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6話 月下の逃亡劇終幕

「なんですか!?なんですか今の!」


「知らない!知らない!!」



ルシェを抱えながらキヤメは走る。


当主が屋敷中に「ルシェと男を捕まえろ」と命令を発したので、メイドとそのゼーテ家の人々がウロウロと屋敷中に蔓延っている。あらゆる扉は閉められ、簡単には動けない状況だった。



「さっきの剣で壁壊せませんか?」



「あれ消えちゃったし、どうやって出したのかわからないんだ。必死だったから、身体が勝手に…。」



「そんなぁ…。もう、なんで私はあの場所であんなことを言ってしまったんでしょう…。」



「今考えたって仕方ないだろ。あっ!俺の目を狙う組織ってああいうやつ?」



「ああいうのもあります。いい例でしたね。」



メイドが通ったのが見れたので2人は棚の後ろに隠れる。



「まさか最初の敵が家族になるとは…思っていませんでした。私は家族との交流が少なく、もとより仲はそこまでだったのですが…。」



「おばあさんは熱心な信者だったんだろ?なんで息子の当主はあんななの?」



「おばあ様のことをそこまで好きじゃなかったようです。おばあ様に懐いていたのは、私と、お兄様だけでした。」



コソコソと喋りつつ移動する。



「探知的な魔法使う人はいないのか?」



「そんな便利な魔法知りませんよ。複雑な魔法は、魔導書を完璧に理解することで習得が可能です。まぁ異例は沢山ありますが…。ですが、魔導書を読んでも魔力がいっぱいないとどうにもなりません。そもそも、魔導書はそこら辺にあるもんじゃありません。めっちゃ貴重なものです。」


すると火の玉がふよふよと浮きつつ、少年が


「お姉様〜?どこにいらっしゃるんですか?」


と連呼しながら歩いているのが見えた。


2人は止まる。


「キッチンの荷物をとって行きたかったのですが…。無理そうですね。私の2年が詰まっているので、惜しいですけど…。」


ルシェはぎゅっと拳を握った。


「一旦外に出た後に裏口から取りに戻ればいい。とにかく外にでよう。でも、外に通じる扉も窓も締め切られてるし…。」


キヤメは腕を組む。ルシェははっとして顔を上げた。


「私、いい所知ってます!!」








2人はいくつかの階段をそろりそろりと登り、先程の本で埋め尽くされた部屋にきた。


「ここは夜の間だけ天井の窓が開くんです。おばあ様が月が好きだったので。よくここで秘密のおしゃべり会をしたものです。」


ルシェが懐かしそうに語る。ドアノブをひねり、開けるとルシェの表情が固まった。キヤメも息を飲む。


「やあ、ルシェ。ここに来ると思っていたよ。」


ショウが先程ルシェが正座をしていた隙間に立って手を振っていた。


「お兄様でさえも私たちの邪魔をするおつもりなのですか?」


ルシェは怒りと悲しみが混ざった顔をした。


「ここで、おばあ様と私とお兄様で秘密のおしゃべり会をしたのに…。」


ルシェは震える。キヤメは黙ってショウを睨みつけていた。


ショウは黙ってキヤメに近づき、ルシェの2年の努力が詰まった鞄を持たせた。



「僕の小さな妹にこんな大きな重い荷物を持たせないでくれないか?長い旅になるんだろう?」


ショウは扉を閉めながら言う。


「ルシェ、実は僕はね。一度も食前の祈りを、あの変な神に捧げたことはないんだ。僕はずっと創造神様を信仰しているよ。」


ショウは威圧も何も無い、兄として優しさに溢れた笑みを、ルシェに向けていた。



「今までごめんね。次期当主としてこの家を守るには、当主にあからさまに歯向かう訳には行かなかったんだ。僕は僕なりの方法でこの家を守るよ。教会への文書の偽装、とかね!」



震えるルシェを抱きしめ、ショウは続ける。



「冷遇されるお前を守れなくてごめんね。食事も、服も、十分に与えるように手配していたんだけど、足りなかったよね。」



「お兄様…。本当ですか?私…。何も知らないで、先程あなたを侮辱しました…。ごめんなさい…。」



「いいんだよ、本当のことだし。もっと言われても仕方ないくらいだ。お前の旅を僕は応援してるよ。昔一緒に読んだ御伽話の神様を見つけて来てね。この部屋も、本も僕が守ると約束するよ。」


月明かりが2人の美しい兄弟の白髪を照らす。


「さぁルシェ、お別れの時間だ。道中、身体には気をつけるんだよ。手配はするから、たまに顔見せに来てくれたら嬉しいな。」


「はい、お兄様!」


ルシェはショウに支えられながらハシゴを使って外に出た。


「ところで、キヤメさん?」

ショウが美しい兄妹劇を退屈な劇を眺めるように見ていたキヤメにぐるりと顔を向けた。先程の笑顔は嘘だったのかと言いたくなるように威圧を放ちニコニコと笑っていた。


「うぇっ!?はい!!」


キヤメは思わず背筋を伸ばしいい返事をした。


「あなたの目は、どんなに危険なものか、わ!た!く!し!の!妹が説明したよね?」


「えっ、はい!説明されました…。」


「あなたの目を狙う人達がわんさかいることも知っているんだよね?」


「は、はい…。」


キヤメはか弱い返事しかできなかった。


「あなたは重要な手がかりだから、連れていくなとは言えません。だから、」


「命を懸けて私の天使を守ると誓いなさい。この腐敗した家の中で唯一咲いた私の花で宝物なんだ!傷一つつけるな!」


「はい!!!」


ショウは満足したようににっこりして、はよ行けとハシゴを指さした。


屋根の上ではルシェが座って待っており


「何話してたんですかー?」


ときょとんとしていた。


部屋の中からショウが叫ぶ。


「タスートの街から出てすぐのドッバの森に行きなさい!こっちは何とかしておくから、いってらっしゃーーーい!!!」


ルシェは満面の笑みで中を覗き、月に照らされ銀色に光る髪を揺らしながら


「いってきまーーーーーす!!!」


と大きな声で叫んだ。



第一章 旅スタートタスート終幕です!

ルシェとキヤメの旅が本格的に始まりました!

近々忙しくなる予定なので一気に投稿です。

第二章 はもう少し後に投稿予定なので、もし良かったら見守って頂けると嬉しいです。

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