8話 鳥の民と翼の生えた少女
キヤメとルシェは並んで茶色の翼についていく。
「あんたたち、冒険者よね?ここはドッバの森よ?火を起こすなんて、あまりにも無知じゃない?」
「俺らまだ冒険者じゃなくて旅人なんだ。俺はまだ生まれたばかりみたいなもんで、この子は常識知らずの深窓の令嬢なんだよ…。」
「失礼なっ!」
「なんかよくわかんないけど…。駆け落ちなら止めといた方がいいわよ。」
「失礼な!」
2人が声を揃えたのは2回目だった。
ガサガサと森林を抜けると、開けた土地についた。暗く、光源がどこにも見当たらない。
「ここがドッバ村。鳥の民の集落。真夜中だから宿屋はどこも閉まってるわ。あたしの家で良ければ泊めたげる。」
少女は振り向かずに歩き続ける。キヤメとルシェは顔を見合わせた。ルシェは野宿をしなくていいという事実に顔が綻んでいる。
「あ、ありがとうございます!ちょうど泊まるところに困っていて…。お名前を伺ってもいいですか?」
「あたし?キージュ。見てわかると思うけど、獣族の鳥の民。ここでは偵察役をしてる。」
キージュは振り向き、胸を張った。ルシェは小さく拍手をする。
「ここよ、あたしの家。どうぞ入って。」
「お邪魔します。」
ルシェはおそおそと入る。キヤメはうとうとしながらルシェの後に続いた。
「あなたたちの部屋はここよ。今寝具を持ってくるから、ちょっと待ってて。」
キージュは2人を置いて部屋を後にした。
「あの翼いいなぁ…もこもこしてて素敵。触りたい…。」
ルシェがうっとりとする横で、キヤメは相変わらずうとうとしていた。
「おまたせ。この部屋は、私の兄貴が使ってた部屋なの。好きにくつろいでいいわよ。部屋を出てすぐ右にトイレとシャワーがあるから好き使ってね。」
「何から何までありがとうございます…!」
「気にしないで。時々あんた達みたいな人が森にいるから、ここに泊めてるの。あたしは隣の部屋にいるから、なんかあったら来てちょうだい。じゃあおやすみ。」
キージュは説明を終え、自分の部屋に戻って行った。既に寝ているキヤメに毛布をかけたルシェは、初めて家の外で寝る興奮を抑えつつ眠りについた。
「あんた達!起きて!朝!!!」
キージュが勢いよくドアを開け叫ぶ。
ルシェとキヤメは飛び起きた。
「ん…?あれ、ここどこ…」
「もう少し寝かせておっちゃん…。」
「寝ぼけてないで起きる!朝ごはんを食べたら一緒に働いてもらうから!」
キージュは無理やり2人を起こして歩く。
ルシェはようやく目が覚めたようでふらふら歩くキヤメの背中を押した。
「そういえばあんた達…、別々の部屋にした方が良かった?男女が狭い部屋の中って…。大丈夫?えっと…。」
「私の名はルシェです!こっちはキヤメ!よく分かりませんが、問題はありませんでしたよ。」
ルシェはガッツポーズをしながら笑う。
「そういえば、あんた深窓の令嬢って言われてたね…。どっかの貴族様なの?」
「んー!まぁそんな立派なもんじゃないですけどね!本当に立派じゃないんですけど一応貴族です。あ、気を使う必要は一切ありませんので!」
「あ、そうなの?じゃああたしのことも気軽に呼び捨てで読んでちょうだい。それと、朝ごはん食べながら色々聞かせてよ。旅人とか冒険者の話を聞くの好きなんだよね。」
リビングに到着するとキージュの母らしき人がいた。
「あら!キージュが連れてきたお客さんってこの人たち?思ってたよりもずっと若いわ!キージュと同い年くらいじゃないの?もしかして…駆け落ち!?」
「あたしもそう思ったんだけど違うらしいわよ。こっちのお嬢さんは貴族なんだって。」
「あら!ご令嬢がどうして森の中に?逃げてきたの?使用人と禁断の恋とか!?」
「だから駆け落ちじゃありません!わたしと彼は昨日出会ったんです。」
「え?そうなの?なんだ、じゃあ冒険談とかはまだない感じ?」
「うーん…。昨日は冒険と言えば冒険だったのですけど…。」
キージュの母は木の実や果物などが乗った皿を人数分出した。
「あっ、貴族様に出すには貧相かしら?」
「いえいえいえ、問題ないです!なんなら私は朝ごはんなんてたまにしか食べられなかったので、あるだけでありがたいです!」
ルシェの発言に、キージュとキージュの母の表情は固まる。
「あなた…本当に苦労してきたのね…。いっぱい食べなさい…。」
キージュの母はルシェの皿に大量の果物を追加した。あわわわ、と困るルシェを横目に、キヤメはいただきますと手を合わせ食べ始めた。
食卓にある新聞が目に入る。キヤメは「げっ」と声を上げた。キージュの母がそれに反応する。
「あぁ、それね。昨晩、大貴族のゼーテ家のご令嬢が誘拐されたんですって。私はお目にかかったことないけど、町民にも優しくて人気の方だったから、町ぐるみで捜索しているらしいわよ。ゼーテ家の次期当主のショウ様によると、ルシェ様は銀色に光り輝く髪を持っていて華奢な方らしいわ。犯人は獰猛な顔をしていて、左目に変な模様が入っていて、左腕が黒く、そまっ…て…。」
ルシェは顔を覆って俯き、キヤメは
「俺が悪者になってるじゃないか!」
と机を叩いた。
キージュと母は、数秒絶句した後、
「イヤーーーーーー!」
と叫んだ。
「ど、ど、どうしよう!犯人泊めちゃった!犯人泊めちゃった!!!というか、めっちゃ立派な貴族じゃん!!!!!」
「お、お、落ち着いてキージュ!大丈夫よ!まずはルシェ様を保護し」
「落ち着いてください!!これは誘拐事件ではありませんから!!!」
ルシェは叫ぶ。
「ほら!ここ!見てください!犯人と私はタスートの裏の森に入っていったって、お兄様は証言しているでしょう!私たちは逃げてきたんです!」
キヤメが腕を組み頷く。キージュが何か言おうとした時、コケー!!!と外から大音量で聴こえた。
「やばい!時間だ!事情は移動しながら聞くから!とりあえず行こう!!!」
キージュは椅子から飛び降りて走る。
ルシェとキヤメも後に続く。
「待ちなさい!!」
キージュの母がキヤメの腕を掴み止めた。キヤメは振り払い逃げようと思ったが、キージュの母はキヤメの腕に長いグローブをはめた。
「狩猟用のものよ。これで腕を隠して行きなさい。ひとまず、あなたたちのことは内緒にしておくから。」
「!!!ありがとうございます!」
キヤメは置いていかれるまいとルシェたちの後を追った。