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2話 ルシェの理由

少女は無言で走り続ける。キヤメは無言で引っ張られ続ける。少女がぜーはーと息を切らしながら、大きな屋敷の前で止まった。少女は深呼吸をして


「ここが、我がゼーテ家の屋敷です。中へ入ってください、お兄さん。お話があります。」


「え?うん。はい。」


キヤメは戸惑う。そして自分が何かやらかしたのだろうかと記憶を探るが、分からなかった。


とりあえずゼーテ家の関係者であろう少女の後を追った。門から玄関までの距離が遠く、玄関に来る頃には少女は再び息を切らしていた。



どんな巨体でも通れそうなほど大きい扉をくぐり、屋敷の中へと入る。玄関でメイドが数人掃除をしていたが、少女を見ても何も反応しなかった。それどころか、こちらを見てヒソヒソと喋っている。いい話題では無さそうだった。


少女は慣れているのか、凛としていて先程までの疲れはどこへやら、スタスタと歩いていた。



いくつかの階段を登り、おそらく屋敷の最端であろう部屋に少女とキヤメは入った。中は本棚の森のようだったが、本棚が倒されていたり、散らばった本のせいで足の踏み場がないほど散らかっていた。しかも日光が入っていないのでとても暗かった。



少女はキヤメの正面に立ち、


「突然話しかけたり連れてきたりしてごめんなさい。」


と謝った。キヤメはいろいろなことが同時に起こりすぎて混乱しており、はぁと気の抜けた返事しかできなかった。


「まず自己紹介からですよね。私、ルシェって言います。ここゼーテ家の長女です。あなたは?」


「俺はキヤメ。」


「キヤメさん、ですか。もしかして、何かをしている最中だったりしましたか?お仕事の休憩時間とか。」


「さん付けしなくていいって。何もしてなかったから平気。仕事もないしね。」


キヤメはヘヘッと自虐する。ルシェは安堵した。


「では、キヤメ。あなたをここに連れてきた理由を説明します。まずあなたの目をよく見せてください。」


ルシェは人差し指を立て、指先からパッと光を出した。


「それ、法術?ルシェって人だよね?使えるの?」


「法術とは、古臭い言い方しますね。魔法です。私の祖先は創造神様に仕えていたので、人よりも多く魔力を授かったんです。これ常識だと思ってたんですが、知らなかったんですか?」


ルシェは首を傾げる。キヤメも首を傾げる。


「知らない。そもそもゼーテ家なんて聞いた事ないし。」


「嘘でしょう?タスートの街にいたのに、そんなことも知らないんですか?」


光に照らされたルシェの顔が驚きに満ちていることがわかる。


「タスートの街に来たのはついさっきだ。タスートの人たちって、この腕と目だけで雇えないって判断するほど冷たい人たちだったか?呪いだ何だ言ってさぁ。もう少し柔軟だった気がするんだけどなぁ。」


少女は絶句した。そして、少女の口角が震えながら上がっていく。


「な、なんだよ。そんな面白いこと言った覚えないぞ。」


「違います!違います!あなたは、私が、私たちが探し求めていた人物である可能性が高いんです!!!」


少女は叫んだ。あまりの勢いにキヤメは仰け反る。少女は興奮した様子で1冊の本を浮かせ、キヤメの前に持ってきて写真を指さした。


「ほら!これ!あなたの目の中にある模様そっくりでしょう!?」


複雑な形をした魔法陣だった。確かに、キヤメの目の中に入っている模様と酷似している。


「この魔法陣は、創造神様が何らかの印として使ったとされるものなんです!!それが体の1部に入っているということは、あなたは創造神様と何らかの関わりがあるってことなんですよ!!」


ルシェは嬉しそうに喚く。キヤメは頭の上に?をつけていた。


「創造神様ってなに?」


「は?」


ルシェは口を開けたまま眉間に皺を寄せた。


「創造神様を知らないってなんですか?あなたって別世界の住人なんですか?」


「わからない。俺は半年前に意識が目覚めた。それ以前の記憶は無い。どこにいたのか、どんな風に過ごしていたのかは知らない。」


ルシェの口は塞がらなかった。









2人は本をどけ、空いた隙間に正座していた。ルシェは人差し指から光を離し、頭上に留めた。


「待ってください。あなたの事情はちょっと一旦置いといていいですか?予想以上に面倒くさそうです。」


ルシェは頭を抱える。


「どうぞどうぞ。ルシェがなんでこの目を追っていたのか知りたいしな。」


「そうですね。まず、私の目的は偉大なる創造神様の存在を確かめることです。」


笑いたきゃ笑ってくだい、ルシェはまっすぐにキヤメの目を見て言う。ルシェの目には迷いがなく、意志の強さを物語っていた。


「それなぜ?」


「理由は2つ、いや3つあります。1つ目が、この家のためです。玄関でのあのメイドたちの態度を覚えていますか?」


キヤメはメイド達の冷ややかな視線と陰口を叩いているようなこそこそ話を思い出した。


「私は現在この家で冷遇されています。それは、私が創造神様の存在を信じているからです。」


ルシェは俯く。凛とした姿は影もなく、傷ついている少女の姿だった。



「ゼーテ家は、先代当主の祖母が亡くなってから変わってしまいました。現当主は創造神様の存在を否定し、別の神を信じています。怪しい宗教に浸かってしまったと考えていただければ早いです。」


「従者も、私の兄弟も、お母様でさえ、その神に魅了され、創造神様への信仰を捨てました。もとから、古い考え方よりも新しい考え方の方が好きな人達ばかりだったんですけどね。」


ルシェは自分の服をぎゅうと握りしめる。ルシェの服は、名家の令嬢にしては綺麗な服ではなかった。


「ゼーテ家は、創造神様があってこその家です。創造神様から授かった魔法で今日に至るまで繁栄してきました。それを、創造神様を否定し、どこの馬の骨かもわからない神に富を貢ぐ。これでは、民衆に顔向けができません。祖先の方々にも、どう謝罪すればいいか…。」


ルシェはキヤメに涙が浮かぶ目を向けた。


「創造神様の存在を証明し、落ちぶれたゼーテ家を立て直す。これが1つ目の理由です。」


ルシェはゴシゴシと目を擦った。


「その神は、どんな神なの?」


「創造神様は自分だと主張する醜悪なやつです。あらゆる偉大な人物の生まれ変わりでもあるとも主張していて、奇跡を操って人を救済するというアホくさい組織です。現当主は重い病気の際にその奇跡に救われたそうで、今では家中信じきって金を貢ぎまくっています。本当の創造神様ならお金は貢がせないに決まってるのに。」


「でも重い病気が治ったのなら、本当の奇跡なんじゃないの?」


「なわけないじゃないですか。あいつが使っていたのはれっきとしたした魔法です。私はその魔法を知っていたのに、現当主は聞く耳も持ちませんでした。」


ルシェの瞳の涙は消え、ただ怒りの炎が上がったのが見えた。


「ルシェは魔法に詳しいのか。ゼーテ家の当主よりも。」


「はい。それは2つ目の理由にも関わってきます。」


ルシェはポケットから1枚の写真を取り出した。


「これは先代当主、私のおばあ様の写真です。私は家の中で1番おばあ様が好きでした。毎日部屋に入り浸り、熱心な信者だったおばあ様から創造神様の話を聞いたり、魔法を教わっていました。おばあ様の夢は、創造神様に直接会って祈りを捧げることだったと、最後に私に教えてくれました。だから、おばあ様の夢を私が叶えたいのです。可能なら、もう一度おばあ様に会いたい。」


キヤメは笑って頷いた。


「いいな。その理由。」


てへへとルシェは恥ずかしそうに笑う。


「そして3つ目の理由が、本当に単純なんですけど、私が創造神様のファンなんです。会ってみたい。」


ルシェは顔を手で覆って呟く。キヤメはルシェに手を差し伸べた。


「ルシェが創造神に会いたいは理由がわかった。俺を見て喜んでたのは、俺が創造神の存在の証拠になるかもしれないからなんだね。いいよ。俺の目で良ければ自由に研究に使ってくれ。」


ルシェはキヤメの手を握る。


「いえ、あなたは研究メインでは使いません。あなたには、私の旅に同行してもらいます。」


ルシェの小さな手は力強くキヤメを掴み、逃がす意思がないことを伝えていた。キヤメはひゅっと息を飲んだ。



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