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7話 進路

フクロウの鳴き声が森中に響く。

悪夢に魘されていた少女は飛び起きる。全身に汗をかき、呼吸は恐怖に怯えている時と同じように酷く乱れ、震えていた。


「あにき…。」


少女は小さく呟き、毛布をぎゅっと抱き締めた。

キッと前を向き、毛布を投げ捨てベッドから勢いよく降りる。狩猟用のいつもの服に着替え、弓矢をもち、黒いリボンで燃えるような赤い髪を結んだ。


少女は家のドアを開け、大きな羽を広げて飛び立つ。悲しみや恐怖から逃げるように。










まんまるな月が2つの影をつくる。


「お兄様とは、ここ数年会話らしい会話がありませんでした。あれほど仲良かったのにと寂しく思っていましたが、今思って見れば、キッチンにあった残り物や、私の部屋の前にあった服はお兄様の仕業だったのかも知れません。」


「あんなに愛されてるのに!?」


キヤメとルシェは屋根の上からハシゴで降りた後、月が照らす道を歩き始めていた。


「とりあえず旅に出てみたけど、どこに行くとか決まってるのか?」


「うーん、そうですね。とりあえずまずは、タスートで色々揃えて行きましょう。その後はドッバの森です。」


2人は真夜中でも賑わっている商業の街入った。


「気をつけてくださいね。キヤメ。タスートは世界でも大きな街です。人が多い分、犯罪も多いので。私たちのような小娘と小僧は格好の餌食ですよ。」


「俺小僧に見えるの?」


「私よりも2歳ぐらい歳上じゃないんですか?ああ、記憶が抜け落ちてるんでしたね。」


他愛もない会話をしながら、ぼんやりとした光源が照らす衣服屋へ着いた。


「いらっしゃいお客さん!冒険者かい?」


「いえ、冒険者ではありません。ちょっとした旅人です。眼帯と、長袖の服をいくつかいただきたいのですが。」


「え?俺眼帯つけるの?」


「わかった。ちょっと待ってね〜。引っ張り出してくるわ。」


女店主はそう告げてしゃがみこみ、箱を漁り出した。女店主は獣族らしく、狐のような耳が生えている。


「だって眼帯付けないとあなたの目を隠せないじゃないですか。」


「いやそれはそうなんだけど…。目を隠すのはなんか嫌なんだよな…。」


「あなたにとって眼帯は鎧です。申し訳ないですが、我慢して付けてください。」


ルシェは毅然と言う。キヤメは文句ありげに

えー、と呟いた。


「おまたせ!眼帯と、たぶんこのお兄ちゃんの着替えだよね!何着か選んだよ。」


「ありがとうございます。お代は?」


「少年少女がこんな時間に大きな荷物背負って服を買うなんて…、もしかしてお客さんたち…」


女店主はニヤニヤと笑ってキヤメとルシェを交互に見る。2人はゼーテ家の騒動がバレたのかと冷や汗をかく。


「…駆け落ちだね?」


「は?」


2人は初めて声を揃えた。


「いやー分かるよ。実はあたしも駆け落ちしてこの街に来たんだよ。アマニ村ってとこから。移動商人の旦那に惚れてね〜!」


「いや!私たちは…」


「この服たち持っていきな!応援してるよ!」


ふわふわのしっぽをぶんぶんと回しながら服をキヤメに持たせる。


「ほら!さっさと行きな!逃げな!もしアマニ村に行くことがあっても、あたしのことは秘密だよ!というか、あたし達のことは誰にも言わないでおくれ!」


女店主は背中を押す。2人は困惑したままとりあえず店主に礼を告げて歩き出した。



「俺ら出会って1日も経ってないのにな。」


「お互いのことすらよく知りませんしね。勢いのある人でした。まぁ節約できたし良かったですね。あとさっきお財布の中を見たのですが、金貨が大量に追加されてました。お兄様の仕業ですね。」


「うわ、どうりで荷物が重くなってるわけだ。」




タスートの街を出て2人は森に入った。ゼーテ家の追っ手から逃れるために。


しばらく森の中を進み、休憩をとることにした。

ルシェはぽっと指先から炎を出して焚き火をつくる。ルシェに命じられ、キヤメは嫌々眼帯を装着した。


「いやー、いろいろあった1日でしたね。」


「本当にな。」


「そういえば、あなたはこの世界のどこまで分かるんですか?」


「えーっと、まず創造神っていうのが誰?っていうのと、タスートは分かるけどアニマ村は聞いたことがない。今この世界にいる民族もよく分からないし。」


「そんなにですか?じゃあまず民族を説明しますね。」


ルシェは三本の指を立てる。


「まず大きく3つの民族がいます。人族、獣族、神族、ですね。そこから人族から機械の民、獣族から鳥の民、神族から魔の民みたいな感じで派生しています。」


「ルシェは?」


「人族人の民です。人族は1番人口が多いですね。人族は半分以上が、特殊な能力も何も無い人の民です。2番目に多いのが獣族です。」


「その族同士が争うことはもうないのか?」


「大昔に大戦争がありましたが、創造神様が何とかしてくださったそうで、最近はこれといったものはありません。ただ、その大戦争の遺物や、まだ危険な思想を持った人々はいるので、冒険者と呼ばれる協会に属している人達が討伐していますね。ただ、協会が討伐できない組織もありますから注意が必要です。特に、機械の民には近づかないでください。」


「俺が分解されるやつね。俺らは旅人のまま過ごすの…?」


「いえ、タスートの街ではゼーテ家がいるので、別の街で登録しようと考えています…って、キヤメは眠そうですね。まぁ細かいことはおいおい教えますよ。」


「そりゃ、真夜中だし疲れたからな。ルシェは眠くないの?」


「あいにく、野宿は初めてなもので…。」


「まぁ慣れだよなぁ。」


キヤメは地面に寝転がった。月はいつの間にか移動し、満天の星空が輝いている。




キヤメが寝転がった瞬間、キヤメの顔面を矢が通過する。キヤメは飛び起きた。


「なにごとですか!?」


「ルシェ、火を消して!」


キヤメは叫ぶが、2本目の矢がルシェの足元の地面に突き刺さる。


「…ルシェ、ここ大人しく投降しよう…。大丈夫だ。盗賊じゃない。俺らの様子を伺ってるだけだ。」


キヤメはルシェを諭し、両手を上げる。ルシェもそれに倣った。



黒い夜空から弓矢を持った赤髪の少女が舞い降りる。少女は大きな翼を持ち、長い髪を黒いリボンで結んでひとつにしていた。


「こんな夜中に、何してるの?ここがどこだか知らないの?煙が上がっててびっくりしたわ。悪いけど、あたしの村まで来てもらうわよ。ついてきて。」



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