第7話 空から女の子が! (普通に飛んできた)
六属性それぞれの球を撃つ練習を確認していると、遠くの方から声が聞こえてきた。
「お~い! ****、そこで何やってるの~? それと隣にいるのは人間だよね~?」
と、声が聞こえてきた。
空から。
うまく聞き取れなかった部分はホムラのことを呼んだのだろう。
……というか、空から聞こえた!? っと思い空を見上げてみると、そこには黄緑っぽい色のショートヘアーな少年? がこちらに向かって飛んで来ていた。
「というか、飛んでる!?」
「風属性の魔法だな。ハクトも練習すれば飛べると思うぜ。俺も飛べるが、風属性の魔族は本当に自由自在に飛ぶし、重たいものを軽々運んだりしてるな」
なんて会話をしている間にもこちらにどんどん近づいてきており、すぐ近くに着地した。
飛んでいる時は少年にも見えたが、近くで見ると中学生くらいのボーイッシュな少女って感じだ。
「こんなところに人間がいるなんて珍しいね。何してたの?」
「ああ、こいつはハクトっていって異世界から来た奴でな。魔法の使い方を教えてたんだ。ハクト、こいつは……ってお前も人間界での名前はなかったな」
「ボクには必要ないからね!」
そういうと彼女がこちらにずいっと近づき
「っていうか異世界から来たって言ってたよね!? いつこっちの世界に来たの? 魔法の練習をしてたって言ってたけど、どのくらい魔法を使えるの? それに異世界ってどんなとこなのか色々聞きたい!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
好奇心に満ちた緑色の目で見つめられながら質問攻めにあっていると、ホムラが彼女の頭にげんこつを落とした。
……めっちゃ痛そう。
「ふぅ。……ハクト、こいつは好奇心が旺盛でな。異世界人なんて珍しい存在に興奮しちまったらしい。それといたずら好きだから気を付けろよ」
「いたたた……。もう! もうちょっと違う方法はなかったの!? それに初対面の人にいたずらはしないよ~!」
なんて言いながらホムラにつっかかっていった。
「はははっ! わりぃわりぃ。というか名前を呼べないってのは地味に不便だな。ハクト、オレにつけたみたいに、こいつにも名前をつけてみないか?」
「ん? どういうこと? 名前って?」
「ああ、オレはハクトに”ホムラ”って名前をつけてもらってな」
なんてホムラが説明すると
「え、なにそれなにそれ! なんだかカッコいい響き! いいな~! ボクにもつけて!」
と目を輝かせながら俺に話しかけてきた。
「うーん。あ、えっと、君の属性を聞いていいか?」
「ん? ボクは風属性だよ~。魔族はね、瞳とか髪の毛に特徴が出ることが多いんだ~」
少し詳しく聞くと、火属性は赤、風属性は緑、水属性は青、土属性は茶色、光属性は黄色、闇属性は紫や黒、もしくはそれに近い色が出てくることが多いらしい。
「そんなことより名前だよ名前!」
なんて急かされたため、すぐに考えることにした。
風属性か……。
うん、見た目がボーイッシュな感じだし、活発そうな感じってことで、これでいこう!
「”颯”っていうのはどうだ?」
「ハヤテ? ハヤテ、ハヤテ……。 うん、いいね! 気に入った! ありがと~!」
何て言いながら彼女、ハヤテは嬉しそうな表情をしていた。
「それで、ボクの名前の文字はどう書くの? この紙に書いてみて! それとこれがペンだよ!」
「お、そういえばオレの名前も聞いてなかったな。こっちの紙に頼むぜ」
と空間魔法で紙やペンを出してきた。というか空間魔法って便利だな。すぐに使えるようになるかわからならいが、後で教えてもらおう。
「まず颯っていうのがこういう漢字。ここの右側に書いてる部分が”風”って漢字だね。俺の世界の漢字って文字は複数の漢字とかを組み合わせたりして一つの漢字にすることもあるんだ」
まずはハヤテから紙とペンを受けとり記入すると、漢字について説明してみた。
「で焔がこういう漢字。ここの左側に書いてある部分が”火”って漢字だね」
次にホムラの紙も受け取り、さっきのペンで記入してみた。ちなみにペンは魔道具のようで魔力を流す部分があった。
「なるほど、オレの属性の漢字も入ってる文字なんだな! ますます気に入ったぜ!」
「いいねいいね! 後で皆に見せびらかせるために、状態を保存する魔法をかけとこ~!」
なんて、さらに喜んでくれた。ホムラには名前を決めた時に漢字も教えてあげればよかったな。
「ってハヤテ。見せびらかすのはいいけど、見せた全員から名前をねだられるってのは勘弁してくれよな!」
「それは大丈夫! 欲しがるのは多分後4人くらいだし、皆属性が違うからね!」
「え、4人もいるの! というかそれって全部の属性の名前を考えるってこと!? ホムラ、どうにかして!」
さっきのようにハヤテを止めてくれることを期待してホムラに頼ったが、
「あー、いやすまん。オレも名前をもらっちまったからな。2人だけずるい、とか、うらやましいとか言われそうだしなんとか考えてくれ」
ダメそうだ。……仕方ない、今すぐってわけじゃないんだ。属性も分かってるし、きっと未来の俺がなんとかしてくれるだろう。頑張れ。
「はぁ……。わかった。後で考えておくよ」
◇
その後、ハヤテも加えて魔法の練習をしてみた。
特に飛行魔法はハヤテに俺を抱えてた状態で飛んでもらうことで、魔力の使い方を理解することができた。
けど、空を飛ぶってのは制御が難しいようで、とりあえず身体を少し浮かす程度しかできなかった。
というか、俺よりかなり小さいハヤテに抱えられて飛ぶ姿は、傍から見たらかなり情けなかったのではないだろうか?
空間魔法や転移魔法も教わりたかったが、こっちは使えるようになるまでに時間がかかるらしい。
空間魔法は自分専用の空間を開き、それを少しずつ拡張していくために時間がかかるようだ。
転移魔法は最初は見える距離から練習して、慣れてきたら転移先のイメージだけで遠くまで移動する感覚をつかむようだ。
魔界と人間界を移動する時は、かなり強いイメージと魔力が必要だと教えてもらった。
それと、転移先を強くイメージする必要があるので、転移は行ったことのある場所にしかできないようだ。
うーん、本人の性能がチートでも流石にすぐにできるってのはなさそうか。
とはいえ、これらはかなり高度な魔法らしく、普通は魔道具で何とかしているっぽい。
転移は転移門、空間魔法は鞄や箱などに付与された物があるので、そちらを使うらしい。
魔族は長生きなので、練習して使えるようになる者も多いようだけど。
◇
そうして魔法の練習や時々会話を挟んでいたら日が傾いていた。
「魔法のみの模擬戦ならそろそろできるんじゃねぇか? 手加減するからやろうぜ!」
なんて言われたけど、何かと理由をつけて断った。
いっそ魔物でも連れてきて……、なんてつぶやきが聞こえてきたが、気のせいのはずだ。
気のせいだけど、飛行魔法のイメトレを積極的に練習しておこうかな。
「もう夕方か。そういえばこっちに来た時も日が高かったけど、俺が元々いた場所と、ここの時間は大体同じってことでいいのか?」
「ああ、そんな感じだな。というかそろそろ夕飯の時間か。ソフィアのいる教会に送っていかないとな」
「ちょっといいかな! ボクから提案なんだけど、名前を付けてくれたお礼に、ボクのおすすめのお店に行こうよ! もちろん奢りだよ!」
なんてハヤテが提案してくれたが、俺は魔界の街には入れないことを説明した。
「大丈夫! ソフィアは友達だから、その街にも何度も行ったことがあるし、おすすめもそこにあるお店だよ! というか話を聞いて、最初からそこのお店に行こうと思ってたし!」
ということで、ハヤテおすすめのお店に行くことになった。