15話 金色の腕輪
「遅いです〜!どれだけ心配したか!」
わあわあと泣きながらルシェと村人はキヤメを出迎えた。
「ごめんって。ヒニル様はキージュが倒したよ。キージュは今いろいろ確認中だから、近づかないようにお願いします。」
キヤメがそう報告すると、村人達は歓声をあげた。村長がキヤメと握手をしながら、
「ありがとう!君たちは村の英雄だ!」
と褒めたたえた。わいわいとキヤメを取り囲む。しかしキヤメはげんなりとしながら、言いにくそうに呟いた。
「とりあえず、シャワーを貸していただけませんか…?鼻が曲がりそうで…。」
身体を清め、ルシェからの治療が行われた後、村人から様々な報告を受けた。
火事の原因は、あのキージュをからかった青年のうちの一人が悪ふざけにろうそくをつかっていたら、うっかり倒してしまったこと。
キージュが大量の遺品を抱えて戻ってきたこと。
ルシェが怪我人全員を治療したこと。
なんなら火事の消火にも雨のように水を振らして貢献したこと。
消火作業が終わって森に殴り込みに行こうとするルシェを止めることが消火より大変だったこと。
「もしよければ、村の英雄を讃える宴を開きたいと思ってるのだが、どうかな?」
キヤメとルシェに村長は伝えたが、2人は首を横に振った。
「もうおわかりになっていると思いますが、私たちは例のルシェ様と獰猛な顔をしている犯人です。」
「誰が獰猛な顔をした犯人だ!」
「あまり長く滞在すると、この村自体が共犯になってしまいます。私たちは今すぐにでも出発します。あとこれは誘拐事件じゃないので!」
ルシェはきっぱりと言った。キヤメも頷く。村長は残念そうに笑う。
「わかった。しかし、あなた達は村の恩人であり、俺の息子の仇討ちを果たした人達だ。その恩返しぐらいはさせてくれ。もちろん、箝口令も敷いておくから。」
村長達から大量のお礼の品を貰い、まだ月が沈まないうちに出発の準備を終わらせた。ルシェはすっくと立ち上がる。
「さぁ、行きましょうか!…ねぇ、キヤメ?耳を貸してください。」
キヤメはルシェの口元に耳があるように身体を傾け、ルシェは背伸びをしてこしょこしょ喋った。
キヤメは笑って頷いた。
ルシェとキヤメがひっそりと村から出ていくのを、村長一家のみが送ることになった。
「本当に村を救ってくれてありがとう…!あなた達は村の英雄だ。もし追っ手がきたら、ハチャメチャに誤魔化しておくから安心してくれ。」
村長とキージュの母はにっこりと顔を見合わせた。キージュはもじもじとばつが悪そうに俯いている。
「あの、キージュ。」
ルシェはキージュに駆け寄り、手を握った。
「あなたさえよければドッバの森を抜けたあとも、一緒に旅をして、欲しいです。突然で、すみません。」
ルシェは好きな人に告白するかのように顔を赤らめた。キージュは面食らって何も反応できていない。
「あなたは弱虫キージュかもしれませんが、弱くないのです。あなたはいついかなる時でも逃げなかったじゃないですか。私をイノシシから救ってくれたり、キヤメを助けたらしいじゃないですか。」
キージュの顔は固まったままだが、涙が浮かんだその目は、ルシェの真っ直ぐな眼差しを逃がさぬように受け取っていた。
「あなたのお兄さんのためにも、私たちと冒険しませんか?もとい…共犯になってくれますか?」
キージュはいつかのように乱暴に目を拭った。後ろを振り返り、自分の両親を一瞥する。両親はにこやかに笑って頷いた。
「あたしは、ばか兄貴のために旅なんかしないわ。あたしのために、弱虫キージュはもういないって、空高く届くくらい証明する旅がしたい。あたしを、あなた達の旅に連れてって。」
「もちろんです!」
「そうと決まれば準備だ!急げキージュ!」
キヤメとルシェは笑って迎える。キージュは前から準備していたかのような速度で荷物を揃え、黒いリボンで赤い髪を解けないように結び、腕輪が輝く腕を大きく振って
「行ってきます!!!」
と、キージュは故郷を後にした。
「行ってしまったわねぇ。やだ、お父さん泣かないでくださいよ。私も泣いちゃうでしょう。」
「仕方ないだろう。弱虫キージュは村の誰よりも勇敢になったんだ。ワシギのように、誰かを守り抜いたんだぞ…。」
「さぁさ、まだやることはたくさんありますよ!今日からは夜にも安心して火を使えますからね。また火事が起きないようにしないと。」
「そうだな。箝口令をしいて、弱虫キージュと言っていたやつらには鉄拳制裁を食らわせないとな!!!」