3話 自分探しの旅
「…旅って?」
「そのまんまです。創造神様を探す旅です。」
「ええ…?」
ルシェはまだキヤメの手を掴んでいた。小さな手のどこにそんな力があったのか、抜こうとしても、キヤメの黒い手は見えなかった。
「でも、ルシェって冷遇されているとはいえ、一応名家のご令嬢なんだろ?そんな旅とか行っていいの?」
キヤメは手を離すのを諦め、掴まれていない手で頬をかく。
「常識から言ったらだめだと思います。でも、私だって一応年頃の女の子ですし、家出したっていいでしょ。こんな家なんだし。」
えー?と困る様子のキヤメを見なかったように、ルシェは続ける。
「それに、キヤメ。あなた自分の立場分かってますか?」
「え?」
キヤメは顔を上げてルシェと目を合わす。ルシェはようやくキヤメの手を離し、キヤメの目をビシッと指さした。
「あなたの腕はともかく、目の模様は知る人ぞ知る特殊なものです。この世界にはもう何百年前に姿を現されることがなくなった創造神様について研究している方がたくさんいらっしゃいます。私のようなね。」
ルシェは自分の胸に手を当てるながら言う。
「キヤメのような身体的特徴を持つ人は私の知る限りどこの文献にも載っていません。つまり、あなたは研究材料として素晴らしい人なんです。機械の民とかに見つかってしまったら、キヤメは分解されてしまいますよ。」
「機械の民?こっわ。」
キヤメは開放された手で自分の身体を抱きしめた。
「あなた機械の民すら知らないんですか…?意識が目覚めてからの半年間、どのように生き延びていたんですか?」
キヤメはこの質問に頬をかきながら答える。
「なんか盗賊?のおっちゃん達に起こされて、服とか色々恵んで貰ってー、しばらくおっちゃん達と一緒に森の中で生活してたんだけど、半年経ったし自立しなって言われて金とか色々もらって、で、現在仕事を探してるって感じかな。」
「盗賊に恵んでもらったんですか!?あなたどれだけ哀れな姿だったんです?」
「あんまり覚えてない!」
「あんまり覚えてない!?」
キヤメはニカッと笑う。ルシェは呆れた。
「本当に意識が目覚める前のことは分からないのですか?」
「ああ。記憶喪失ってより、抜け落ちてるって感じかな…?なんとなくのことはわかるんだ。タスートは商業の街って感じに。」
「本当に謎の人ですね…。」
ルシェもキヤメも腕を組み悩む。うーん、と言いながらルシェは考え、少しした後に口を開いた。
「私の創造神様を探す旅にあなたが同行するメリットを2つ思いつきました。まずひとつ、あなたを狙う人々から逃げることができます。あなたはひとつの場所に留まってはいけません。ふたつ、あなたは少なくもと必ず、創造神様と関わりがあります。ですから、この旅をすることによって自分とは何なのかを知ることができます。」
ルシェは指で数えながら説明する。キヤメはうんうんと頷きながらニッと笑って
「自分探しの旅ってことだな!」
と言った。
「世間で言われている自分探しとはかけ離れていますけどね…。」
ルシェは困ったように笑う。
「よし、俺もその旅について行こう。俺も俺の事知りたいし、ルシェの手伝いもしたいしな。仕事も見つからないし!出発はいつだ?」
ルシェは目を輝かせて言った。
「今夜です!!!」