、そうだね、気の毒そうな顔をされるんじゃないかな。それに、似たような願いには似たような試練が与えられる、っていうのは一種の常識みたいになってるのさ。だから多分、問題はないんじゃないかな?」
「いや、それなら脅かすような言い方をしないで欲しいんだか」
「はっはっは。いや、すまないね。なかなかこういった機会もなくて、ついはしゃいでしまったよ。……うん、それでは話を戻すとしようか。……魔界と人間界が積極的に交流するための切っ掛けづくり、というのが君に与えた試練だね。これは、君がこの世界に来てからの行いを元にしているのは、わかるかい?」
「ああ、それはわかる」
この世界に来てから、色んな人と出会い、交流してきたからな。
そこには魔族を含め、色んな種族や立場の人がいたしな。
「この世界で君が行動した結果、エルフやドワーフに一般的な人間族である普人族、そこに魔族が加わって仲良く食事をしたり談笑をしたり、ゲームで遊ぶ、なんて光景が生まれたんだ。……実は、ソフィアを通して君が皆と交流する様子を見させてもらったんだ。皆楽しそうにしていたし、僕もその光景を見て、とても嬉しく感じたよ」
「確かに、俺が切っ掛けでそうなったのかもしれないけど、最初から俺がそうしたいって行動したわけじゃないんだ。……ただ、仲良くなった人たちが実現したいことを手伝いたい、って思ったくらいで。それに、大体は巻き込まれるような形ばっかりだったしな」
うん、そうだよな。
魔皇たちみたいに、長い間魔族と人間の関係をどうにかしたいと考えていたわけでもないし、アキナみたいに、何かを通じて魔族に興味を持ってもらおう、なんてことを考えていたわけでもない。
……そう考えると、俺に与えられた試練は、本当に俺が達成できるものなのだろうか?
「なあ、神様。俺に与えられた試練は、俺が達成できると考えて提示したんだよな?」
「もちろんだとも。……ふむふむ。ハクトくんの考えを読ませてもらったよ。確かに、最初は君が自主的に動いたわけじゃない。けれど、君が皆と仲良くしたいと思わなければ実現しなかったことでもあるんだ。それにね、この試練というのは必ずしも君一人で頑張る必要はないんだ」
「え、そうなのか?」
試練、っていうくらいだし、自分自身の力で乗り越えろ! みたいな感じかと思ってた。
「試練と言うのは今までの努力の延長線上にある、って説明したよね? 君自信が今までに築いてきた繋がりも、君自身が努力した結果に該当するのさ。だから、君がその繋がりを使って試練を達成しようとするも、当たり前に認められることなんだ。それに、今日みたいに僕に相談しにくる、というのも大歓迎だよ! 神様パワーでなんとかして、みたいなリクエストには答えられないけど、ね」
……それなら、何とかなるかもしれない。
今まで出会った人たちは、すごい人たちばかりだった。
そんな皆の力を貸してもらえるなら、試練を達成できそうな気がしてくるな。




